オーバードーズ文庫『熱血!! サキュバス転生ッ!!!!⑧ さらば、怒張天衝ディンポコポン』

「ハァ……ハァ……後輩君……ちょっとこのラノベのタイトルとあらすじを声に出して読んでみて」


「嫌です」


「チッ、セクハラには断固たる対応をしていくという決意かよ。まあいいよ別に。じゃあ立場を逆にしよう。後輩君側から私へ、このラノベのあらすじを読むことを強要してくれない? 私、好きな男の子にセクハラされてみたくてさ~」


「嫌です」


「えぇっ!?(萌え声) こんなあらすじ、恥ずかしくて読めないよぉ~(萌え声)。で、でも、後輩君がどうしても読んでほしいっていうのなら……よ、読むね……っ(萌え声)」


「(耳を塞ぐ)」





 オーバードーズ文庫『熱血!! サキュバス転生ッ!!!!⑧ さらば、怒張天衝ディンポコポン』


 ~あらすじ~

 フレイヤとのだいしゅき合体により遂に巨大ロボ・ギガントディンポコポンを屹立させ、これに搭乗したイナリ。テクノブレイクしたオズトの死を乗り越え、宇宙最強のシコリストとして、アンチセクロスの御子・ヌルと対峙する。しかし彼女は既に自我を〝修正者〟によって黒く塗りつぶされていた! 届かない言葉……しかしイナリとその仲間たちは、ヌルの頬を一筋の涙が滑り落ちたのを見逃さない。

「ヌルを救ける。オレたちのテクニックでッ!」

 最終尻戦けっせんの火蓋が切って落とされる! 三億の命の種子たちの、旅路の果てを見届けよ!!





「ふぇぇ……はずかしかったよぉ……」


「満足か?」


「すごい態度だな。はい汚いサキュ転の最終巻ですよー。今までの巻も大概汚かったけど、最終巻は最汚さいきたなだったね。有終の。読むちんちん。ナイチンゲールが発狂して火炎放射器で汚物を消毒するレベル」


「先輩、嬉しそうですね。先輩が満足するくらい汚いんですね」


「言い方が引っかかるんだよなあ。まあ私も汚いけどさ。さっき幼女の足を舐めたいな~って妄想してたら唾液が異常分泌されて唇がふやけた」


「先輩のキモエピソード紹介よりラノベ紹介のがマシなんでラノベの話してください」


「キモラノベだけどね。えーと、後輩君はこのシリーズ知らないと思うから最終巻に至るまでのだいたいのあらすじを教えちゃおっか。まず、伝説の第一巻。主人公の男子高校生・稲荷は、地元のお祭りで遊んでる時、ちんこの形をした御神輿に突き飛ばされて死んで異世界転生する」


「いきなり意味が不明すぎないですか?」


「第二巻。最強の熱血サキュバスとして異世界を救ったイナリは、国を挙げてのパーティーの最中、降ってきたちんこの形の隕石に潰されて死んでミジンコに転生する」


「待って待って」


「第三巻。ビジネス篇。ファンの間での通称は『社長島稲荷』。第四巻、ホビーアニメ篇。明らかにベイブレードのパクリ。第五巻、学園ハーレム篇。ヒロイン全員身長八メートル。第六巻、密室殺人事件篇。フォントがポップ体。第七巻、白亜紀篇。恐竜滅亡の原因はイナリ。そして第八巻が、この大宇宙大決戦篇ってわけ」


「もしかしてなんですけど、作者の頭はイカレている?」


「たぶん後輩君はいきなり八巻のあらすじ聞かされて、八巻だから以前の巻を読んでないとあらすじの意味もわからないんだろうなと思っただろうけど、違うんだよね。ファンですら『は? ギガントディンポコポンって何?』『アンチセクロスって何?』『〝修正者〟って誰?』って感じだったから」


