第7話 牢獄の中で。
(とりあえず、まず考えるべき事。それは、ココはどこなのか、だぜ。ケヴィンからあらかた引き出したが、要領得ねえ。)
もうすでに、周辺諸国の現状と、大体の位置までは、ケヴィンの話から辿った囚人。
だが――。
(全く、訳が分からねえ土地だ。知らない地名に、それに何より『神様の加護』、だと?冗談じゃない、どうかしてるっ。総じて『隔絶』の土地だ。)
ケヴィンからは大体、洗いざらい吐かしているはずだ。
だが未だ、ジキムートが気に入るような話――。
故郷につながるような言葉は、聞けていなかった。
そして、この城の人間模様も、大まかに聞き取った後で今は、魔法の話を聞いている所となる。
「やっぱり難しいのは、マナビルドかなぁ? ジキムートさんもそこが……」
(魔法も訳が分かんねえ。明らかに『文明』が違う。問題は、ここから元の場所へ地面を歩いて戻れるのか、それとも――。)
彼は冒険者だ。色々他人より知っているし、世界を見聞きしてきた。
可能性としてだけならば、聞いた事も見たこともない文明。
いや、この場合は〝神話″だろうか?
それを異にする民族がいる事も、受け入れる柔軟性がある。
世界の果てには、マナがあふれた楽園がある事。
それは、否定はできないだろう。
(もう戻れないか、だ。)
そこだけが、気がかりである。
戻れるならば、いっちょ冒険。とでも、言えるものだが。
(イーズ――。相棒もここにいるのか? さぞや不安……。)
小首をかしげる。
(あの女ならきっと、マナがあふれた世界でも、持て囃されるだろう。――五体満足なら、な。)
ふふっと笑う、ジキムート。
「ねぇ、聞いてます? ジキムートさん」
「あぁ、聞いてるよ」
「じゃっ、じゃあ。魔法の原理をどうぞ」
口をとがらして、ケヴィンが催促してくる。
「世界にはマナがあふれてっから、それから好きな物を探す『マナサーチ』。捕まえた好きなマナを、用途に応じて形を変える『マナビルド』。2つができれば、魔法が使える」
すらすらと、長いケヴィンの話の要点をまとめ、答えるジキムート。
「そっ、そうです。聞いてたんですね、ごめんなさい」
「あぁ。気にすんな。学がない俺に話してくれて、感謝しているぞ。続けてくれ」
ジキムートはまるで、仲間に笑いかけるような雰囲気を出し、続きを催促する。
「はいっ。じゃあ次はですねぇ……」
頼られて嬉しそうに、ケヴィンが再度、話をし始めた。
(コイツは気さくで話好きだ、丁寧に扱わねえとな。しかし、最高にイカす情報源だよ、お前。やっぱりカンは当たった。暴れなくて良かったぜ。)
最初の頃。
ケヴィンが水を飲ませてくれた時、脱走も考えていた傭兵。
チラリと腰の鍵も見えており、脱走するには、チョロそうな相手だと思った。
だが、ジキムートはあえて、残っていたのだ。
逃げるよりも、ケヴィンを有用に使える予感が、傭兵にはあった訳である。
(しっかし、マナがあふれる、か。この話が本当なら、ガキでも間抜けでも簡単に、魔法が使える事になる。ありえねえな。ラグナロク柱からの魔力パイプを通さなきゃ、マナなんて貴重な物、扱えね――。)
一瞬〝人間規格の外″の、知り合いの顔が浮かぶ。
(まっ、まぁ。特別は置いといても、よ。このラグナ・クロス。こいつを開けるだけでも、簡単な代物じゃねえ。)
顔を歪め彼は、彫り込まれた左腕の、魔力パイプを見やる。
それは、入れ墨に似た物。
彼らの世界では、そのヤクザな風体にぴったりの、『ヤバさ』の象徴でもあった。
(そんでもって魔法一回使う毎に、クソ高い〝タトゥー(魔力札)″を買わされんだよ、俺らは。挙句にそれでも、ラグナロク税で搾り取られるくらいこっちは、マナを枯渇してるってんだぞっ!? この世界はどうかしてる。一刻も早く、大事な要件済まさねえとっ。)
そして――。
傭兵は最も大事な結論。
それを導き出したっ!
