第127話 メリシャン1

「ご主人さまー、お風呂のご用意をしますねー」

 食後のお茶を楽しんでいると、スンスンがお風呂の準備をするとやってきた。

 今日はスラムでのアレコレで汚れているので早く汗を流したい。っと思っていたけど、シオン達の視線が俺に突き刺さる。

「……お風呂の前にぽーしょんシャンプーを作ろうかな。お風呂はもう少しあとで入るよ」

「わかりましたー。それではすぐに入れるように準備しておきますねー。入る時はお声掛けくださいー」

 スンスンがペコリとお辞儀して風呂場に向かう。……どっちにしても準備しに行くんだね。


「旦那様、お手伝いします!」

 俺の隣で一緒にお茶を飲んでいたシオンが俺の手をぎゅっと握って立ち上がる。……やる気満々だな。シオンに尻尾があったらブンブン振っていそうだ。

「シオン、落ち着きなさいな。まだ主様はお茶をお飲みになっているでしょう?」

「あ、申し訳ありません」

 ツバキに言われてハッとしたシオンが椅子に座りなおす。……手は握ったままだけどね。気づいていないのかな?

「……シオンはぽーしょんシャンプーなしでは生きられない身体にされた」

「人聞きの悪い言い方するなよ」

 安心安全のメリリ印のポーションだぞ。変なものは入って――いないと思う。たぶん。



 それから片付けをヨウコ達に任せて俺達は二階の工房にやってきた。とりあえずフィーネは二階へ上がることが許可されている。しかし俺の寝室に入ることはツバキとシオンに禁止されていた。

 ……俺の寝室というか、俺とツバキとシオンの部屋だけど。二人とも普通に俺と一緒のベッドで寝てるし。――昨日は気を失っていたから問題なかったけど、今日は寝れるのか?


「……ヤマヤマ、ポーションは作らないの?」

「うん? あぁ、今日はやめとくよ。流石にいろいろあって疲れた。でもぽーしょんシャンプーは作っておかないとみんな使うでしょ?」

 昨日の分は適当に作っただけだし、もう残っていないだろう。

 それにスンスンがお風呂と言った時の、シオンとフィーネの圧力が強かった。ツバキやヨウコからも期待の眼差しを向けられていたしね。……でも毎日使わなくてもいいのでは? と思うけど、これを口に出すわけにはいかない。


 まぁ、せっかくミリスさんに精油まで買ってきてもらったんだから作ってみないとね。シオンの笑顔のためなら多少の苦労は問題ない。……当の本人は邪魔になりそうな前髪をヘアピンのようなもので留めている。やる気十分である。

 ……やる気満々なところ申し訳ないけど、ただポーションと水を混ぜるだけなんだよね。たぶん普通にポーションを作るくらいの作業を考えているんだろうけど……風呂場の脱衣所でちょちょいと作っていたの知ってるよね?


「主様、材料はこちらによろしいでしょうか?」

「うん。ありがとう」

 ミリスさんが持ってきた材料をツバキが机に広げ、ポーションの材料はフィーネが棚にしまっていく。――なんか手馴れている。薬草を種類毎に引き出しにしまい、道具は棚に並べている。

 そしてポーションの材料がなくなり、残ったのは精油の瓶が3本とオイルの瓶が一本。精油は3本とも香りが違うみたいだ。


「とりあえずFランクからCランクまでランク毎に作ってみようか。効果の違いも検証したいからね」

 FランクポーションとEランクポーションは商業ギルドに売るのに今日の制限分は作っていたな。シオンに聞くとまだ預けていた分が残っていたので今回はそれを使うことにした。

 Fランクでも効果があれば売り物にできるけど、昨日使ったのはBランクだし、あまり期待はできないかな。


「……ヤマヤマ、昨日はどうやって作ったの?」

「お風呂の水にポーションを入れて混ぜただけだよ?」

「「…………」」

 あれ? シオンとフィーネの動きが止まった。ツバキは気にした様子もなく微笑んでいる。ツバキは俺の行動を把握していたから驚いていないのかな。……シオンとフィーネは俺が風呂に入る前に用意していた物を取ってきたと思っていたのか? ずっと一緒に行動しているよね?


