第2話

あのおばあさん、なんだったんだらうね。

ちょっとだけ気味がわるかったね。



と、隣にいたA子に話しかけると、A子は真っ青な顔をしていた。



ちょっと?アレヤバイよ。

よく見ると身体が震えている。



え?どうしたの?

私の問いにA子は声を震わせながら答えた。



アレを見てなかったの?


話を聞くと、どうも私が見た景色とA子の見た景色では少し……いや、かなりの食い違いがあったようなのだ。



猫が集まり出したところまでは違いがない。


その後、老婆が娘の話をし始めてから空気がガラリと変わったという。



老婆の娘さんが車に轢かれたと言うのは控えめな表現で、実際には悪質な殺人事件であった。


犯人は地元でも有名な富豪の息子で、一般道を酔っ払い運転をして暴走し、事故を起こしたのだ。


老婆の娘は、その事故に巻き込まれて亡くなった。


その後、事件は地方紙の片隅に掲載されはしたが、すぐに消えた。


老婆は裁判を起こそうと各方面に訴えかけたが、警察は事件性なし。

ただの交通事故として動かず、マスコミには無視された。

地方議員などに陳情したが、口ばかりで事件が実際に何か進展することはなかった。


事故後、警察が来るまでの間になぜか数時間の空白時間があった。

その間にアルコールが抜けたために、目撃証言は多数あったにもかかわらず、飲酒はうやむやになったのだ。



きっとアイツの親が裏でカネを使って事件をもみ消したんだ。

娘を殺したアイツはいまだに街を闊歩してる。

こんなに口惜しい事は無い。


老婆は悔しそうに顔を歪めながらその恨み節を語ったと言う。




私が聞いた内容とは、大筋であっているが、細部が、微妙に食い違うように感じられたし、何よりそんな恨み言を言っている様には聞こえなかった。


ただの言葉のとらえ方と言うような感じでもない。

そう感じはするが、どこがどう違うかは説明することができなかった。



さらに、A子は言う。



あの猫たち。

あの猫たちの顔も…… まるで私たちを監視するかのようにじっと顔を見てくるのよ。

あのおばあさんと同じ目つきで。



私には猫たちがそんな風に睨んできているとは感じなかった。



そういえば、老婆の話を細部まで覚えているわけではないのだけど、『虹の橋を渡った』

という表現は、ペットなどに使うのならよく聞くが、人に対してはあまり使わないようにも思う。

確かにいくつか違和感はあったのだ。




あの老婆は 自分の娘を殺した相手に関係する人間をああやって探しているのかもしれない。

と私は思った。


A子以外の友人たちはみな、私と同じで老婆に対しては悪い印象を持っていなかった。



A子はひょっとしたら、犯人と親戚関係にあるか、何らかのつながりがあったかして、老婆の恨みに感応してしまったのではないだろうか。




その後、私にもA子にも特に異変は起きていない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

スーホ @suho48

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る