運命の終わる時
「そうだな、終わらせよう」
オルドは構えたまま静かに言った。背後の水面をちらりと見る。
「私もお前も人殺しだ。償わなければならない」
「ふん、知ったことかっ。こうして体を奪われ利用される愚か者が、悪いのだ」
「愚か者だと? 私は彼らの名を忘れたことなどない。エンジ、アルマ、ケッサイ、レイリ、ミササギ。大きな犠牲を払って生きた私もお前も孤独だ、そして我らこそ愚かだ、消えるべきなのだよ。私は自らを犠牲にしてでも、お前を止めなければならないと思っている」
悲しげなオルドの言葉を、フルメンは首を大きく振って否定する。
「黙れ! ノル・ゼノジュイ、貫け、剣舞よ!」
オルドの周りに無数の刃だけの剣がどこからともなく現れ、彼に向かって放たれたが、オルドの守りの魔法で全て弾かれた。
落とされた剣は、薄くなり消えていく。
「どうした、なぜ攻撃しないっ?」
「クストス、あなたは悪くない。全ては私のはじめたこと、最後まで私が背負っていく」
オルドはフルメンの言葉を無視すると、クストスに声をかけた。
「じゃが」
「テナ・ゴルカニトス、破壊せよ」
オルドの魔法が発動し、フルメンに向かって床を割るように亀裂が走る。フルメンはそれを守りの魔法で防ぐと、そのまま違う攻撃魔法を唱える。
「痺れろ!」
「痺れろ」
同質の強さを持つ電撃がぶつかり合い、避けるようにフルメンは後ろに下がった。二人の距離が離れる。
「君たちも私を憎めばいい。私は許されるべきではない」
「あなたは……」
三人の中でセセラギがつぶやいたが、それ以上言葉にならず目を伏せた。ヨルベも、シルワを支えながら悲しげに見ているだけしかできない。
「君たちの未来は託す、生きてくれ」
「無駄話も大概にしろ。クロノトル・ドネ、痺れ果てよ!」
フルメンの強力な電撃を魔法で防ごうとしたが、わずかに遅れてしまい、オルドは衝撃の反動で膝をついた。息を整える。
「どうした、こんなものか? 平和の中で腕がなまったか?」
「そうかもな」
オルドの淡々とした返事に、フルメンは顔をしかめると指を鳴らした。それを合図に、部下たちが魔法を唱える構えをとって見せる。
「では趣向を変えよう。それ以上抵抗しようとすれば、あいつらが死ぬぞ。だがオルド。お前にとってはあんな者たち大事でも何でもない、だろう?」
そう言った瞬間、部下たちがセセラギたちに向けて攻撃魔法を発動したが、オルドが発動した守りの魔法がそれを防いだ。
セセラギたちが驚いた眼を向けたが、オルドはフルメンに視線を向けたままだ。
「ほお、これは何と。それがお前の答えなのか? こいつらを守って代わりに死ぬのか? 無駄なことをして死ぬと言うのだな!」
フルメンはオルドに近づいた。部下たちに魔法を放たないように指示をする。
「無駄じゃないさ……、後は頼んだ、好きにしてくれ」
ゆっくりと立ち上がったオルドは、宙に視線を向けてからフルメンに向き直った。そう、これで良かった。
「強がりを、はははっははっ! ようやくだ、この日を待ち望んだ
フルメンは複雑な文様を宙に描いた。追うように、オルドも同じような文様を描く。そうして、二人は同時に唱えた。
「レニカ・ゴルゼ!!」
「レニカ……」
オルドの詠唱は力強いフルメンの声にかき消されたが、二人の複雑な紫の法陣は同時に展開され、白をまとった紫色の光がそれぞれの法陣から弾けた。
目を射抜くほどの光で、その場にいる全員が反射的に目を閉じた。
そして光が収束した頃、全員が目を開けると変わらない様子で、二人はそこにたたずんでいるように見えた。勝負はついていないかのように思われた。
だが、少し時間がたった時、片方の体が揺らめいた。
揺らめいたオルドの体はバランスを崩すように、背から倒れていった。後ろの水面に向けて落ちていく。シルワの叫ぶ声が響く。
彼は目を閉じると、安堵したようにほんの少し笑みを浮かべて誰にも聞こえないような声でつぶやいた。
「俺も、死ぬんだな」
次の瞬間、オルドつまりミササギの体は、打つような激しい水音をたてて水面に落ちた。彼女は許してくれるだろうかと胸の内で口にしたのを最後に、彼は意識を失った。
薄い水色の髪の乱れと水面の波紋が混ざり合い、美しい水色の軌跡を幾重にも作り出す。その体は水面に落ちると、コートの重さに引きずられているのか、そのままゆっくりと沈んでいった。
セセラギは思わず駆け寄ろうとしたが、部下に止められてできない。「兄さん」と思わず呼びそうになって声をとどめ、悲しげな顔で拳を握り締める。
オルドの魂が破壊され、空っぽとなったミササギの体は、水色の軌跡を描きながらも完全に沈んだ。
それをじっくりと眺め、己の魂に
それは、そばにいる者の腹を直接震わせるような、気持ちの悪い嫌な笑い声だった。
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