 そして硬直が解けたフィーネが口元に手を当てて何やら考え始めた。

「……以前Eランクポーションを香油に混ぜて使った時は効果なかった。……ポーションは直接髪に影響を与えることはないはず。……それに水に混ぜたら効力はなくなる。……ヤマヤマのポーションが特別だから? ……お風呂の水はただの地下水。……女神の加護持ちヤマヤマが浸かった聖水?」

「待てまて、最後のは絶対ないから! 最高品質だから普通のポーションとは違うとかでしょ!」

 俺が浸かった水が聖水とか嫌すぎる。それならツバキやシオンが浸かったからと言われた方がまだ納得できる。……まぁ最高品質だからというよりメリリ印のポーションだからかもしれないけど。 


「……最高品質。……ヤマヤマ、昨日はCランクポーションを使ったの?」

「いや、Bランクポーションだけど?」

「「「…………」」」

 今度は三人とも固まってしまった。

 そう言えばBランクポーションって現在の最高ランクだったね。それも俺のポーションは最高品質だし。いったいどれくらいの価値があるのか分からないレベルだよね。それを惜しげもなく一度髪を洗うために使ったわけだ。……まぁ、制限があるとはいえ、毎日手に入るけど。


「……。……ヤマヤマ? ……もう少し自重を覚えて?」

「いやいや、昨日は仕方がないでしょ! みんな逃げだすし、ツバキは覚悟を決めていたし! 中途半端なものなんて出せないでしょ」

 まぁ、ツバキの覚悟を見る前からBランクポーション使っていたけどさ。

「……ヤマヤマのポーションが特別だから効果が生まれたのか、Bランクポーションだから効果があったのか。……興味深い」

「まぁ今からそれを確かめるわけだけどね」

 Fランク、Eランクポーションでも効果があればいいけど、Bランクポーションでしか効果がないとなるとさすがに売り物にはならないかな。ま、やって考えよう。

 とりあえず机の上にDランクポーションとCランクポーションを出す。……何もない手のひらから突如として生まれるポーションをフィーネがキラキラした目で見ていた。


「……何度見てもすごい。……いったいどうやって生み出されているんだろう」

 確かに等価交換も何もないからね。もしかしたら魔力が減ったりしているのかな? でも毎日制限が復活するから関係ないよね? まぁメリリからもらった魔法だし、こんなもんだろう。うん。 


「それじゃ、まずは水の魔石で水を溜めて、それぞれにポーションを入れてみようか」

 ポーション作り用に用意していた器に水の魔石を使って水を溜める。そしてFランクポーションをシオンから受け取り中身を注ごうとしたところで、フィーネに止められた。

「……待って。……分量くらい計ろう。……効果の違いが把握できない。……それにいくらなんでも多すぎ」

 フィーネが小さな器四つにそれぞれ水の分量を合わせて用意してくれた。ポーションと同じくらいの水量。……さすがにこれは少ないような。――まぁ試しだからいいか。

 とりあえず一つ目の器にFランクポーションを加えて、香り付けに精油を数滴加える。そして軽く混ぜて、はい完成。……簡単すぎてシオンに任せる仕事がなかった。


「……間違いなく、ポーションを薄めただけの粗悪品ゴミ。……通常なら効果はないはず」

 フィーネが自分の髪に少し塗って効果を確かめる。見た目に変わった様子はない?

「シルフィ、昨夜のぽーしょんシャンプーの効果が残っているから分からないのでは?」

「……そうかも。……ヨウコが使ってない。……ヤマヤマ、四種類とも作ってお風呂で試そう」

 ……ヨウコを実験台にするつもりか。まぁ試す必要はあるし、危険はないだろうからお願いしてみるか。

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