5 拝啓 ラルス様
ラルス、元気にしているか?
あんな飛び出し方をしわたりには俺は元気だし、楽しく毎日を過ごしている。こんなことを言ったら、心配させるんじゃねえとお前は怒りそうだな。本当に心配をかけたと思っている。
今俺がいるのは「人のくに」最南端に位置する村、リョシュア村だ。村の人たちにもよくしてもらっており、俺が黒竜だということも理解してもらっている。俺としても予想外だ。
もっと早く手紙を出せば良かったんだが、遅くなってしまったことを詫びたい。王都で暴れてしまった手前、変に刺激せずに大人しくしておこうと思った結果だ。
といいながら今回手紙をエミリアーノに託したのは、状況が変わったからだ。心配しているだろう俺の討伐問題は、一応なくなったとみていい。監視はつくだろうが監視役はエミリアーノだろうから、あってないようなものだ。
詳しい話は時間が出来たらエミリアーノから伝えてくれるだろう。しばらくは王都にいるようだし。だからこの手紙には俺が個人的にラルスには伝えておかなければいけない事を書こうと思う。
先日、クレアが息を引き取った。
突然のことにお前が混乱しているのは分かる。伝えていなかったことも申し訳ないと思っている。誰にも話さないというのがクレアとの約束だった。
クレアは生まれつき体が弱く、十歳までは生きられないだろうと言われていた。それが何の奇跡か、学院に入学することができた。クレアが望んだのは健康な子と変わらない、普通の生活だった。そのために長生きできないということを周囲に伝えることを嫌がった。病弱で先が長くない可哀想な子だと思われるのも、気を使われてやりたいことが出来ないのも嫌だったんだ。残り時間が少ないからこそクレアはやりたい事はやりきって、後悔なく旅立ちたかったんだ。
黒竜だとバレたあの日、まっさかに頭に浮かんだのはクレアと引き離されるんじゃないかということだった。黒竜が珍しく、俺のように王都で生活できるものはさらに稀だということは自覚していた。今までみたいな生活は送れないだろうと思った。
だから俺は王都を逃げ出した。クレアと引き離されるのが怖かった。ただでさえ少ない時間がさらに減るのは耐えられなかった。お前に何の説明もできなかったこと、それで心配させたことは本当に悪いと思っている。
同時に感謝している。俺とクレアと友達になってくれたこと。俺が上位種であることに気づいていたのに詮索しなかったこと。クレアの夢を叶えてくれたこと。
お前は俺たちに迷惑をかけていると思っていたようだが、俺もクレアも迷惑だと思ったことは一度もない。俺たちは故郷では周囲と上手くいっていなかった。クレアの生まれた場所は異種族に対する偏見が根強い所だったから、俺とクレアを腫物みたいに扱ったし、見ないふりをされた。だからラルスに俺たちが憧れだと言われたとき、本当にうれしかったんだ。俺たちはそのまま一緒にいていいんだと言ってもらえた気がして、本当にうれしかった。
お前は気付いていなかっただろうが、お前は俺とクレアにとって初めてできて友達だった。カリムとのことで悩んでも、明るくふるまって、一人で耐えようとしたお前に勇気をもらった。
救われていた。お前が思っているよりもずっと、俺とクレアにとってラルスは大切な存在だった。
ありがとう。感謝してもしきれない。お前が当たり前みたいにクレアが生きる未来を語るから、俺もクレアも信じることができた。最後まで絶望しないでいられた。
薬師になって人を助けるというクレアの夢もかなえてもらえた。叶えるには時間が足りない。そう言ってクレアが諦めていた夢だった。あの時のクレアの嬉しそうな顔を俺は一生忘れないだろう。
お前は俺とクレアの一番の親友だ。
どうかカリムと幸せになってくれ。
お前は変なところで変に悩んでいたが、どう見たってお前らはお似合いだ。俺とクレアを理想だと褒めたたえていたけどな、お前らだって十分理想だろ。お互いに憎悪から始まったのに、気付いたら好きになってたんだから。
お前らは乗り越えたんだよ過去を。だから素直になれ。
お前らには未来がある。でも未来は待ってくれない。だから後悔しないように。自分の気持ちに正直に。
お前が幸せになってくれたら俺は嬉しい。
クレアもきっと喜ぶ。だからクレアを喜ばせるために、どうか幸せになってくれ。
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