(じゃねえとこの世界のマナ、売りさばけねえだろがっ! 狙う金目は、これしかねえんだよっ! 転がってるマナを結晶にできて、持ち帰るんだっ! そうすりゃクソ儲かるじゃねえかっ!)
金――。
そう、儲けだ。
どう迂回をしても、人道的な話を持ち出されても、そこに行きつく。
ジキムートはまごうこと無き、傭兵だ。
(あぁ……儲かる。儲かるよ、これっ! あれだっ、まずは鉱山見つけねえとな。そんで、掘り返して……。いやっ! いやいやっ。先にこの町への道を引いて、そこの通行税を取ろうかっ!? そうすりゃ、働かなくても儲かるっ!)
頭は『どう儲けるか』で、いっぱいだっ!
香辛料ならぬマナ結晶をめぐる、一攫千金の夢がぶら下がっていたっ!
今にも『マナ結晶……。マナ結晶。』と鳴く獣のごとく、ヨダレを垂らす傭兵。
(どんなに危なくても、どんな奇怪な事があっても、とりあえずっ! 重くて持ちきれない程のマナ結晶を、調達する。よしっ!)
それ、フラグですから。
誰か教えてあげてほしい。
(第一目標はそれとしても、だ。ここがどこらへんだか、調べねえとな。その為には絶対に外。外に出ねえ事には、始まらねぇ。これは人からの話だけじゃ、どうにもなんねえな。)
「なぁ――」
「なんです? ジキムートさん」
「外に出せ」
やおら口に出すジキムート。
なんとなくどころか完全に、〝看守″ケヴィンをなめている。
「……。うーん、出してあげたいんですけど、色々と込み入ってまして。話しましたよね、その――。あなたが疑われているって」
汗を流し、頭をかくケヴィン。
真剣に、ジキムートのたわごとに答えようとしていた。
「ああ、知ってる。だが俺は、全く関係ない。〝頭″と合わせろ」
聞き方がまるでヤクザだが――。
まぁ、身分的にも、間違ってはいない。
困惑するケヴィンに、〝手打ち″を申し込む。
「シャルドネ様ですか。確かに、ここに来られるとは聞いてますけど。あなたの来たタイミングが……。その、ね」
ケヴィンの汗がひどい。
込み入った様子だ。
すると……。
ガチャッ。
「おーい、ケヴィンっ!」
突然、横柄に呼ぶ声が響くっ!
その声に、2つ返事でケヴィンは応え、急ぎそちらに行ってしまう。
1人、取り残されるジキムート。
その気配にジキムートは、長年の勘を働かせた。
「ついに、頭目のお出ましか。よし――。じゃあコップ。コップだ。駆け引きの鍵は『コップ』だな、うん」
彼はまるで、呪文を唱えるように、自分に言い聞かせていく。
すると……。
カランカランっ!
「シャルドネ様の、御来訪っ!」
声が響き、鐘がなる。
そして、ドアが大きく開け放たれる音がした。
その後すぐに、足早に、兵達がジキムートの官房に入り……。
「おいおいっ。ケヴィンの奴、サルグツワ噛ませてないじゃねえかっ!」
「ったくよぉ。魔法使ってきたら、どうするつもりなんだよ。あの〝小姓(ペイジ)〟っ!」
兵達が、ジキムートの首根っこを押さえつけ、顔を地面に擦りつけさせるっ!
「……」
地面に擦られるのも、慣れたものだ。
口をつぐみ、少しづつ息を吐いて――。
しゃべった時にゴミが入らないように、口元を掃除するジキムート。
すると、大勢の足音が近づいてきて、止まった。
「こいつか……。わが領内に、不法に入った雇われ兵は。顔を上げろ」
男性の言葉が聞こえる。
すると、首を押さえ込んでいた兵が、むんず……と髪をつかみ、ジキムートの顔を引っ張り上げた。
視界が開けると即時、傭兵はサッと目を這わす。
そして、視界の中は言うまでもなく、外までも。
大人数の気配が、自分を取り巻くのを感じ取る。
(傭兵一匹に、こんだけゾロゾロと。まぁ暇なこって。そんだけ過敏って事、か。ヤバそうだ。下手な地雷は踏めなねぇぞ。俺から視線を逸らさせるしかねえ。あ~あ)
心でため息をつくジキムート。
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