第6話  ヘリオス殿下の名推理

俺はこの国の第一王子ヘリオスだ。

2つ下にスーワという可愛い弟がいる。

可愛がっていたら、最近兄様ウザイです!と言って目が合うと逃げるようになった.....悲しい。

私の弟はとても優秀だ。真面目すぎるのがたまに傷だな。仕事以外の兄様は軽すぎるんです!とか言われたが、それって仕事中の私はカッコイイってことか?!と詰め寄ると、「プラス思考過ぎます!仕事中はキレ者なのに普段は別の意味でキレている」と笑われた。解せぬ。

しかし上手いこと言うな。


兄弟仲はとても良い。それにもかかわらず、私と弟を敵対させたがる輩がいる。

なぜそんな訳の分からない事をするのか。

王城にはこういった輩が多くいる、擦り寄ってくるもの、目がギラついている者、蔑みの目で見ているくせに口にはおべっかが並ぶ。

正直、疲れるな。

そんな事をしても面白くもなんともないのに。


日常にうんざりしているそんな時に、面白い男に出会った。

誰も寄せ付けず、常に自身に結界を張っている。命を狙われる危険がある私より厳重な守りではないかっ!

こやつどこぞの国の王族か?と思いきや、我が国の公爵であった。

なんと!

なぜ常にバリアを張っているのだ?!と聞いたら、なぜ常にバリアフリーなのですか?と返された。

なんて返しだ!面白い!大爆笑だ。

お腹が痛くなるまで私を笑わせるとは.....

ジンの奴めやりおるな。

この時点でジンは私の親友認定だ。



歯に絹を着せぬ物言いをするジンが私は大好きだ。

そう言うともの凄く嫌そうな顔をするが、その繕わない表情すらも私には好感度が高い。

《氷の結界王子》などと呼ばれているようだが、どの辺が氷なのかが私にはよく分からぬ。

一目でわかったぞ!この男の心は暖かい。城にいる狸どもとはわけが違う。


いまだによく距離を詰め過ぎてジンの結界に弾かれる。ジンが面白い話ばかりするのでつい夢中になってしまうんだ。

はじかれるのは少し痛いが、ただ壁に自分からぶつかった様なもんだ。私に危害を加えるものではない。

それに弾かれて転ける瞬間、ジンが風魔法で地面への衝撃を和らげてくれているのを知っているからな。

私が気づいていないと思っているところが可愛いな。

こいつは本当にいい奴だ。

幸せになってもらいたいと思う。


なんと!ジンには想い人がいたのだ!!

欲しいものはないのか?と聞いたら珍しくあると答えたのでつい興奮してしまった。

常に壁を作るこの男が欲しがる女性とはどのような人なのだろうか。

興味がむくむく湧いてくる。



志乃なるものの話を聞いた時、なぜ話聞かず逃げるのだ!と憤慨した。

私が志乃なるものだったならジンにそんな顔はさせなかった!と怒りを露わにすると、ジンの奴!壁まで後ずさりしやがった!

おい、なぜ結界を厚くしているのだっ!!

解せぬ。


それにしても、その志乃なる女性が今世でも転生すると確信があるようだったのが不思議だ。

その事について問うと、急に名前の話になった。

これまで覚えているだけで三度の人生を送ったが、全て似たような名前だったとジンは語った。

かの国では名前は意味を持つと言う。

その人間の使命を表すのだとか。

そこでジンは自分がまだやるべき事を成していないからこのような名前で生まれてくるのだろうと語った。そして、その使命がその女性に関する事なのだと確信しているようだった。だから今世でもやり残した事をやるためにきっと目の前に現れると信じているそうだ。

なんとも目がチカチカする話だった。

《名は体を表す》と言う言葉があるらしい。実に興味深い!

それにしてもこやつロマンチストだな。

やはり実は熱い男だったのだ!

氷の異名はやはり似合わないではないか。

《炎の結界王子》に変えよう!と申し出たら、炎はともかくなぜ王子がつくのですか!と本気で嫌そうな顔をされた。

王子が付くと私とお揃いみたいで良いではないか。



そして一部伝わる伝承などでは魂の波動などで肉体の形が整えられるため、転生してその国の特徴や両親の遺伝子を引き継いでいくがやはりどこか前世と似ている顔になるらしい。

と言うことは、私は来世でも美形に生まれるといことだな!はははっ!

