第40話 魔王城2


「改めまして、私は当ギルドの副ギルド長を任せられているレベッカと申します。どうぞお見知り置きを」

「初めまして。昨日ギルド登録した新人ギルド員、Fランク薬師のヤマトです。よろしくお願いします」


案内されて来たのは昨日の二十番台窓口ではなく一般窓口の奥にある執務室の様な部屋だった。

レベッカさんが先導して入り俺達にソファーを勧めてくれた。ツバキ達にも進めた事が少し以外だった。

シオンは俺の隣に座りツバキは俺達の後ろに立っている。そのことにレベッカさんから何か言うつもりはないみたいだ。


警備員は部屋の入り口まで付いて来たけど俺が入ると扉を閉めて部屋の前で待機しているみたいだ。

…………。逃げれない様に閉じ込めた?


「…………信じて貰えないかも知れませんが、私共商業ギルドはヤマト様と事を構えるつもりは一切ありません。良好な関係が築けることを願っております。昨日の暴行事件もヤマト様に限らず誰が相手だったとしても止めるべき案件でした。ギルド職員には当会員であるギルド員を守る行動をするように厳しく再教育しました。今後同じ過ちが起こることが無いよう努める所存です」


外の警備員は俺を捕えたり逃がさない為じゃなく、俺の護衛の為に用意したわけか? …………。失態を犯したギルド側でも護衛を用意しないと恰好が付かないか。ギルドに来るために護衛を用意しましたってのはギルド側からしたら恥でしかないよな。ギルド内が危険だって言って歩いている様なものだし。……事実だけど。


「問題ありませんよ。昨日の教訓を生かして身の程を弁えて行動することにしましたので。自分の身を守れないのであれば守る存在を用意するべきだと理解しました。もう、なんの問題もありませんとも」

「主様に害なす者には一切の容赦はしません。そのこと、周知されることをお勧め致しますわ」

「旦那様が我慢したとしても私達が我慢できるとは限りません。努々ゆめゆめ忘れられませんように」


「…………謹んでお受け致します。直ぐに信頼が回復できるとは思っておりません。今後の我々の対応にてご判断頂きたく存じます」


ふむふむ。家の場所を商業ギルドの傍を押してきたり、貴族にあからさまに対抗してきたのはそちらの誠意と言う訳ですね?


「僕も商業ギルドとは良好な関係を築けて行けたらと思っています。今回の事件があったからこそこの二人と出会えたので商業ギルドに直接恨みを持つ事はしません」


「…………寛大な処置に感謝の言葉もありません。今後とも良き関係が築けるように尽力するつもりです。付きましては昨日の事件に関して、関与した受付嬢は一か月間の謹慎処分、薬師は一か月間の資格停止処分とします。また一か月分の給与、収益を罰金として徴収しヤマト様への慰謝料としてお支払いします。この期間中に問題を起こした場合は処分期間を永久処分に変更し、ギルドから追放します」


…………。貴族の子弟でありDランク薬師として好待遇だったセルガにこの処分はギルド側からしたら結構重いのか? でも貴族で金があるんだろうから一か月間の資格停止って懐が痛いわけでもないよね? 一か月間薬作って保管すればいいし。一か月分の収益がどれくらいか知らないけど昨日の感じじゃ俺より少ないよね? 受付嬢に関しては更にね。


俺は怪我していないし軽い暴行事件としては重い罪なのかも知れないけど、被害者の気持ちが治まるかは本人のみぞ知ることだ。――そして俺は許さない。


「なるほど。では僕が彼に一発ケリをぶち込んでも一か月の資格停止と昨日の収益を払うだけでことは済むのですね? ……あぁもちろん蹴るのはツバキですけど。僕の奴隷なので僕が責任は持ちますから安心してください」


一か月間の収益を払えばいいなら俺はまだ銀貨三十枚しか稼いでいないからね。あれだけの量を作るのに一か月間掛かるって言えばそれでいいんだろ?

ツバキはやる気満々みたいだぞ。軽くデモンストレーションに空中を蹴ったら風切り音が鳴り部屋の端にあった観葉植物の枝が切れた。

…………。うん、死んだね!


「お、お待ちください。今回の件は異例尽くしで私共も対応に苦心しております。ヤマト様のお怒りはごもっとも。ですが、ここは怒りを落ち着けるきっかけを商業ギルドに託して頂けませんか? ご希望に添えるように副ギルド長である私が自ら努力致します。先ずはヤマト様のご希望をお聞かせください」


「死刑」

 

…………。

…………。


そして時は動き出す。


「ってのは冗談ですが」

「…………心臓に悪いのでそう言った事はお止め頂けると嬉しいですね」


おっと、レベッカさんの額に青筋が浮き上がってしまった。いやー、だってレベッカさんが下手に出まくってくれるからさー。俺はただのFランクなのにそんな下手に出たら調子に乗るよねー。


――――そんなに最高品質のポーションが欲しいんだ?


