第128話 メリシャン2


「わかりました。ではご一緒させていただきます。コン」


 ぽーしょんシャンプーをFランクからCランクまでの四種類を作り、早速ヨウコに検証をお願いしに行くと二つ返事で了承してくれた。心なしか嬉しそうだ。

「……昨日一人だけ使えなかったから気にしてた」

 香油は高価なものだと思って遠慮していたらしい。でも風呂上りにみんなの髪を見て考えが変わったようだ。――だけど、ご一緒? ヨウコは一緒にお風呂入らないよね?

 俺の疑問をよそにヨウコはパタパタと自室に向かいかけて行った。どうやら着替えを取りに行ったみたいだ。

「ご主人さまー、お風呂の用意はできていますよー」

 スンスンはすでに準備を終えて俺達のことを待っていた。……よく見るとメイプルやミーシアまで湯着とタオルを抱えてスタンバっている。

 ……あれ? 今日は全員一緒に入るの? というか検証するだけならお風呂に入らなくてもできるよね? ……まぁわざわざ言わないけど。


「旦那様? 何をお考えですか?」

「――今日もシオンは可愛いね」

 にっこりと微笑んで俺を覗き込むシオンに本心を伝えてみると顔を赤くしてツバキの陰に隠れてしまった。相変わらず反応が可愛いな。

「……ヤマヤマ、私は?」

「それじゃお風呂に行こうか」

 フィーネがすり寄ってきたので早速検証に向かうことにする。ヨウコは準備ができたら来るだろう。

 俺達の着替えはスンスンがすでに用意していたので、そのままお風呂場に直行することにした。


 ◇


「……ふむ、Fランクでも少しは効果がありそう」

「そうですね。ですが、やっぱりCランクの方が効果は高いですね」


 現在、お風呂場にてシオンとフィーネがヨウコの髪を使って、ぽーしょんシャンプーの効果を検証している。三人とも湯着を着ているけど、俺が近くにいるとヨウコが恥ずかしがるので検証はシオンとフィーネの二人に任せることにした。

 シオンとフィーネは効果の違いを確認するため、ヨウコの髪を四つに分けてランク毎にぽーしょんシャンプーを塗って効果を確かめていた。


 シオン達三人を残して他のメンバーは先に湯船に浸かってその様子を眺めていた。ツバキは俺の隣で一緒に湯船に浸かっているけど、相変わらず収まり切れない夢と希望の詰まった双山を無防備に晒している。ゆらゆらと波打つ湯着に視線が向いてしまうのは俺のせいではないはずだ。うん。

 スンスンはお湯の温度調整をしつつメイプルとミーシアのお世話をしていた。ミーシアは二度目なので昨日ほどはしゃぐことはなく大人しく湯に浸かっているみたいだ。


「……まだ薄めても効果はある。……でもそろそろ限界」

 ヨウコは正座したまま黙って二人にされるがままになっている。……美容室で髪を染めてもらっているみたいに見える。シオンとフィーネがヨウコの髪を手櫛で何度も梳きながらぽーしょんシャンプーを塗っている。

 ランク毎の検証は終わり、今はぽーしょんシャンプーに水を追加してどこまで薄めても効果があるのか調べているみたいだ。

 結果としてポーション一瓶に対して三倍ほどの水で薄めても効果があるとわかった。Cランクポーションならさらに薄めても効果があるけど、効能がガクッと落ちてFランク程度に下がるようだ。

「シルフィ、ここまでにしましょう。ヨウコさん、ありがとうございました。あとはこちらをお使いください」

「ありがとうございます、こん」


 髪質が部分毎に違うことになってしまっているヨウコに、昨日用意していたBランクポーション入りのぽーしょんシャンプーを手渡している。スンスンが昨日ヨウコに預けた分だけど、使われないまま残っていたようだ。

 ヨウコは昨日受け取る際に、お風呂の時に使うものと聞かされていたためお風呂上りにその効果を知ったものの使うことができずに保管していたらしい。おかげで昨日作った分でも効果があることがわかった。

 Cランクの効果を上回って髪質を均一にするにはBランクじゃないとダメだからちょうどよかった。


 そして検証が終わり労っている三人の様子を黙って見ていると、俺の視線に気づいたフィーネがニンマリと笑い、湯着の裾をひらりと捲って美脚を露わにした。

 ――白く細いすらりと伸びる艶のある足。肉付きのある健康的な太もも。普段は衣服で隠された秘境に思わず視線が釘付けになってしまう。

 すぐにフィーネの行動に気づいたシオンがフィーネを止めたので慌てて視線を反らしたけど――くっ、フィーネの勝ち誇った顔が目に浮かぶようだ。……眼福なのだろうけど、心臓に悪い。


 それからシオンとフィーネも身体を流して湯船に入ってくる。ちなみにツバキ達にはCランクのぽーしょんシャンプーを検証用とは別に用意している。昨日のBランクぽーしょんシャンプーの効果がまだ残っているからCランクでは効果があるのかは分からないけど、シオンに欲しいと懇願されて断ることなどできるはずがない。うん。