不思議だ。

ジンといるとワクワクする事ばかりだ。


ジンが志乃なる女性を見つけたらすぐに私に教えてくれと話したら、あっさりと承諾を得た。おや?と思っていたら、その女性が長く幸せに生きるように後ろ盾になってくれる人物を探して欲しいと言われた。

聞いたかい?ジンのお願い事だ!!!!

これは張り切って叶える必要があるな。

というか、後ろ盾なら私がなってやる!この国の王子になら誰にも文句は言えぬであろう。






シーナ嬢に接触した事がジンにバレてしこたま怒られた。

だって気になるだろう?

あんなにも私の親友(ヘリオスはそう思っている)が愛する女がどのような人物なのか。

出会ってみた感想は、普通の女の子だったな。

ついついジンに対しての過去の仕打ちに強い言い方になってしまった。

それは後日ちゃんと謝ったのだが。

それにしても、普通の女の子 なんてとんでもない!ジンと2人で黒竜を倒すほどだぞ!2人は化け物かなにかなのか?

剣も魔法も超一級なんてスゴイじゃないかっ!!何をしたらそこまで強くなれるのだ!今度シーナ嬢にも前世の話を聞きに行こう!それをジンに話したら、頑なにシーナ嬢が私の元に来るのを阻止する.....なぜだ!

解せぬ。


それにしても、ジンが怒って乗り込んできた時はそこまで感情を露わにしていることにビックリしたが、胸倉を掴まれたのには本当にビックリした。

聞いたかい?胸倉を掴んだんだ!!!!

いつも結界で弾かれるのに!!

ジンの方から私に触れてきたんだ!!

なんて事だ!私は嬉しさのあまり掴みかかられたジンの手を握り返してしまった。

本気で怒っているのに私が嬉しそうな顔をして手を握ってくるものだから、ジンは途中から呆気にとられてたな。あの表情もすごく可愛かった!それをジンに告げたら後ずさりされたんだが.....なぜだ!


それを聞いてシーナ嬢が「殿下はライバルでしたか.....」とか呟いていたとか。

我らはライバルではなくて同志ではないのか?

解せぬ.......


そうそう、リューイ殿がシーナ嬢の弟だとジンが言い出した時は頭の中がハテナだった。


ダンスパーティーで初めてシーナ嬢を見た時のジンの表情は本当に驚いた。

見ているだけで胸が締め付けられるような嬉しそうであり辛そうな切ない表情をしていた。私は未だそのように深く人を想った事がないので、少しだけ羨ましいと想ったのだ。

今世では彼女のために関わらないと公言していたジンだが、目が彼女をずっと追っていて何とかしてやりたくなるんだ。

だからこう言った。

「ダンスに誘ってこい。本人かどうかちゃんと確かめるんだ。そうでないと私も動けない。それに、いざとなった時おまえが助けに入れるように面識を作っておけ!」

本当はジンは確信していると分かっていた。

だが、大勢の前で公爵からのダンスの誘いは断れまい。このチャンスを逃さないで欲しかった。

私は本当にいい仕事をしたと思う!


しかし、ダンスから帰ってきたジンは何かを噛みしめるような耐えるような表情をしていた。

何を言われたのだ!と問いただしたが、どうやら彼女も前世の記憶があるようです。と一言いって黙り込んだ。

何をどう確信したのかは分からないが、それよりもおまえのような者がもう1人居るとは........


好奇心が抑えきれず、部屋から出たシーナ嬢をコッソリ追った。

それに気づいたジンが怒りの形相で追いかけてきたのだが、シーナ嬢が庭に男といるのを見て身体が凍りついた。

「あれは......」

うん?あの男はザリズリー伯爵の息子ではないか。それを伝えると。

「伯爵....そうか、今度は弟ではないのか....それなら.....」

と呟いた。

私は聞き逃さなかったぞ。

「弟とはなんだ!?」

としつこく聞くと、前世ではシーナ嬢の弟で、その前の生では義理の弟なのだと言う。

そして、恐らくだがシーナ嬢に想いを寄せている。少なくとも最初の生ではそうであった、と。


なんと!


