第42話 魔王城4

「失礼します。遅くなり申し訳ございません」


レベッカさんと今後の打ち合わせをしていると扉がノックされミリスさんが入って来た。

さっきホールに他の受付嬢と一緒に並んでいたけどレベッカさんの一言で直ぐに窓口に戻って行ったんだよね。…………。遅れたって事はここに来る予定だった?


「ミリス、そちらは問題なかったか?」

「はい。恙無つつがなく引継ぎを終えました」

「良し。ヤマト様、今後はこのミリスをヤマト様の専属受付嬢として配属したいと思っております」


…………うん? 専属受付嬢はCランク以上の特権だろ? 何でFランク薬師に専属受付嬢が付くんだよ。また余計な好待遇か?


「僕はFランクですよ? 専属受付嬢を付けて頂く理由がありません。贔屓は不要です」

「ご説明がまだでしたね。商業ギルドの規定に最高品質のポーションを作成できる者には無条件でCランクに昇格させるように規定が定められています。その為、ヤマト様のランクは既にCランクとなっており、専属受付嬢を配属する条件を満たしております。それに目立ちたくないとのことでしたので買取りなどのご用命の際に専属受付嬢が居れば窓口で待つ必要もなく、専用窓口にて秘密裏にお取引が可能です」


その代わり専属受付嬢を付けられているって噂が立つわけね。そんな規定があるなら昨日までFランクだった者がいきなりCランクになったって最高品質が関わっているって宣伝している様なものだよね? 


「ご安心下さい。ヤマト様が目立ちくないご様子だったので私の方でヤマト様が持ち込んだポーションがCランクだったと噂を流しております。私の元専属商人の方にも専属入れ替えの際にヤマト様の名前を伏せた上でご説明しております。利に聡い商人であれば最高品質ではなくCランクポーションの方に真実味を感じそちらを信じます」


ギルドランクがCランクに上がる条件にCランクポーションの作成も該当するみたいだ。普通の者なら最高品質ではなくCランクポーションを作れることだと認識するみたい。つまり俺はCランクポーションまで出しても問題ないって事か?


「ヤマト様がこの街に来たのは師匠からの修行の一環であると噂を流しましょう。弟子であるヤマト様になら弟子入りを望むことは出来ません。それにヤマト様の事は領主様と共同で包み隠します。ヤマト様が他所でポーションを使わなければ存在がバレることはないでしょう」


俺の存在を包み隠す? 領主と一緒に?

…………。なんだ? 手回しが異様に良い。俺の性格を理解している? ミリスさんなら俺が細々と暮らしたいって言うのは知っているだろうけど、領主? …………。貴族と裏で繋がっているのか? 領主側の情報もレベッカさんに流れている? 


「なぜ領主様の名前が出たのですか?」

「……実はヤマト様がそちらのお二人を領主様から頂いたと聞き、事実確認の為領主邸に行き話をしました」


…………頂いていないからね? 対価は払ってるからね? 借金まみれですからね? 

でも領主と協力体制になっているならCランクポーションの事も知っているのか? 月に二本って言ってるからそこはそのままの方がいいか。領主側にもレベッカさんの情報が流れている可能性もあるわけだし。


「どんな話をされたのか興味がありますね」

「他愛もない世間話と当商業ギルドと領主家でヤマト様を持て成そうと言った話です。その為、先ずは我々の意思を伝える為に謝罪をし、今後の懸け橋にヤマト様と交流があるミリスを専属受付嬢に選びました」


大々的に謝罪をしたのは領主側に対する牽制も含まれているのね。商業ギルドが非を認め観衆の前で謝罪をする。わだかまりは無くなりましたよ。って領主側に見せつけたかったのか。

…………。でも俺が受け取らなかったわけだから失敗だよね?


「ヤマト様、私が専属受付嬢として対応させて頂けるのであれば商業ギルドで行う事が出来る全ての業務を受け持ちます。ポーションの買取りから薬草の販売。生活用品の手配に住宅兼工房の用意に至るまでヤマト様のお手を煩わせる事はありません」


…………。うん? それ買取り以外必要か? それに住宅の用意? シリカ嬢の事は聞いていないのか?


「そう言えばヤマト様、シリカとは一緒に来られなかったのですか? 家の設備の手配をさせているのでしょうか?」


…………シリカ嬢。報告に戻っていないのか。


「家は決まりましたよ。オルガノさんが紹介してくれた中央区の元商人が住んでいた豪邸です。シリカさんは邪魔だったので先に帰しました」


「「…………」」


二人とも絶望したような表情で黙ってしまった。別にシリカ嬢を擁護してあげる筋合いはないからありのまま言うよ? それ以上に言わなかっただけ感謝して欲しいぐらいだ。


貴族側に屋敷を任せられた上にシリカ嬢は邪魔だから帰されたって一体何を仕出かしたって思うよね。


「…………。僕が望む物件は商業ギルドが所有する物件の中にはなかったみたいです。シリカさんは頑張ってはいましたが、頑張り過ぎでしたので先に帰しました」


流石に二人の顔を見て要ると哀れに思えたので少し擁護してしまった。

ま、シリカ嬢に別段恨みを覚えたわけでもないからね。少しイラっとしたけど。


「ご迷惑をお掛けして申し訳ありません。中央区の元商人が住んでいた豪邸と言うとあの風呂場が豪華なお屋敷ですね?」

「ええ。レベッカさんも知っているのですか?」

「はい。あの改装をするに当たって色々と便宜も図りましたので。…………。あの屋敷を手放しましたか。なるほど」


いや、一人で納得しないで。何かあるの? 領主が今まで頑なに手放したがらなかった屋敷をぽっと出の俺に貸してくれたとか? うわー目立つな。


「なにかありましたか?」

「いえ、あの屋敷は領主様が商人を王都に栄転させてまで欲しがった屋敷だったもので。その後も手入れは怠らなかったようで何か訳ありなのか調べていた所でした」


…………。本当に何か訳あり物件なの? ……今さら別の家は嫌だな。俺が望む設備は整っているし、何かあるならその時対応しよう。

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