俺は泣きながら相棒との再会を誓った


ーー 一瞬の意識の空白の後、どこかでポン!と音が鳴った。何もなくなった筈なのに、ナニカから流れ込む物が俺の空白を埋め、今度はぎゅうぎゅうに詰め込んだ。体が浮遊し、真っ白な床に強かにぶつかる。

 

「ぐっ!」

 

その衝撃に覚醒し、起き上がって、腰をさすろうとしたが、動かない。明らかな違和感を覚えた。ぐいと女神の顔が度アップしてくる。


な、なんかさっきよりデカくないか?


ーーうふふ、すっかり可愛くなっちゃったわね


「へ?」

「……ふっ」

 

にんまりとした笑顔を浮かべ、女神が言う。堪えきれないといった様子で天使も吹き出した。

 

ーー床を見てご覧なさい

 

おそるおそる視線を下げる。床はいつの間にか白ではなく、透明になっていた。その中に、というか俺の真下に奇妙な生き物を見つけた。

くりくりとした赤い目と視線が合う。ソレは驚いた様に垂れていた長い耳を逆立てた。俺が慌てて立ち上がろうともがけば、ソレは短い手足をバタバタ動かした。ふうーと溜め息を吐けば、ソレも唇を尖らせる。

 

おそるおそる顔をあげ女神を見る。にんまりとした彼女の足元には彼女の姿が映っていて、天使も同様だった。


つまりだ、この床は鏡張りだ。つまりだなー。

 

 ふうー。Ok! 大体分かった。よっし!息をたっぷり吸い込んだかい?床を覗き込めばソレも同じような引き攣った笑顔を浮かべていた。


じゃあ、せーの!

 

「なんじゃこりゃーー?!!」

 

ーーふふ、それが新しい貴方です。貴方は過去の穢れた肉体を捨て、魔法妖精として新たに生まれ変わったのです!さあ魔法妖精よ!憐れな少女を救い、悪しき存在から彼女達とともに世界を守るのです!

 

「な、なんだってー!?」

 

さっきまでのシリアスはどうしたと言わんばかりの急展開についていけない。

 

━ハハッ、そんなもんブレックファストに食っちまったよジョニー!

━ハハッ、おいトニー、それはシリアルだろ?

━おっといけねえ、「ス」を「ル」にしちまったよ!

━ハハッ、このうっかりさんめ。スルーしておいてやるよ!

━おっ、上手いねジョニー!!

 

俺の頭の中でレインボーなTシャツを着たアメリカンがコメディを始めた。頭の中から彼らを蹴り出しつつ状況を整理する。

ていうかおれのからだ。

 

「というか魔法妖精って何ですか?」

 

ーーふふ、良いでしょう、レナス!

「はっ、ここに!!」

 

パンパンと女神が手を叩くと、なぜか意気揚々とした天使が何処からともなく厚紙の束を取り出した。

呆気にとられる俺を尻目に事態は進む。

 

ーーでは紙芝居、「魔法妖精リリィ!」のはじまりはじまり~

 

ーーむかしむかし、あるところに三つの世界がありました。それぞれの名は天上セレスティン、堕悪イーヴィル、そして誰の物でもある、混世セキュア。

 堕悪イーヴィル混世セキュアを自分達だけの物にしたいと考えました。そこで堕悪イーヴィル混世セキュアに嘆きを満たすことで己の物にしていきました。

 これを見た超絶美女女神、セレスは悲しみました。そこで己の力を混世セキュアの人々に分け与えることで世界を邪悪から救うことにしました。

 そこで生まれたのが魔法妖精です。嘆きの地にいる少女と契約を結ぶことで、彼女達に間接的に女神の力を分け与え、魔法少女とし、彼女達を助ける役目を、女神から授けられたのでした。リリィは今日も、邪な存在から世界を守るため、相棒の魔法少女と共に血みどろの戦いに赴くのでした。

 めでたしめでたし。

 

「全ッ然めでたくねー!リリィ最後しか出てこねー!」

 

ーーまあ、概要が分かればよいのです。学校で配られるパンフレットにあるマンガもしくは通信教材の広告についてくるマンガみたいなものです

 

「ああ、あの全然面白くないけどつい読んじゃうやつ。確かに同じような臭いがする」

 

「うぐっ!」

 

なぜかレナスとかいう天使が呻いているが、もしかしてこれ書いたのお前なの?

 

「まあ、要するにイーヴィルが攻めてきた土地に行って、そこにいるガキと契約して、イーヴィルと戦えってことだろ?」

 

ーーへえ、随分あっさりと言いますね?