「話は変わりますが今日はポーションを58本持って来ました」

「――――拝見しても?」


目の色が変わったよ? 少し怖いから。身を乗り出すの止めて。下手に俺に近づいたら迎撃されても知らないよ? あ、気付いて座り直した。


「その前に昨日は聞けなかったポーションに関するギルドの規約を教えて欲しいんですけど? 知り合いから聞いた話ではポーションを卸すには商業ギルドの許可が必要であり、街の商店に直接卸すことは認められていない。これはポーションの品質、管理の問題からだと聞きました」


「概ねその通りです。ポーションには粗悪品から最高品質までの品質基準があり、これを一介の商人に任せるには問題がありますので商業ギルドの方で判断しております。また通常のポーションには使用期限がありますので使用期限が過ぎた物を販売されない様に管理しております」


「ポーションを個人的に売る事も許可されていないのですか? 例えば道端で怪我して倒れている人がポーションを欲しがっていてそれを助ける為にポーションを売るとか」


「商売をするには商業ギルドカードを発行する必要があります。これは詐欺など犯罪を防ぐための措置です。この国、また周辺の商業ギルド加盟国ではこれを破れば国から刑罰が科せられます。商売とは営利目的で商いを行う事を指します。個人間での売買は一定の収益を越えない限り見逃される事が多いです。ただし個人間の商売は国や商業ギルドの定める規定に抵触しませんので一切の保護が得られません。代金の踏み倒し、商品の入れ替えなどの詐欺行為を訴えることは出来ません」


ふむ。ギルドカードを持たなら平民同士が食料などを少量の売買をしても問題ないけど、商店規模で売買すると刑罰があるって意味だろ。

早い話、俺には関係ない事を難しく言って脅しているだけね?

そして俺の質問に答えていないね。


「では商業ギルドカードを持ち、ギルドに登録している僕は個人間で商売しても構わないのですね?」

「…………はい。ですが、ポーションを商業ギルド以外に卸す行為は違法になります」


「違法行為の罰則は?」

「…………原則、違反者に通告されます」


罰則を公表していない? ギルドを通さずにポーションを売ったらこうなるぞ、って脅しを掛けていないのか?


「商業ギルドの規定に入っていないのですか? それを事前に知る権利がポーション職人に無いと?」

「…………商業ギルドを通さず個人間でポーションの取引をした場合は販売者、購入者ともに一切の保護が得られません。またそれが営利目的であり常習的に行われる場合は最悪商業ギルドを永久追放されます」


個人での取引は自己責任。当然だな。

街の商店に個人的にポーションを常習的に売りに行ったら最悪ギルド資格をはく奪されることがある感じか?

依頼され単発的に売りに行くことはグレーゾーンか?


「では個人に営利目的ではなくポーションを常習的に売り出した場合はどうなりますか? こちらにいるシオンは病気の為ポーションが必要です。彼女の給金代わりにポーションを差し出すつもりですが、違法ですか?」

「…………。いえ、それは問題ありません」


「では個人間で金銭が発生しない、例えばポーションを渡す代わりに家を貰うことは営利目的ではないし、販売をしたわけでもないので違反とはなりませんね? あぁもちろん家を貰った後に売りに出して金銭を得るわけではありませんから営利目的ではないですよね。言わば交換ですから」

「……………………。…………。そう、ですね」


商業ギルドを通さずに卸したら違法。最悪ギルド追放。ギルドカードが無くなるので今後一切の商売活動が違反になる。


「個人間の売買、譲渡は規約に含まれないのですね? 卸し、つまり問屋や小売を相手にしないなら後は個人間の責任という訳ですね」

「…………」


無言の肯定かな。能面の様な笑みが少し怖いですよ。

個人間の取引を許可しないとポーションを家族や親戚の危機に渡すことも出来ないし、手に入れたポーションを知人に売ることも出来ないからな。それに貴族が交渉に使えなくなってしまうだろうな。


…………。ふむ。商業ギルドには法的な罰則は存在しないな。国の機関ではなく個人が立ち上げ運営する会社みたいなものであり、貴族に対抗するほど権力を有していたとしてもそれはあくまで国の中での話。加盟国の各国王を頂点に貴族層と商業ギルドが横並びになっている感じか。

商業ギルドが下せる罰則はギルド員に対して商業ギルドでのみ通じる罰だけってわけだ。まぁ商人ならギルドカードのはく奪は最大の罰だろうけど。


明確な刑罰は商業ギルド加盟国が定めた、商いを行うには商業ギルドカードの登録が必要と言った事だけみたいだな。


なら俺がメルビンさんと交わした契約は問題ないな。営利目的ではないし、ポーションと購入代金支払義務を交換しただけだし。

あの契約に購入代金は記載されていない。購入代金を自由に決めることが出来る領主側が購入条件としていた購入代金ものとポーションの引換券100枚分を交換しただけだ。

そしてメルビンさん個人と俺個人の契約だ。個人間での非営利目的での取引は個人の責任でありギルドが関与することはない。月に二本の取引だしな。


「…………。心配しなくてもギルド以外で大々的に売ろうとは思っていませんよ? 個人的な取引に使って問題ないか確認がしたかっただけです。そんなギリギリの駆け引きに興味は無いですし面倒ですから。手っ取り早くギルドで売る方が簡単で楽ですからね」

「…………お心遣い感謝致します」


俺がギルドを見限って別の相手と取引をすることを恐れていただろうな。貴族とか貴族とか。

ギルドの対応次第ではそれも有り得たかも知れないけど、それは面倒だ。

持って来てすぐに買い取ってくれるギルドが簡単だし楽だからね。貴族とねちっこいやり取りを毎回するつもりは毛頭ないですから。


ただ俺が何時でもそうシフトチェンジできることを理解して貰えたなら変な対応はしないだろう。

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