第61話 決着。

「……」


「ヒヒーン!」


馬モンスターは、なかなか飛び込んでいかない。


ジキムートに警戒心を持っているようだ。


左腕には、奇怪なナイフの巣窟を隠していた。


豪勢な鎧のわりには身軽で、あまりに素早い動き。


この男の胡散臭さを、気にしているようだ。


「さぁ、どうしたどうしたっ! 俺はショートソード一本だぜ、お馬さんよぉっ!」


挑発するようにショートソードを見せつけ、ジキムートが馬モンスターを煽るっ!


「ブフッ! ブフルっ!」



すると馬が、横移動し始める。


その目線を遮るように、ジキムートが動いていく。


「ヒヒンッ!」


後ろを伺う、モンスターの目線。


「……」


それをさえぎり続ける、ジキムート。


「……。グフゥ……フシッ!」


すると――。


「ウラァっ!」


大声を上げ、傭兵が叫んだっ!


「ブヒッ!?」


驚く馬モンスターっ!


そしてまた傭兵が先手を取って、前がかりに走り出したっ!


馬モンスターが負けじと、走っていくっ!



「おっしゃあっ! 頼んだぜノーティスっ!」


叫んでジキムートが真っ直ぐ、馬に走りこむっ!


彼はショートソードを、馬の頭に突き立てようと……っ!


「ブフルっ! ヒヒッ。ヒーンッ!」


ヒュンっ!


ウマヅラが――飛んだっ!


低空で、勢いのあるジャンプ一翔っ!


まるで、地面に吸い付くように飛ぶ馬は、ジキムートの上を飛び越えたっ!


ドスンっ!


洞窟に響く、着地音っ!


そのまままっすにぐ、ノーティスのもとへっ!



「くっ!?」


怯えるノーティスっ!


このままではすぐにでも、ノーティスは八つ裂きだっ!


しかも……っ!


「アイツ……っ!」


くだんのジキムートは、そのまま真っ直ぐ、何事もなかったように出口方向に向かって、走って行っている。


ノーティスを置いてさえ行けば、外に出れるかもしれなかったっ!


「……っ!」


必死に走るジキムートっ!


(このままでは面倒な形になるっ! やはり最初に、逃げておくべきだったか)


悔やむノーティス。


身をひるがえそうとした、その時っ!


予想外の出来事が起きるっ!



フュンっ!


ナイフだ。


ナイフが、目の前から飛んできたのだっ!


「くっ……」


ザスンっ!


ノーティスの退路を妨害するように、ノーティスの頬をかすめ、壁に突き刺さるナイフっ!


それは当然、ジキムートの仕業だっ!



(嫌がらせ――。いやっ、逃げるなとっ!?)


彼の意図に気づくノーティス。


立ち止まり、彼女は笑った。


「大きなモノ、ね。こだわるなら見せてもらいましょうか、あなたのでっかいソイツを」


「ビヒヒーーッ!」


立ち止まってしまったノーティスに、歓声を上げる馬モンスターっ!


そして、目の前。


ノーティスの銀髪が、馬の鼻息で揺れそうな程の近くっ¥っ!


カンっ!


グズリっ!


刺さっていたっ!


「ギャァッウっ!?」


想定外の痛みに叫ぶ、馬モンスターっ!


背には、ショートソードが刺さっているっ!


刺したのはジキムートだっ!


「ふぅ、命中っ!」



「バスタードソードは、ショートソードを押し出す役目と言った所ですか。確かに、デカいと気持ちよく刺せるでしょうねっ!」


笑うノーティスっ!


ノーティスの目の前には、崩れた馬モンスターの体勢。


その瞬間っ!


「〝アイス・ストーム(氷円嵐撃)″っ!」


満面の笑みで、氷のつららを解き放つノーティスっ!


2・5メートルの氷柱が、目の前に現れるっ!


それが体勢を崩した獣の首めがけて、一気に加速していくっ!


これならば直撃だろうっ!


そして……っ!


ザスッ!


見事命中っ!


「ヒギーーーッ!」


獣が痛みに嗚咽を漏らす。



だが――。


「外したっ!? しぶといっ!」


獣は、寸でで逃げていた。


首ではなく、左肩の部分に突き刺さってしまう氷柱っ!


致命傷には程遠い、自分の魔法っ!


「だが今なら、氷柱の勢いに引きずられているっ! チャンスはココしかっ!」


馬モンスターにとどめを刺すべく、彼女は走り出したっ!


「ヒヒーっン!」


獣が叫び散らし、弱った体を立て直すっ!


血走った目で、迎撃の爪を振りかぶる馬モンスターっ!


すると――っ!


「……なーんちゃって」


笑って立ち止まるノーティスっ!


可愛く肩をすくめている。



「ギヒッ!? ガッ!?」


何があったのか分からない獣。


そして気づいたっ!


だがもう遅いっ!


「ウゥらぁぁっっ!」


獣の後ろから、ジキムートが走り込んでいるいる事にっ!


ウロコのガントレットをぶちかますべく、勢いつけて駆けていく傭兵っ!


