第126話 白飯、味噌汁、焼魚。

「もぐもぐ。……うん、米だね。ご飯だ」


 ミリスさんとの話も終わり、ザルクさんとダリオさんに商業ギルドまでの見送りを頼んで屋敷に戻ると、すでに夕食の用意ができていた。

 ちなみに食堂のテーブルは今朝までと違い、十人掛けの小さなテーブルに変わっていた。……十人用で小さいと思ってしまうとは。


 昨日の夕食の時に俺がでかいテーブルはイヤだと言ったから、スンスンが昼のうちに家具屋で新調してくれていたようだ。……なぜか俺とツバキ、シオンの椅子だけ作りがいい。ふかふかのクッションまでついてる。フィーネが何かいうかと思ったけど黙って指定された椅子に座っていた。

 座席は俺の両脇にツバキとシオン、シオンの隣にフィーネ。そしてテーブルの反対側にスンスン、ヨウコ、メイプル、ミーシアが座っている。


 夕食のメニューは昨日お願いした通り、白飯と味噌汁。それに川魚の塩焼きにサラダがある。昨日メイプルが美味そうに魚を食べていたから夕食は魚をお願いしておいた。……なんの魚なのか分からないけど。

 しかし何というか――朝ご飯? いや、俺が頼んだんだけどね。タイミングが悪かったか。

 まぁこの国の人なら朝ご飯ってイメージはないだろうけど。


「お兄ちゃん、これ、味ないの?」

「にゃー、なんかノドに詰まるにゃ」


 昨日ヨウコに言った通り、みんなのメニューは同じだ。ミーシアとメイプルは白飯を頬張って微妙そうな顔をしている。……うん、まぁ気持ちはわかる。米があるとはいえ、現代日本の品種改良された米と比べると味気ない。激安の古米を食べている感じだろうか。

 それに米粒が崩れているのか、ぬちゃっとした炊きあがり。水気が多いわけじゃないけど粒が立っていない。

 ――しかし、文句は言えない。この白飯、スンスンがわざわざ鍛冶師のところで飯盒モドキを作ってもらって直火で炊き上げたそうだ。まぁ炊飯器はないよね。

 スンスンも知識として知っているだけで炊くのは初めてだったみたいだ。


 ツバキとシオンを見ると黙って食べている。白飯を黙々と。……いや、おかずと一緒に食べようよ。……俺が白飯だけで食べていたからか?


「ミーシア、味噌汁を飲みながら食べてみて。メイプルは魚と一緒に食べるといいよ」

 ミーシアに教えるように味噌汁をすすりながら白飯を食べる。うん美味い。味気なかった白飯が味噌汁の塩気で甘く感じる。

 さらに魚を箸でほぐして白飯にのせて一緒にパクり。うん、塩がきいていて白飯がすすむ。初めて見る魚だけど、メイプルが選んでいるだけあって美味しい。……ここで褒めると毎食魚になりそうなので黙っておくけどね。


「わー、なんか食べやすくなったの! それにこのスープ美味しいの!」

「にゃ! これと一緒に食べると魚が進むにゃ!」

 ……メイプル、そこはご飯が進むと言ってほしかった。


 味噌汁に関しては削った鰹節で出汁を取って、味噌を溶かすだけって言ったらヨウコが試行錯誤してくれたみたい。ちょっと味が濃くて後味に変な風味があるけど、味噌汁だ。

 ……具がないけど、ね。

 いや、わかめも豆腐もこの街で見たことないし。……ごめんなさい。ヨウコに具材のこと何も言ってませんでした。でもそこは料理人として何か具材を入れて欲しかった。……あとでコソッと伝えよう。

 ……ふむ。味噌があるんだから豚汁も有りだな。豚肉が魔獣の肉に変わりそうだけど。


「あら? 本当ですわね。魚やスープの塩気とよく合いますわ」

「お米だけでは少し食べづらかったですけど、一緒に食べるととても美味しいです。それにお茶とも合いますね」


 ツバキとシオンも真似して味噌汁や魚と一緒に食べて表情を輝かせていた。先ほどとは大違いである。

 まぁ俺も白飯だけでは食わないけどね。おかずがないとご飯って進まないんだよ。


「……もぐもぐ、ずずず」

「美味しいですねー」

 フィーネとスンスンは俺が言う前からご飯と魚、味噌汁にサラダと交互に食べていた。スンスンは炊き方を知っているくらいだし食べたこともあるんだろうけど。フィーネもあったのかな。


「フィーネはお米を食べたことあるの?」

「……うん、大陸の東側では普通に食べられているから。……でもこのスープは初めて。……不思議な味。……でも美味しい」

 へぇ、普通に食べられている、ねぇ。……これは新たな出会いの予感。いずれは行かないとね。和食が俺を待っている! っと、未来のことは置いておいて、


「スンスン、ヨウコ、ありがとう。美味しいよ」

「お口に合ってよかったです。こん」

 ヨウコは胸に手を当てて安堵の表情を浮かべていた。みんなの表情を見ているばかりで箸が進んでいなかったけど、安心したのかようやく食べ始めた。ツバキ達からも賛辞を受けて恥ずかしそうに笑っていた。ヨウコも昨日よりは打ち解けているみたいだ。


「炊き加減が難しいですけど、要領は掴みましたー。次はもっと美味しく作りますねー」

 スンスンは思いのほか嬉しそうだった。普段のお淑やかな笑顔じゃなく、子供っぽい笑顔で陽気に笑っている。これがスンスンの素の笑顔なのかな? ……子供にしか見えないけど、実際にはフィーネの次に年上なんだよね。……いや、考えないようにしよう。


「ご主人様! こうするとさらに美味しいはずにゃ!」

 メイプルは白飯の上に魚の身を乗せて味噌汁をかけていた。……ねこまんま? ねこめし? ……まぁ俺達しかいないし、食べ方は人それぞれ。好きに食べていいけどさ。


「あ! シアもやるの!」

「ミーシアさんー、お行儀が悪いからダメですよー?」

 メイプルの真似をしようとするミーシアを俺が止める前にスンスンが止めた。……前言撤回。教育によくないので駄猫のしつけが必要そうだ。


「――あの、ご主人様? なんで、私の顔を見るのですか? こん」

「いや、猫の世話は料理長の仕事かなって」

「……はい、わかりました、コン」

 メイプルをちらりと見て諦めた表情を浮かべたヨウコが快諾してくれたので、猫の世話はヨウコに任せることにする。まぁスンスンもいるし、大丈夫だろう。……特別手当くらい支給するかな。


「にゃうん?」

 器を口に当ててかきこみながら食べていたメイプルが皆の視線を受けて不思議そうに首を傾げていた。

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