第123話 メルビン×ミリス(仮) 2
「それで、メルビンさん。僕達の事情聴取に来たんですよね?」
スンスンが持ってきてくれたお茶で仕切り直してからメルビンさんに尋ねてみる。
「その予定だったけど、だいたいのことは第八警備隊やスラムの住人、ハーティアの連中から詳しく聞けたから大丈夫だよ。ヤマト君が不利になる証言もなく、大人しく罪を認めていたよ」
スラムの住人はハーティアの連中から、ツバキがスラムを一掃するために領主に雇われた敵だと言われていたそうだ。スラムを守るために戦わない者は二度とスラムに踏み込ませないと脅していたらしい。
ハーティアを恐れている者や家族がいる者、スラムを追い出されたら生きていけない人達が、ハーティアに加担するとわかっていながらもやってきたみたいだ。まぁ全員返り討ちになったことだしスラムの住人にはそれを罰だと思ってもらおう。
「スラムの人達はお咎めなしなんですよね?」
「ヤマト君が言っていたからね。ケガがひどい者には治療も行っているから安心してくれ。第八警備隊とハーティアの連中はきっちり罰を受けてもらうよ」
第八警備隊は即日解体され所属の兵士は全員に処分があるそうだ。特に俺達を連行した四人は厳罰になるみたいだ。
ハーティアもクマトンが罪を認めているおかげですんなりと片がつきそうだとメルビンさんが喜んでいる。ツバキに負けたおかげで聴取にも協力的で、クマトンの様子を見た一部の者がこれまでの経緯を話しているとのことだ。
ツバキのおかげで詳しい内情が聞け、ハーティアを壊滅に追い込んだとして金一封もあるとメルビンさんが言っている。
「(お金よりお酒の方がいいですわね)」
「(お姉さま、旦那様に贈られるものですよ?)」
「(では、ご褒美の美酒は主様から頂きたいですわぁ)」
ツバキの指先が俺の首筋に触れ、つうーとカーブを描くように顎付近に進み撫でていく。……身体がゾクゾクって震えるんだけど。いや、触り方がなんかいやらしいような。
「(わかったから、指止めてくれ)」
「(……ヤマヤマ、私もしたい)」
「……やったら怒るからね?」
「……ひどい」
手を伸ばしてくるフィーネをけん制しているとメルビンさんとミリスさんがクスクスと笑っていた。……またしてもやってしまったな。いや、俺がやったわけじゃないけど。――とにかく話を戻そう。
「警備隊とハーティアについてはわかりましたけど、……セルガはどうなるんですか?」
「彼は警備隊の牢屋にいるよ。ケガが酷かったからさすがにポーションを使ったよ。まぁ代金はヴァリド男爵に請求するから問題ないさ。まだ事情聴取ができるほどは回復していないけど、彼が何を述べたとしても厳罰が下るよ。少なくともヤマト君に近づけさせないことは約束する」
……ふむ、しぶといな。いや、殺したかったわけじゃないけど。――ただ、逆恨みをされてまた向かってこられるのも嫌だな。
「……あの男は追放にするべき。……それがお互いのため」
「一応そういう話も出ているよ。商業ギルドの資格もはく奪されるはずだから、彼は貴族側で処理することになる」
「商業ギルドではセルガ殿の資格はく奪は間違いありません。すでに処理されているかと思います」
フィーネの言葉にメルビンさんが頷き、ミリスさんもギルド資格のはく奪を認めた。
でも、追放って……犯罪者をそのまま放り出すの? 犯罪奴隷になるんじゃないのね。やっぱり腐っても貴族ってことなのかな。
「……ヤマト君にヴァリド男爵から伝言がある。まずセルガがしたことに対する謝罪。そしてヤマト君が望むならセルガを勘当する覚悟もあるそうだ。――ただ、セルガのことを許してくれるのであれば賠償金として金貨30枚を用意して、その上でセルガを辺境伯の下に従軍させることで罰としたいと言っていた」
男爵は俺が望むならセルガを罪人として罰する覚悟もあるということらしい。俺がセルガを犯罪奴隷にしたいならそれが有効と。そして俺がセルガのことを許すなら賠償金として金貨30枚、そして罰として国境の警備をする辺境伯の下で最前線の砦に3年ほど従軍させるそうだ。貴族の子弟が受ける罰としてはかなり重い罰に該当するみたい。
まぁ、犯罪奴隷にしても俺にメリットがあるわけじゃないし、そこまでする必要はないかな。金貨を貰って3年の兵役をさせた方がマシか。
「……その辺境伯は北?」
俺が返事をする前にフィーネがじろりとメルビンさんを見て質問する。この国の地形がどうなっているのか知らないけど、四方に国があるなら国境を守る辺境伯も東西南北で四人いるのかな?
「……いや、ヴァリド男爵は南を考えているだろう」
フィーネの質問にメルビンさんがわずかに視線を泳がせて答えた。それを聞いたフィーネはため息を吐いて俺の方を見る。
「……南は非戦闘地域。……従軍したところで罰にならない。……罰というならバンダル辺境伯の方にするべき。……あと、金貨は50枚。……ふざけたことを言った罰」
フィーネによると南の辺境伯領は同盟関係にある国境になるので、危険もなく、訓練などもほとんどないそうだ。貴族の子弟が悪さを働いた時など世間体を考えて一時的に送られるお馴染みの場所らしい。
そしてバンダル辺境伯の方は休戦協定を結んだ仮想敵国との国境であり、魔獣の出没するバリバリの最前線。命を落とす兵士も多く、訓練も苛烈を極めるそうだ。
……ふむふむ。メルビンさんは知っててその提案をしてきたわけか。――つまりメルビンさんは男爵――セルガ側の貴族ってわけね。
「っ、今の話はあくまでヴァリド男爵からの伝言で、私の考えじゃないよ!? 私はこんな提案は跳ねるつもりだったんだ!」
俺の顔色を察したのか、メルビンさんが慌てて言い訳を始めた。そして俺達とミリスさんの視線がメルビンさんに突き刺さる。たぶん殺気も刺さっていると思う。
まぁメルビンさんも貴族だから貴族よりの発言になるのは仕方がないか。
「そうですか。……なら僕からの返事は、バンダル辺境伯の下で5年の兵役、そして金貨は50枚、ということでお願いします。あ、そうだ。もし断られたら、犯罪奴隷にしてバンダル辺境伯の下で兵役につかせてください」
セルガの処罰はメルビンさんに任せていたけど、そういう提案をしてくるなら、どっちに転んでもバンダル辺境伯の下で役に立ってもらおう。国境を守護する辺境伯にささやかな贈り物だ。
……いらないって言われるかもしれないな。ポーションを数十本付けるか。セルガが死にかけても何度でも蘇らせて魔物に突撃させるようにね。
「わ、わかった。ヴァリド男爵に伝えるし、私もヤマト君の意向にそうように働きかけるよ」
俺がニヤニヤとセルガの未来を想像していると引きつった笑みを浮かべたメルビンさんがそう約束してくれた。まぁ本当にあげるわけじゃないけどね。
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