このライトノベルがやばい! 2021

「後輩君後輩君。今日が何の日か知ってる?」


「知りませんし、先輩はキモいです」


「脈絡のない罵倒をされたんだが? ま、既に私は後輩君のツンな言葉を全てデレに変換する能力に開眼してるから大丈夫なんすわな~」


「この前体育の授業で二人一組になれず先生とすら組めずに孤独な準備体操をしてたくせに……」


「死にたい」


「当てずっぽうで言った言葉がクリティカルヒットした」


「ガチで心にくるやつやめて。あの時はちょっと死のうかなって思ったけど、後輩君を思い出して、後輩君の笑顔のために生きなきゃって奮い立たせたよ」


「そうですか……よかったです」


「………………えっ後輩君が優しい反応してくれた!? 前もこんなことあったけど、後輩君って私のガチ根暗エピソードになると急に優しくしてくれるよな。そういうのマジで好きになっちゃうんすよね。私の心が勃起しちゃうんすよね。濡れすぎて床上浸水なんすよね」


「ええと、今日が何の日かでしたっけ。先輩の命日で合ってますか?」


「殺すな!! 『このラノ』の発売日だよ!!」






 ~『このライトノベルがやばい!』とは~


 たからずま社から発売されているライトノベルのガイドブック。毎年、発売に先立って「好きな作品」「好きな女性キャラクター」「好きな男性キャラクター」「好きなイラストレーター」を答えるアンケートを実施し、結果をランキング形式で掲載している。

 ランキングの他にも、人気作品の著者へのインタビュー、これからのラノベ業界の展望、ラノベをジャンル別にピックアップした紹介記事などを掲載。ライトノベル読者必携の一冊である。






「もちろん私は今年も投票したよ。後輩君は?」


「まあ、僕も一応」


「ふふふ、調教したかいがあったよ。去年は面倒がって投票しなかったもんね後輩君は」


「先輩のレビューはともかく、ラノベは面白いですからね」


「オタク冥利~。後輩君はこう言ってるけど絶対こいつ先輩様のレビューのおかげで沼に浸かるようになったからね。ちなみに何に投票したん?」


「何だったかな。確か『穿ちのヨギラ、月を射よ』は一位枠として投票したと思います」


「あ~ヨギラね。良かったもんねあれ。私も四位に入れたよ。私はね~、『きみは風前の灯火』の作者の新作、『青い夜、きみとワルツ』を一位に入れたよ。上位に食い込んでくれるといいけどね……。さて、既に私は『このラノ2021』を入手している……この意味がわかるね?」


「さっさと見せてください」


「フヒヒ……そりでわ、開封の儀をば……(制服を脱ぎ始める)」


「(無言で先輩の腕を掴み、捻り上げる)」






 ~このライトノベルがやばい! 2021 文庫部門~


 1位『[Deus Ex Nebula]-デウス・エクス・ネビュラ-』(ZA文庫)

 2位『らーめんていまー!』(剣戟文庫)

 3位『清楚でおしとやかな詩織お嬢様の必殺エナジードリン拳』(剣戟文庫)

 4位『オド』(ファンタズマ文庫)

 5位『まやかしめいた夏が来る。そして、君だけがいなくなる。』(隅川ブーツ文庫)

 6位『侵略しに来た妹系宇宙人がなんか身寄りがないらしいから養う』(ヴァヴァヴァ文庫)

 7位「彼岸の魔眼」シリーズ (ハイパードライブ文庫)

 8位『ドラゴンチェイス・オンライン』(剣戟文庫)

 9位『異世界ものを、終わらせに来ました!』(ヴァヴァヴァ文庫)

 10位『青春なんてクソクソクソクソ愛してる』(NF文庫J)

     ・

     ・

     ・

 14位『穿ちのヨギラ、月を射よ』(ヴァヴァヴァ文庫)

     ・

     ・

     ・

 33位『青い夜、きみとワルツ』(ハイパードライブ文庫)






「とりあえずこんな感じなんだね。最推しは三十三位か……ま~~~~まあまあまあ。悔しいが仕方ない。一部界隈でしか話題になってないといえばそうだったからな~……」


「ヨギラはなかなかいい位置ですね。よかった」


「ヨギラは刊行時期も後押しした感じかもね。『このラノ』投票開始の時期がちょうどヨギラのホットな時期だったから。さてさて……上位陣を見ていくと、そりゃそうだろうな~みたいな順当な順位のやつもあれば、意外な上位作品もあったりすんなあ。ってか……『エナドリ拳』が三位ってマジ!?」


「だいぶ前に先輩のレビューを聞いた気がするやつですね」


「まあ私もエナドリ拳は二位に投票したけど……予想以上の大躍進だ……! 二巻も三巻も面白かったしな……あと作者がエナドリ廃人みたいな芸風を確立しててこの前ツイートがバズってたしな……」


「エナドリ拳、いまどういう展開になってるんですか? 一巻は読みましたけど」


「三巻はね……エナジードリンク〝ライジン〟を飲むことで雷電を纏う邪悪なお嬢様・雷鐘院らいしょういん彼方かなたに対抗するために、主人公の詩織お嬢様が新たなエナドリ〝ゾーン〟を飲みこなそうとするが、複数のエナドリを混ぜて飲んで戦うという詩織お嬢様のスタイルは身体に著しい過負荷をかけ続けるため、余命半年を宣告されてしまい、詩織としても自分の身体が壊れていくのを実感していて、そんな中、二巻で倒した強敵のお嬢様・病葉わくらば紅葉くれはが詩織のもとに現れ」