 ツバキ達が使う分ならBランクポーションでも良かったけど、シオンとフィーネにDランクでも十分と言われたのでCランクにしておいた。


「旦那様、お待たせしました」

「お疲れ様。おおよそ予想通りかな?」

「はい。Fランクでも一定の効果はありそうです。効果をはっきりと実感できるのはDランクからですね」

「……ヤマヤマ、一般に売り出すならFランク、Eランク。……貴族用でDランク。……Cランクは非売品にして特別な贈り物用にしたらいいと思う」

「Bランクは?」

「……CランクをAランクとした方がいいかも。……Cランクでも十分すぎる効果。……これ以上は費用的にも問題がある。……Bランクを作るなら信用のおける人限定にした方がいい」


 確かにBランクポーションを使ったら値段がヤバいことになるだろうね。原料がこの世界で最高ランク、それも最高品質。Cランクのぽーしょんシャンプーでもかなりの値段になりそうだ。まぁお金を有り余らせている貴族から毟る分には心は痛まないから、Dランクから高額にしよう。

「ならぽーしょんシャンプーのランクはポーションの二ランク上で考えようか。……いや、三ランク上にしよう。貴族に売る分をAランクにしないと貴族が納得しない気がする。CランクのぽーしょんシャンプーはSランク扱いで、基本的に売りには出さない」

「……うん、その方がいい。……Dランク――Aランクぽーしょんシャンプーでも十分売れる」

 フィーネの売れる宣言も出たし、問題ないだろう。ぽーしょんシャンプーはAランク、Bランク、Cランクで販売しよう。……いい加減、名称を変えようか。原料モロバレだし。

 うーん、メリリ印のポーションを使った香油――メリ油。……メリリの汗みたいだな。いや、女神の汗なら売れるのか? 

 ――たぶん公言するとタライが降ってくるな。うん。となると、


「――メリシャン。うん、ぽーしょんシャンプーをメリシャンに名称を変えよう」

「……メリシャン? ……シャンはシャンプーとして、メリ?」

 あー、ここでメリリサートの名前を出したらダメだよね。メリリの名前が広まるのはいいけど邪神と関連付けられたら堪ったもんじゃない。

「俺がこの街に来るきっかけになった師匠の名前だよ。メリリ師匠がいなかったら今の俺はいなかったからね」

【~~~~♪】

 ッ! なんだ、メリリ感がなんかいつもと違う。ポカポカ暖かい感じがある。喜んでいる? ……いや、風呂に入っているからのぼせただけか。


「……師匠。…………なるほど」

 フィーネがジッと俺を見て何かを納得している。アルテミリナ様じゃなくてメリリに魔法を貰ったってバレたか? ……さすがにそれはないよね?



「主様、今日は髪を洗ってくださらないのですか?」

 メリシャンのランク決めも終わり、ツバキとシオンに挟まれるようにして湯船に浸かっていると悪魔の囁きが聞こえてきた。

 ……シオンとフィーネの視線も感じる。

「うーん、昨日倒れたばかりだからね。さすがにやめといた方がいいかな」

 昨日よりマシとはいえ、今も視線に気を付けないと頭に血が上りそうになる。濡れて身体に張り付いた湯着は身体のラインを正確に映し出しているし、湯着を着ていると思って皆さん隠しもせず無防備に動いているからかなりきわどいんだよ。


「では今日は私が旦那様の髪を洗います」

「ふふふ、では私が後ろからお背中を流して、シオンは前から主様の頭を洗いましょうか」


 ……ツバキが後ろからムニュムニュと洗って、シオンは前から俺の頭を洗う? ――必然的に俺の目の前にはシオンの胸元があるわけで、湯着のゆるい胸元は防御力ゼロ。張り付いて形をくっきりと浮かせている場合もある。そしてツバキが後ろからムニムニと押してくるとツルりもあるわけで…………いや、無理でしょ!? また倒れるよ! 変態呼ばわりまっしぐらだよ!? ブクブクブク。


「……二人してずるい。……私もヤマヤマを洗う。……全身」

「ご主人さまのお世話は私がやりますよー」

「あ、ミーシアもやるの!」

「にゃん? 面白そうだから私もやっていいにゃよ」

「え、わ、私もやった方がいいのでしょうか? こん」


 妄想で赤くなった顔をお湯に沈めて隠していると何故か全員で俺を洗う話になってきているのだけど。

 大人しく湯船に浸かっていた乳猫――もといメイプルとミーシアも参戦しよう近寄ってきた。ヨウコはまだ髪を洗っている最中にもかかわらず場の空気に合わせて参加しようとしているし。

「いや、大丈夫だから。一人で洗えるから。――だからそれ以上すり寄って来ないように!」

 ……俺は紳士、俺は紳士だ。今は立ち上がれないけど、俺は紳士である。

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