その話を聞いてちょっとした仮説が思い浮かんだ。

ジンの前世の話では謎な部分が多々見られた。

こやつはシーナ嬢しか見ていなかったようだが、私は曲がりなにも王族で帝王学を学んでいるし、弟にも優秀だと言われているのだ。

これは別視点で話を聞いてみる必要がありそうだ。

その日、その光景を見てジンはザリズリー伯爵にシーナ嬢を任せると考えたのかもしれない。目にはかすかに諦めとホッとした様子が滲んでいた。

本当にこの男は放って置けないな......

純粋すぎではないか?

早々にジンが会場を後にしてから、私は動きはじめた。

あの男はきっとこの先シーナ嬢に誤解を解くことはしないだろう。

過去を知ってシーナ嬢が自分を責めてしまうとでも思っているんだろう。

それに、自分の想いを伝えたとしても今の幸せを崩したくないなどと考えているんじゃないだろうか。本当に大馬鹿ものだよ。

ならば、親友の私が悪役になってやろうではないか。シーナ嬢には嫌われるかもしれないがね。

まったく、世話がやける。






さて、ここからはちょっと頭を切り替えて、ジンに聞いた話を元に真剣に推理してみようと思う。


目をつぶって深呼吸をすると、スッと頭の中が冷静になる。仕事モードの時はいつもこうだ。

頭の中に静寂が広がる。



ジンとシーナ嬢の最初の前世の話を思い返す。


まず情勢が不安定だという事。

それを踏まえて、うちの狸....もとい国の官僚や宰相たちならどうする?


優秀な魔術師は少なかったと聞いた。

さらに情勢が危うくなってから多くの魔術師が国を逃げ出たようだ。

話を聞くに、シーナ嬢は前世で相当な魔術の使い手だという。

ならば戦力になってもらわなければならない。

だが、若い娘を前線に送るなど外聞が悪い。さらに批判されるのは目に見えている。例えそれで戦に勝利したとしても、国王が成人前の未来ある若い女性に頼らなければならないほど無能だ、非情だ、と生涯にわたり汚名が付いて回る。


ならばどうする?


簡単だ


自・分・か・ら・行・く・よ・う・に・仕・向・け・れ・ば・い・い・の・だ・


それに、ジンは今もだが当時も相当な剣術腕を持っていたようだ。本人は多くは語らなかったが、王宮でさらに王子の護衛なども任されるほどだったという。そして周りから見るとジンがシーナ嬢に惚れているのは明らかだ。

当時のことはわからないが、今のジンを見る限りはそうだ。

態度が全然違う。そこまで惚れていて、もしも自分の婚約者が戦場にいかされると聞いたら?

さらにそこが前線だとしたらどうする?


連れて逃げるだろう。


間違いない。


あれはシーナを攫ってでも回避するだろう。


それに、情勢が不安定なら王子は自分の身を案じてそばからジンという最強の護衛を離さないだろう。

だが、勝利を確実にしたい貴族や国の官僚たちはジンには前線に立ってもらいたい。

そうすれば勝利の確率が上がる。

すなわち自・分・た・ち・の・身・の・安・全・の確率が上がるのだ。


そしてもう一つおかしい事がある。


なぜ二度も同じようなタイミングでジンが女といる所にシーナが現れた?

しかも二度目などは国・王・に・指・定・さ・れ・た・使われていない資料室。

どう考えても不自然ではないか?


もしもシーナとジンが2人でいつも会う場所を国王が把握していて、意図的に女をけしかけたのだとしたら?

その後動揺したシーナ嬢を上手く誘導すれば、自棄になって戦争への参加の言質をとれる。

どんなに魔術師として優秀であろうと、そういう奴らにしてみればまだ政治の汚いやり取りなど知らない無垢な赤子も同然。

ズル賢い国のトップにたつ人間にかかれば、未熟で純粋な年若い女ひとり騙し望む方向へ誘導するのはわけない。


ジンの噂にしても不自然すぎる。

1人の女が振られて腹いせに騒いだとて、王城で働く優秀な人材や冷静な人間ならどちらが本当のことを言っているかなど見抜けるだろう。

ジンの潔白などすぐにわかる事だ。


だとしたら、ジンの剣の腕に嫉妬した同僚はたまたはシーナに思いを寄せる男が意図的に噂を広げたとも考えられる。その逆も然り。

なんせ2人はあの美貌だ。本人たちは気づいていないようが、二人の容姿はとても目立つ。さらに周りの嫉妬や羨望の目に気づきもしないし目もくれない。そんなところもライバル視してる人間からしたら憤りを感じるだろう。


それでもまだ2人を完璧に引き離すには至らなかったとしたら.......