「わかりました。後で読むんでもういいです」


「ほらこいつ絶対先輩様のレビューのおかげでラノベ読みになっとるやん。冥利~!」


「いや、僕がラノベ読みになったのはラノベが面白いからですけど」


「抗いようのない正論で来るじゃん」


「ランキング、先輩がレビューしてないのもありますね。一位とか、二位とか」


「『DEN』と『らーめんていまー!』は来年アニメ化することも決定して今すごい波に乗ってるラノベだね。私も読んだけど確かにおもしれーんすわな。DENは、主人公たちが〝エクス〟と称される異能力を駆使して、世界を創りあげた七柱の神と戦うバトルファンタジー。イカレてるキャラが多いのと、バトルシーンがやたらとカッコいいのが魅力だね。らーめんていまーの方は、ジャンルとしては熱血グルメバトルwithロリ。ボサボサ金髪ロング碧眼色白身長133センチ体重31キロ裸パーカーで天使な見た目に反してぐうたらで狡猾でえっちな知識にやたら詳しく常に腹ペコでラーメン大好きなベアトリーチェ・フィオレンティーナ・ラ・フォルジュちゃんという幼女がお腹が空いて倒れているところを主人公がスルーするところから始まるんだけど」


「待ってください、後半突っ込む隙がなかった」


「おう、どんどん幼女に突っ込んでいこうな」


「言い方が気持ち悪いです。とりあえず幼女キャラについての説明がやたらと詳細なので先輩のロリコンセンサーが反応していることはわかりました」


「らめてい、マジでロリキャラが極上すぎなんよね。ベアトリーチェちゃんだけでなく、小悪魔ロリ、純情ロリビッチ、ジト目不登校根暗ロリ、人の皮被ったラスボスロリなどなど、これでもかってほどに高カロリーなロリーで埋め尽くしてる。アクセントとしてお姉さんキャラもいて、お姉さんもお姉さんで魅力的なんだけど……やっぱ私の推しはベアトリーチェchangですわな。序盤、えぐえぐ泣きながらラーメンをすするベアちゃんに心を掴まれ、怒濤の勢いで一巻を読み終えてからは、私のちんぽはこの子に捧げようと決めたよ」


「生えてないだろ」


「いつか後輩君にもじっくりと一巻から布教していきたいね。で、四位以下で気になる作品は……五位の『まやかしめいた夏が来る。そして、君だけがいなくなる。』と、九位の『異世界ものを、終わらせに来ました!』あたり? 八位の『ドラゴンチェイス・オンライン』とかは有名作品だから後輩君も知ってるもんねえ」


「十位に『青春なんてクソクソクソクソ愛してる』が入ってますね。あれ完結したんですよね。僕まだ途中の巻までしか読んでないんですけど、完結してどうでした?」


「ああ~、あれはな~~~~。まあ~~う~~ん、読んでみてくれとしか言えない」


「先輩が言い淀むとか珍しいな」


「いや、面白かったよ? 面白かったけど……あの終わり方は賛否両論やろなって。私は賛否どちらかなのかと聞かれたら……う~~ん……う~~~~~~~~んって感じ。好きな人もいると思う。私はモヤっとしたってだけ」


「じゃあ読みません」


「読めや!!!!!!!! 犯すぞ!!!!!!!!」


「今の録音したので裁判起こします」


「はあ!? じゃあ逆に私のこと犯していいよ。はい示談成立~! てか五位と九位の話しようよ。隅川ブーツ文庫の『まやかしめいた夏が来る。そして、君だけがいなくなる。』は、最近のラブコメブームの先駆けとなった作品だね。いや、コメの部分は薄めだけど。私も読んで、エモの洪水に流されました。ヒロインのJK・花火ちゃんは独特の哲学を持っていて、すごく惹かれたなあ。ヴァヴァヴァ文庫『異世界ものを、終わらせに来ました!』も面白かったね。この作品は……」


「あ、僕それ読みましたよ」


「え!? マ!? 魔剤ンゴ!? 私が紹介する前に後輩君がラノベを読むなんて……成長したわね……ほろほろ」


「なぜ泣く。そりゃ僕だって自分で選んで読むくらいしますよ」


「以前はラノベコーナーに立ってることすら恥ずかしくてできなかった後輩君が、立派なキモ・オタクになって……先輩うれしい。育成成功。洗脳完了」


「…………」


「そんな目で見るなよ……興奮しちゃうじゃないか。で……面白かったよね、『異世界ものを、終わらせに来ました!』……!」


「ですね。終始ギャグなのかと思ったらクライマックスが意外と盛り上がってて」


「そうなのよね! そうなのよ! 異世界ものあるあるとか異世界ものパロディで最後まで攻めていくのかと思ったら、あんなどんでん返しがねえ……。現代ファンタジーがSF的仕掛けによって異世界ファンタジーになる瞬間のあのページは、最近読んだラノベで一、二を争うくらいに衝撃だったな。でもこれ二巻出せるのかよって感じの終わり方だったけど、続刊どうなるんだろね」


「なくてもいいんじゃないですかね。綺麗に終わってるし。ただ、まあ、二巻出るなら、アスハをもっと活躍させてほしいですね」


「だねー。…………うふふ……」


「なんですかそのキモオタネクラニチャニチャスマイルは」


「すぐにそのレベルの罵倒が出てくる語彙力なんなんだよ。いや、ね? 後輩君とこうしてラノベ談義して、後輩君のオタクとしての成長も実感できて、なんかいいなって。楽しい。この時間がずっと続いてほしいよね」


「はあ」


「来年三月には私も卒業かあ……」


「…………」


「寂しくなるね。ま、私だけかもしれんけどな……」


「…………」


「お、罵倒が飛んでこねえな。やっぱ後輩君も寂しいんでしょ~。一ヶ月後はちょうどクリスマスだし、セックスしとく? つってな! ガハハ!」


「金払うんで、やめてください」


「金払うほど嫌なの!?」

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