そして……っ!


ガズリっ!


「ブヒーーーッ!?」


ジキムートのぶちかましに押し出され、背に刺さったショートソードが前に貫通してしまうっ!


完全に体勢が崩れた化け物っ!


「腹が飛ぶだけと……、思うなよぉおっ! てめえのデカいのも見せてやれっ! デカチチ女ーーーっ!」


叫ぶとジキムートが、ウロコを勃起させたっ!


シャギッ!


「ギヒッっ!?」


馬モンスターは背後で、無数の殺意が勃起する威圧感に、恐怖の声を上げるっ!


「るっさいんですよ、このゴリラーーっ!」


直後、ノーティスが思いっきり全体重を乗せ、馬に刺さった氷柱を蹴りこむっ!


ガスッ!



「ガァアッァッ!」


絶叫が木霊したっ!


ギリリっと肉に、巨大な氷柱がえぐりこまれ、絶叫する馬をモンスターっ!


「ガッ、ギャヒッ、ヒヒっ!」


衝撃にサンドイッチされた馬の背中は、ウロコのナイフまでもが、肉に食い込み始めたっ!


ジキムートが一歩進む事に、ノーティスに蹴りこまれた肩部の氷柱と、背中のナイフのガントレット。


双方が肉へと食い進み続けるっ!


「オラアアアッ!」


その手応えを感じた傭兵は、馬に負けじと叫び散らすっ!


脚力にモノを言わせ、獣を刺したそのままジキムートが、壁まで走って行くっ!


「ウオオォオォッ!」


ダンッ!


ジキムートとモンスターがそのまま、壁に激突。


そして……。


「グギャアアっ!?」


ボドッ!


衝撃で、肩に刺さった氷が完全に貫通し、馬の左腕が千切れて地面に落ちるっ!



「ガッ! ギャヒっ!?」


ガッ! ガッ!


壁に打ち据えられると、獣はすぐに大暴れしだしたっ!


馬は痛みに怒り狂い、後ろのジキムートに肘を打ち込むっ!


「クソっ!? 暴れんじゃねえよっ」


ブシャっ!


鼻から鼻血が飛び散るっ!


暴れる獣の肘撃ちを受けながらも、脚力で踏ん張り続けるジキムートっ!


ナイフで獣を壁とはさみ、必死に致命打にしようとするっ!


ぐっ! ぐずりっ!


傭兵が踏ん張る度に、えぐり出される黒い液体。


ジキムートの歩が進むたびに黒い筋が大きく、太くなっていくっ!


「ギャッ、ギャアアっ!」


すさまじい抵抗を見せ、ジキムートの頭を肘で殴りまくる獣っ!


ガっ! カララ……。


鎧のヘルムが弾け飛ぶっ!



「ぐぅッ! もっと刺されよっ、チクショウめーっ!」


ピシャっ!ピシャシャっ!


ジキムートの殴られ続ける頭からは、血が噴き出していくっ!


「ヒッヒーンっ!」


ひときわ大きいいななき声っ!


ジキムートの太ももが、蹄に蹴り飛ばされたっ!


「ガッ!?」


ぐっびちちっ!


固いヒヅメの衝撃が、鎧を貫通したっ!


ぐにゃっと筋肉を押し広げる感覚と、千切れる痛み。


筋肉が断裂する苦しみに、顔をゆがませるジキムートっ!


「ぐぎいいっ!」


鬼気迫る形相で、それでも足を踏ん張る傭兵っ!


なんとか相手の足を鎮めようと、膝を曲げて緩衝材にするが……っ!


ガッガッ!


固いヒヅメが膝に直撃し、非常に苦しくなる。



「ぐぅう――」


力が……抜けていく。


痛みで、体勢が維持しないようになり始め……。


「ぐぅ……」


泡を吹きながら、なんとか根性で持っているところに、非常の音。


バキっ!


(骨が……っ。いや、皿か。)


なんとも冷静に、膝の皿が割れた音を聞くジキムート。


体勢はもう、持たないかもしれない。


そうなれば、彼は瞬殺だ。



「とぉおおおりゃあっ!」


そこに、女神さまのドぎつい唸り声が聞こえたっ!


ガッ!


「げふっ!」


思いっきり助走をつけた、ノーティスの蹴りっ!


それが、ジキムートの背中にめり込むっ!


その瞬間に……。


「がぁぁあああ……・・っ!」


獣がビクッビクンと跳ね――。


絶えた。


1人と1匹はそして、倒れ伏す。



「はぁはぁ……。ピーひっ、ぴー」


ジキムートの喉の奥から、笛が鳴る。


息が漏れ、口笛のように鳴っていた。


倒れると自然と痛みが……。


顔と足が、激痛に襲われる。


血の混じった視界は、白んだ部分が多い。


「ノー……ティス」


「はぁはぁ……、全く。とんでもない目にあいました」


白い指先で銀の髪を整え、よろよろと立ち上がる女。


そして……。


「ふっ!?」


ジキムートが一瞬にして転がり、間を置くっ!


「……」



ジキムートがノーティスをにらむ。

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