最後の駄目押しが必要だ。

そして今度もまた同じ手を使った、と。

なんともぬるい。

だがうら若き純粋な男女をはめるには安易だが手軽な手段だ。女ひとり金をつかませるだけで良いのだからな。


さらにおかしい事はまだある。

婚約の解消を願い出た若い女に、その交換条件として前線に立てだと?ふざけるな。

そんな交換条件があるか。

シーナ嬢はその時、相当自暴自棄になっていたのだろう。

冷静な状況であったならば国王の言い分の異常さに気がつくはずだ。

いや、もしも暴君や愚王だったならばその話も普通と受け取らなくもないか.......


さらにおかしいのはシーナ嬢が婚約解消を国王に認められたと書いた手紙がジンに届くタイミングだ。


二度目の資料室で間者の疑いがある侍女と会っている所を見られてから、ジンがシーナ嬢に避けられ周りもそれに協力して会わせないようにしていた。


会えないのなら手紙を受け取ったジンはどうする?


教会に問い合わせるだろう。

さらに、そこで国王とのやりとりを知り、謁見が許されるまで時間がかかる。

そう、時・間・が・か・か・る・の・だ・


時間をかせいだともいう。


ジンがシーナ嬢がすでに前線に赴いた後だと聞いたらどうする?


もちろん後を追うだろう。


その頃に情勢はどうなっていた?


そう、すでに戦は始まっていた。


だとしたらシーナ嬢の元へ向かうジンは敵を倒す強大な戦力になる。



大体のシナリオが見えてきた。



今の事柄は全てうちの狸どもならならやりそうな事だ。


そしてその心理を分かってしまう自分の心が汚れてしまっているようで憂鬱になる。


これは私の妄想だ。

もしかしたら違う所もあるかもしれない。

だが大きく外れてはいないだろう。

自分の益のために他人を犠牲にするやからはどこにでもいるからな。


この事はジンとシーナ嬢には話さない。

二人は十分苦しんだ。

幸せになってもらいたい。



リューイ・ズリザリーがシーナ嬢に想いを寄せていると聞いた。

もしも二人を引き離す事に手を貸したのなら許されるものではない。


だが、決めつけるの良くないな。

とりあえず話を聞いてみようではないか。


何か知っているかもしれない。


庭先で二人の様子を見ている時にあの者は気づいていたようだし、二人のダンス中に彼のジンを見る目には複雑な思いが込められていたように感じた。


私のカンでは彼にも前世の記憶があるようだ。

ちょっとカマをかけてみようか。

とりあえずは、警戒心を解いてもらわないとな。


相手の気持ちに同意をして心をさらけ出してもらおうと思い、

「分かるぞ!私もジンが大好きだからなっ!」

といった時は、ジンと同じように後ずさりしやがった!そしてなにやら「そっちのお方でしたか.....」と呟いていた。

なぜか余計な警戒心が増したようだ。

なぜだ!



解せぬ.......





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後書き


読んで下さってありがとうございます〜!


この話で1番伝えたかった事は、ヘリオス殿下がいかにジンの事が大好きかということです(笑)


殿下は普段楽しいことや面白い事が大好きで、色んなことに興味を持ちます。

反面、仕事になると頭の中が切り替わる天才型です。


本編を完結にしてからこの話を乗せたのは、この話はジンとシーナの主役勢は知らずに終わるからです。


さて、ヘリオス殿下の推理の答え合わせは、今後リューイが教えてくれるはずです。


少しでも楽しんで下さったなら嬉しいです。

ありがとうございますー!

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何度生まれ変わっても 一ノ瀬双葉 @itinosedutaba

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