第74話 平和なひと時
「頂きます!」
「「「頂きます!」」」
ポーション談議をしているといつの間にか結構な時間が過ぎていたらしく食事の用意が出来ていた。
メイプルの悲し気な鳴き声をツバキが聞き食事が出来た事が分かった。…………。魚が冷えると悲しんでいたみたいだ。
この屋敷の食堂には屋敷に見合った二十人掛けぐらいの広長のテーブルが置いてあった。当然の様に俺は上座に案内される。…………。いや無理、普通のテーブルが良いです。皆と距離もあるし偉そうだ。
というわけで急遽別室にあった丸テーブルを用意。四人掛けなので俺、ツバキ、シオン、フィーネで使って残りの皆は元々のテーブルでお願いする事にしたのだが、スンスンとヨウコは配膳や雑用をする為に待機しているそうだ。
雑用は各自でやればいいと言ったけど頑なに拒否された。特にヨウコは一緒に食べても味が分からなくなると酷い事を言っていた。
後から二人で食べるそうなのでそれ以上は何も言わない事にした。ただ遠慮はするなと念押しだけはしておいた。
結局食卓に着いているのは俺、ツバキ、シオン、フィーネ、ミーシア、メイプルの六人だ。ザルクさんとダリオさんは食事は良いと言っていたが領主が帰るまでは門番をするそうだ。……特別手当を支給しよう。お土産も忘れずに。
そしていよいよ食事が運ばれて来たのだが、どうやらヨウコは俺とツバキ、シオンには良い物を出して他の皆には安物を出しているようだ。俺の皿に乗っている肉とミーシアの皿にある肉は明らかに別物である。変に気を使わせてしまったようだ。
明日からは手間も掛かるだろうし皆俺と同じ食材とメニューにするように伝えておいた。一緒の食卓で自分達だけ良い物を食う趣味はないからね。
「美味しいの! こんな大きなお肉食べた事ないの!」
ミーシアは厚切りのステーキを幸せそうに食べている。丸兎の肉らしい。冒険者が比較的簡単に取って来るので安価で平民に好まれているそうだ。それでもステーキになると中々手が出せない金額らしいけど。
俺の肉は魔獣の高級肉らしい。脂が甘くて霜降り肉の様に柔らかくてかなり美味い。冒険者でも中堅以上でなければ狩る事が出来ない魔獣らしく平民では手の出ないレベルらしいが金額は教えてくれなかった。比較されるのが嫌だそうだ。……別に責めないよ? 足りなくなるならまた金貨渡すし。……嫌がらせじゃないよ? 銀貨そんなに持ってないから金貨を両替に行って貰わないと渡せないし。
「うにゃぁぁぁ、しあわせにゃー。毎日食べたいにゃぁー」
メイプルは一人だけギルドから貰った魚の丸焼きを食べている。海の魚らしく平民には中々手が出せない金額らしい。メイプルは長い事食べる機会がなかったみたいで大喜びである。
この街があるベルモンド領には川はあるけど海は面していないそうだ。その為、川魚に比べて海の魚は数が少ないらしい。隣の領に小さいながらも港があるので内地にある王都に比べると手に入れやすいそうだけど。
でも流石に毎日魚は嫌だ。……けど、本当に美味そうに食べているな。ふにゃふにゃの笑顔で骨まで食べてる。…………うん? 骨まで食べるの?
「最高にゃぁー」
…………。最高らしいので気にしないでおこう。猫人恐るべし。
「メイプルさんー、猫人の評判に関わりますから骨は残しましょうねー」
「うにゃ!? 取らないでにゃー!? 後生にゃぁぁぁ」
……賑やかだねぇ。主に猫が。
「ヨウコさん、凄く美味しいです」
「本当ですわね。昨日の宿屋に負けていませんわよ」
「あ、ありがとうございます。……お肉が良い物だからだと思います。コン」
ヨウコはツバキ達に褒められて赤くなっている。肉が良いだけじゃここまで美味しくはならないだろう。現代の精肉店で高級肉を買っても自分で焼いたらそこまで美味しくなかったぞ。焼き方以前に下処理でも差が出るはずだ。ヨウコは間違いなく一流の腕前だろう。
「本当に美味しいよ。焼き加減も完璧。もっと自信持って良いよ。明日からも楽しみにしているからね」
「は、はい! ご期待に添えるように精進します! コン」
「……私がポーションを作った時はこんなに褒めなかった。……ズルい」
「いや、だってGランクだったし。頭撫でたじゃん?」
「……頭を撫でるだけじゃ満足しない。……それにヤマヤマ以上の物が作れる者は存在しない。それを基準にされたら誰も勝てない。認識の訂正を求む」
フィーネが肉を頬張りながらむすっとしてしまった。うーん、フィーネは薬師としてのプライドはないみたいに思ったけど実はあったのかな。今の俺は魔法を除けばフィーネより下なわけだしポーション作りの間は師匠と呼ぶか。
「シルフィ、そんなむくれてはダメですわよ。貴女も飲みますか?」
「……貰う」
ツバキは早速貰い物のお酒を飲んでいる。……これから領主が来るんだけど。
「この程度では酔ったりしませんわ」
「…………酔っ払いはみんなそう言います」
「例え酔っていても行動が鈍る事はありませんからご安心くださいな」
「旦那様、お姉さまも久しぶりのお酒になるので少しだけ目を瞑ってください。加減が利かなくなっても動きは変わりませんから」
……加減が利かなくなるってヤバくない? 相手が。
ま、いいか。領主と敵対するわけでもないし。久しぶりって言うならゆっくり飲ませてあげよう。
「ご主人さまー、お茶の御代わりですー」
「ありがとう。……うん、美味しい。身体に沁みる。日本人の心だ」
「お兄ちゃん! シアもそれ飲むの!」
使用人と来客用の湯呑は多めに買っていたから人数分あるだろ? ……あれ? ツバキとフィーネはお酒飲んでるから別にしても何で俺とシオンの分しか用意していないんだ? スンスンに視線を向けると困ったように首を傾げた。
「宜しいのですかー?」
「うん。皆も飲んでいいよ?」
…………。あぁ、そう言えば今飲んでいるお茶はコニウムさんから買った高級茶だったな。
商業ギルドからついさっき米とお茶が届いたけど箱詰めされていたからそのまま放置しているんだった。もしかして高級茶だから遠慮しているのか?
「スンスンとヨウコも飲んで良いからね。当分の間は持つだろうし、通常のお茶も商業ギルドから届いているから安心していいよ」
「はいー、ありがとうございますー。後ほど頂きますねー」
……米は届いたしコニウムさんから貰った米もあるけど、米を炊く為の用意が出来て居なかった。ヨウコは米の炊き方を知らなかったし、どうやって調理するのか悩んでいたみたいだ。
スンスンは知っていたらしく、明日炊く為の鍋を買って来てくれるそうだ。その為今日のご飯はお預けになってしまった。……痛恨のミスだ。
明日の朝もご飯は無い、だと。……まぁ用意しなかった俺のせいだから我慢するけどね。
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