「なんですかそれ……」


「おーおー、後輩君が真っ当に引いている。ちなみにイナリとだいしゅき合体したフレイヤとか、アンチセクロスの御子・ヌルとか、テクノブレイクで死んだオズトとかは一応以前の巻に出てきたキャラだね。そこは踏襲してる。もちろんフレイヤは前巻でだいしゅき合体してないし、ヌルは前巻だとイナリLOVEなクーデレヒロインでしかなかったし、オズトは……まあオズトはテクノブレイクで死ぬの四回目だけど」


「オズト可哀想すぎる」


「オズトに関しては『まーたあらすじで死んでるよ』って感じでファンの間では恒例行事みたくなってたよね。霊になったり精神世界に出てきたり何故か何の説明もなく生きてたりで一応活躍はするんだけどさ」


「思うんですけど、こんな放送禁止用語の概念を吹き飛ばしてそうなラノベをよく出版できましたよね」


「そこなんだけどさ? このラノベのテーマのひとつに、『全裸の肯定』というものがあると思うんだよね。もちろん猥褻物の陳列は罪だし人を傷つけるからやっちゃいけないんだけど、全裸の自分、つまりありのままの自分を肯定することは、人が前に進むために必要だって思うんだ」


「えっこの流れで高尚な話が始まるんですか?」


「八巻のラスボス〝修正者〟のセリフに、こんなのがある。

 『なぜ 我に 刃向かう。 生命の 健全な 営み…… それは モザイクなしの 無修正では 維持することは できぬ。 我は 命の 在り方を守るため…… 全てのエッチシンボルに モザイクを 加えなくてはならぬのだ』

 それに対して、主人公のイナリは応えるんだ。

 『オレたちは……すべての生命は心におちんちんを持っているッ。たとえ体のおちんちんを萎えさせないといけない時でも、心のおちんちんだけは、自由でなくちゃいけないんだッ! その自由を損なうモザイクなんか、必要ないッ!』」


「あ、高尚な話じゃないっぽい」


「『心のお●ん●ん と言ったな。 それを 野放しに したせいで 悲しい事件が 起こる。 おまえたち あまねく生命は 間違いを 犯すもの。 我の 造りし 修正済みの世界なら 誰も間違えず 悲しむこともせずに すむのだぞ』」


「いや、高尚な話か?」


「『……確かにそうかもしれない。おまえの言う世界には、悲しみなどないのだろう。だけどッ! そこには赤ちゃんプレイの快感もないッ! 漏らした後におむつを外してもらってママにフキフキしてもらうあの悦楽は、存在しないんだッ!』」


「低俗でしたね」


「ここ感動して泣いちゃってさあ……」


「嘘だろ?」


「イナリは本当にありのままで生きてるんだなって思うと泣けてきて。だって私たちはたくさんのしがらみでがんじがらめにされながら社会生活してるわけじゃん。なかなかキモい面は出せてないわけじゃん。イナリも初期はそうだったんだよ。全裸に抵抗を感じてた。だけど、イナリは物語の中で少しずつ解放されていき、遂に最終巻で、本当の全裸になったんだよ……泣ける」


「イナリが社会的に死んでいく過程を描いてるとしか思えない」


「逮捕オチはもう二回やってるからそれも間違いではないね」


「それにしがらみがどうとか言ってますけど先輩は既に十分キモい面出してますよね」


「は? 私がこんなにキモいのは後輩君の前でだけなんだが?」


「えぇ……」


「つまり後輩君の前だと私は全裸だってことなんすよね。きゃっ! 想像したでしょ! えっち!」


「今ので吐き気を催したので慰謝料ください」


「お、つわりか?」


「何でそんな気持ち悪い発想ができるんですか?」


「後輩君に私の子供を産んでもらう……………………ありよりのあり! 出産は大変だけど頑張ってね、パパ……」


「出産の痛みで涙が止まらないです」


「無表情でFGOやりながら言うセリフじゃねーだろ!?」

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