第124話 商談ミリス1(仮)

 メルビンさんはセルガの件を話し合うと言って先に帰った。ミリスさんとの話し合いに同席したそうにしていたけど、ツバキのひと睨みで逃げるように退出した。あとはスンスンが見送ってくれるだろう。


「そういえばヤマト様、さきほど三名の若者を見ましたが、彼らは新しい使用人ですか?」

「いえ、彼らには僕の専属冒険者になってもらうんですよ。防具代などは支援したのであとは冒険者の推薦を受けて登録するだけみたいです。すでに推薦をもらえるように準備はしているようです。……重要な役割を任せるつもりなので、できれば目にかけてあげてください」

「なるほど。まだ冒険者登録はされていないのですね。わかりました。ではすぐにでも登録がされるように冒険者ギルドには私の方から指示をしておきますね」

「え、ミリスさんがですか?」

 商業ギルドの職員が冒険者ギルドに口出しするの? ウイナ達が商業ギルドに用事がある時に少しでも優遇してくれたらって思っただけなんだけど。 


「冒険者ギルドは商業ギルドの下部組織なのですよ。私の方から連絡しておけば冒険者の推薦もいりませんよ。彼らが冒険者ギルドに行ったら資格を発行するようにしておきます。お名前をお聞きしてもよろしいですか?」


 冒険者ギルドを管轄しているのは商業ギルドらしい。冒険者が集めた素材などを冒険者ギルドが買い取り、商業ギルドが販売する。また商業ギルドから商人の護衛などの依頼が冒険者ギルドにいくみたいだ。

 ミリスさんが冒険者ギルドに一言伝えるだけでウイナ達は冒険者になれるそうだ。……ウイナ達が必死に用意していた防具や推薦すらいらないって、やっぱり権力とコネは強いね。

 ……。俺はこの街の領主と商業ギルドの代表代理とコネがあるけどね。ポーションは偉大だ。


 ウイナ達は冒険者になるための準備はできているけど、お上から一言あればウイナ達が軽く扱われることもないだろう。ミリスさんのお言葉に甘えてウイナ達のことをお願いしておいた。

 ミリスさん曰く、俺のポーション作りはすべてにおいて優先されるそうだ。どこかで聞いた気がするけど、どこかでと違いミリスさんの言葉には力強さを感じる。

 俺のポーション作りに必要なら最高ランクの冒険者チームを王都から招集することもできると熱弁された。……いや、ひも付きはいらんけどね。


「……彼らから情報を得ようとしたら敵対行動とみなす。……ツバキが黙ってない」

「――肝に銘じておきます。レベッカさんにも伝えます。ただ、私はヤマト様の専属受付嬢なので、必要な薬草や道具を教えて頂ければご用意しますよ。もちろん秘密は厳守します。必要であれば商業ギルドはもちろん、レベッカさんにも開示しません。現状、一番優先されるのはヤマト様のポーション作成です。作成のためなら協力は惜しみません」


 ……ミリスさんが目を輝かせて訴えているけど、いくら協力されても最高品質の数は決まってるんだけどね。それにポーション作りのことは秘密にするってフィーネとの約束もある。

「お気持ちはありがたいですけど、作れる数は決まっているので。……もしかしたらこれからは品質が落ちる物が増えるかもしれません」

 フィーネと作るポーションも売りたいからね。名目上は全部フィーネ作にした方がいいのかな。ミリスさんから見たらフィーネは俺の弟子だろうし。


「必要な物は揃えます。……我々に秘密というのであれば、最高ランクの鍛冶職人や採取専門の冒険者を用意することもできますが」

「あー、いや、詳しいことは言えませんけど、いろいろ制約があって大量に作ることはできないんですよ」

「(……日に数十本作れて、大量に作れない。……ヤマヤマの基準がおかしい)」

 フィーネが小声で何か言っているな。……Cランクは週に1本って言ったし、最高品質はDランクを数本にして、FランクやEランクのポーションは俺とフィーネが作った分を出すことにしたい。Dランクポーションだけでも十分に稼げるだろう。

 最高品質のFランクやEランクは「ぽーしょんシャンプー」製作に使いたい。


「だからこれからはフィーネもいますから、質より量を取ろうかと思っています」

 俺の言葉を聞いたミリスさんが俯いて表情を隠した。それから少しの間を開けて顔を上げたミリスさんは、真剣な表情で俺を見つめていた。

「――ヤマト様、最高品質のポーションはポーション職人の希望です。その製作にかかる労力がいかほどのものなのか、私には計り知れません。ですが見合うだけの金額をご用意します! 現在の買取価格が低いということであれば可能な限り努力します! 必要な資材はなんでもご用意します! どうか量より質でお願いします!」

 熱意の籠った声と視線。そして深々と頭を下げるミリスさんを見た俺達は、顔を見合わせて何とも言えない気持ちになる。

 いや、だって……労力ないよ? ――深呼吸をする方が大変かもしれないレベルで。


「(……気持ちはわかる。……最高品質を作れるのに作らない。……でも低品質は大量に作ると宣言。……なんで? その方がお金を稼げるから? って考えたのかもしれない。……いっそのこと、適正金額に戻そう。……その方がお互いのため。……そのうえで提供する数を減らそう)」

「(金額はフィーネも一応納得していただろ。それにポーションが不足しているなら質より量の方がよくないの?)」

 最高品質って高いし貴重で使い勝手悪くないのかな? それなら低品質が大量にあった方がいいのでは? 大量に作れるのか分からないけど。

「(……最高品質を作れるのはヤマヤマだけだから、ヤマヤマが作らないと誰も作れない。……質を取るのは当たり前。……でもその割に価格が安いから気に入らない。……ヤマヤマが納得していたから商業ギルドではあれ以上言わなかっただけ。……本来なら低ランクのポーションでも金貨が必要)」

 Fランクポーションが100万G? それは流石に高すぎるだろう。まぁ本来なら手に入らない物だから高値がついてもおかしくないのか。……毎日数十本作れるからありがたみが薄いけど。


「えっと、ミリスさん。質を落とすと言っても最高品質のDランクポーションを数本は用意しますよ。ただそれに力を入れるので低ランクポーションの方は品質が落ちるというか、なんというか」

 ちらりとフィーネに視線を送る。そして改めてミリスさんを見ると納得の表情を浮かべていた。

「なるほど。ヤマト様はDランクポーションを作り、シルフィーネさんに低ランクポーションを作っていただくのですね。そのため品質が落ちる可能性があると。ですがヤマト様がDランクポーションをご用意していただけるなら質はむしろ上がりますね。……Dランクポーションはどの程度の頻度でご提案いただけるのでしょうか?」

「そうですねぇ。……一日に3本くらいですかね」

 フィーネがミリスさんにバレないように指で三回突いてきたので三本になった。……Dランクポーションは毎日でいいんだよね? ……フィーネが俺に身体を預けるように寄りかかってくる。なんかやらかしたか?

「(……ヤマヤマ。……値段の交渉は明日、私がするよ)」

「(……お願いします)」

 特に怒ってはいないし問題なかったようだ。俺に寄りかかる口実作りに利用された気がするけど。

 ミリスさんに値段は明日レベッカさんも交えて交渉すると伝えてこの話は終了となった。

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