 

「俺にはお前達を信用する術はないが、こうして転生させられた以上は従うしか無いからな。それに自慢じゃないが、俺のモットーは権力者には媚びろ!、だ」


ーーいやいや爽やかに言ってますがホントに自慢になってないですね! まあそれはともかく……


セレスが感情の読めない瞳でざっと俺を眺めた。

 

ーーふむ、多少イレギュラーでしたが。調節は必要なさそうですね

 

「……?」

「宜しいのですか?」


理解出来なかった俺を無視して主人を見上げたレナスに、女神は微笑んだ。


ーーええ、元より今回は私の気紛れですし、折角手に入れた原石にあまり手を加えても意味がありませんから。

 

「何の話だ?」

 

ーーいえ、貴方が正式に私の眷属となったということです。それと、先程の貴方の認識に誤りは有りませんが、付け加えておく事があります。まず一つ、私は魔法少女に魔法妖精を介して力を授けることで、セキュアに結界を張り、イーヴィルを退けています。つまり、セキュアの平穏は魔法少女と魔法妖精が居ることで成立します

 

「一般人よりも俺達の方が重要だと?」

 

ーーええ、その通り。次に、魔法少女がイーヴィルの手に渡る事を防ぎなさい。イーヴィルは「堕とす」ことに優れています。私の力を浴びた彼女達が敵に渡れば、セレスティンとセキュアにとって好ましくない結果をもたらすでしょう

 

「魔法少女は最優先で守れ、と。魔法妖精おれは良いのか?」

 

ーー貴方はある意味私の分身です。敵に渡る前に私が呼び戻すことが出来ますから

 

「なるほどな、大体分かった」


ーーでは後は実際に行ってみてのお楽しみということで!さあ、準備はいいですか?」


ワクワクとした顔でどこからともなくバットを取り出すセレス。


いやいや、ちょっと待てよ。それで何する気なの!? どこにもポールがないけど?!

なんなら俺は持ってたけどさっき取られたけどー?! なんでバットが赤い液でベトベトなのー?!


それに一番大事な話を聞いてねーよ!!


「ちょ、まった!! それで?俺の報酬は?」

 

ーーえ?

 

女神が可愛らしく首を傾げる。

 

「ん?だって、ホラ、労働契約したんだからさ、給料とか、ね?あるんでしょう?」

 

ーーあ、あー成る程、お給料ですか。ですが困りましたね。セレスティンには通貨という概念が存在しないのです


バットを下ろし、女神が困ったように眉を潜める。

 

「え、じゃあ、ご褒美は?」

 

ーー……貴方は私によって救われたのです。敬遠なる女神の使徒として、欲望ではなく信仰に生きていきませんか(いけるよな)?

 

語尾に隠れた本音にビビりつつ食い下がる。

 

「人は信仰のみでは生きて行けません。モチベーションアップのために、ね?ご褒美あったらもっと頑張れるかなー、って」

 

しつこく報酬をねだる俺に、女神が折れた。ふうー、と息を吐いて言う。

 

ーー仕方ありませんね。では貴方の働きに応じてポイントを授けましょう。ポイントを貯めて素敵な商品をげっと!ですよ

 

待っていた。その言葉を。と言っても俺が望むものはただ一つではあるが。

 

「へ、へー。因みに素敵な賞品ってどんなのですか?」

 

ーーふふ、それは、ひ·み·つです!

 

語尾に音符が付きそうなくらい、この女神ノリノリである。Uzeee!!聞きたいのはそんな事じゃないんだ。


ーもういい、単刀直入に聞かせてもらおう。

 

「◯◯◯はなんポイントですか?(自主規制)」

 

空気が凍った。ゴミを見る目でセレスとレナスが俺を見てくる。


目を閉じた女神がすっと息を吸ってから叫んだ。

 

 

ーー十億ポイントです!!

「そんなご無体なッ!!」

 

ていうか絶対今、適当に決めただろッ!!


ーーいいえ、これは決定事項です。女神に二言はありません。それとも諦めて残りのを清らかに過ごしますか?


バットを掲げ、そう笑顔のまま凄む女神に、逆らう術などある筈もなかった。


「……でも俺は諦めない。またいつか、必ずーー。ならば見ておけ、ポイント王におれはなる!!!」


妖精の叫びが虚しく天上セレスティンに木霊していく。

 

ーーこうして俺の十億ポイントを貯める物語が幕を開けたのだった。

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俺は笑顔《タダ》で魔法少女を酷使する 坂ノ木 竜巳 @Sakanoki

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