第41話 魔王城3


「本日の持って来たポーションはこちらになります。シオン」

「はい。Fランクポーション42本、Eランクポーション16本になります」


とりあえず聞きたい事は聞けたし本来の目的であったポーションの販売をすることにする。

シオンに言うと大事に抱えていたバックから丁寧にポーションを取り出し机の上にあるトレイに並べて行く。並べる数が増えるに度にレベッカさんの表情が輝きだす。

何か凄い喜んでいる? 金儲けの匂いが漂っているのかな?


「確認させて頂いても構いませんか?」


シオンが並べ終える前にそう言って俺を見て来た。俺が頷くのを見ると直ぐにポーションを手に取り観察する。そしてレンズの様なものを取り出しそれをポーションにかざして見ていた。


「…………。間違いありませんね。最高品質です。それもこれほどの数が」


あのレンズで品質確認が出来るのか。科学より上の魔導具がある気がする。

あの魔導具があるからギルドが品質管理が出来るのか。……一般には出回っていないのか。


「それは品質を鑑定する魔道具ですか?」

「はい。ポーションであれば正確に五段階で鑑定することが可能です」

「それは一般には販売されていないのですか?」


それが流通していればギルドがポーションを管理する必要がないよね? ……ギルドが独占しているのか。


「これは商業ギルドの秘蔵の一品です。一般に販売はしておりませんね。商業ギルド内でも扱う事が許されているのは一部の者だけです」

「ポーションの鑑定専用ですか?」

「いえ、食料品などにも使えます。最もその辺りは知識と経験で判断しておりますが。余程の一品以外には使用されませんね」


俺のポーションはギルド職員の目から見ても余程の一品に見えたのかな? それで鑑定してみたら最高品質だったと言うわけか。

…………。もしかしてそれが見逃されていたらこんな好待遇はなかったのか? …………ミリスさんか? 余計な事を……。


こんな風に俺を下にも置かない待遇は俺は望んでいなかったんだけどな。


…………。ま、待遇が良くなったんだからそれはそれで良しとしよう。

ポーションを売りに来る度に警戒するのは面倒だからね。今後はスムーズに買取り依頼が出来ると思えば些細な事だと思うとしよう。


「――ヤマト様、このポーションの製造方法をお教え頂くことは出来ませんか?」


うん? いや、普通に無理。念じたら出て来るって教えればいいの? 無理でしょ?

教えたくても教えれないから。


「……例え拷問されても教えることは出来ませんね」


「ッ!?」


…………。


…………俺は軽はずみな事を言う事を止めた方が良いみたいだ。


俺の言葉を聞いたツバキとシオンから凄まじいプレッシャーを感じる。


心臓を鷲掴みにされたように体が硬直する。怖くて横も背後も向けない。


俺に向けられたものでは無いんだろうけど狭い部屋にいるせいか俺にまで影響があるようだ。


息苦しい。身体が震える。心臓がうるさい。――そして時が長い。心臓が高鳴っているはずなのにひどくゆっくりに感じる。

なんだろう、この感じ。街中でいきなりライオンに出会い、目が合ったような感覚だろうか。

会った事ないけど。


…………この殺気を直接受けているであろうレベッカさんは汗を拭き出しながら俯いている。


うん。ごめんなさい。これは俺の責任だよね。俺が頑張るしかないか。


「――ツバキ、シオン。止めろ」


「「ッ! はッ!」」


勇気を振り絞って声が上擦らないように注意しながら声を出したら思った以上に硬質な声が出た。強く言ったつもりはなかったけど二人は俺の左右で床に膝を付いて頭を下げていた。


そしてそれを見るレベッカさんの顔が驚きに満ちていた。

…………。いえ俺も驚いています。なんで跪くの?


「いや、怒るつもりはないよ。椅子に座っていいから」


二人を宥めて立ち上がらせるとツバキまで俺の横に座っていた。いや良いけど、どういう心境の変化?


「ヤマト様、軽々しいことを口走った事を謝罪致します。重ねて申し上げますが、我々商業ギルドがヤマト様を軽んじる事、騙し陥れる事はありません。今回の発言は私の私的好奇心に寄るものでした。不快な思いをさせてしまい大変失礼致しました」


「いえ、大丈夫です。こちらこそ二人が失礼しました。ただその質問に答えることはできません」

「はい。理解しております。ポーション職人の技術は門外不出。その事を理解しておきながらの発言、殺されていても文句は言えませんでした。寛大な処置ありがとうございます」


…………。いやいやイヤイヤ、なんで今殺されるとか言う単語が出た? 聞かれて断っただけだよね? え? この世界の薬師やポーション職人は技術の漏洩で殺されるの? ツバキに脅された薬師さん大丈夫だったの?


「……えーと、レベッカさん、ポーション職人の技術って生き死にを左右されるほどの事なんですか?」


「ヤマト様の技術であれば致し方無しかと。ヤマト様がお許しになるのであればギルド在住の薬師を弟子に迎えて頂きたいと思うほどです。そして今後ヤマト様の事が公になれば弟子入りを志願してくる者が後を絶たないかと」


いやいや、弟子とか無理だから。何にも教えれないから。むしろ俺が教えて欲しいから!


「ご安心ください。主様が望まぬ者は私が排除致しますわ」


いやツバキさん、全然安心できないからね! 志願者って自殺志願者じゃないからね! 


「レベッカさん。僕は弟子を取るつもりはありません。弟子入りを志望する人の不幸な出来事を回避するためにも僕の事は公にしないで下さい。…………。僕は目立ちたくありません。細々と生活したいのです。正直、先ほどのホールでのやり取りで注目を集め過ぎたと思っています。責任を持ってどうにかしてください」


さもないとポーション取り上げます。って視線をポーションに移したら商業ギルドの全力を持って! と誠意を持ってやってくれるみたいだ。

良かった良かった。

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