第39話 魔王城1


「さて、ようやく辿り着いたな。魔王城」


ここまで幾多の試練を乗り越え、遂に俺達はこの魔王城まで辿り着いた。


「…………商業ギルドですわよね? 魔王城?」

「魔物の王の城ですか? 商業ギルドに魔物がいるのですか?」


…………。商業ギルドを前にして思わず呟いた囁きが二人にバッチリ聞かれていた。恥ずかしい……。


「…………。魔物の様な貴族や、それに追従する受付嬢がいるからね。それを束ねるここは魔王城かなって。…………。…………。忘れて下さいお願いします」


「心配せずとも主様の障害は私が取り除きますわ。二度と貴族の攻撃が主様の体に触れる事はありませんわ」

「私も旦那様をお守りします。魔王城もへっちゃらです」

「…………シオンがイジメる。助けてツバえもん」

「誰ですのそれは? 大丈夫ですわ、魔王城でも魔王でもギルド長でもギルド本部でも主様に敵対するのであれば殲滅してみせますわ」


ツバキも言うんだね。ただ商業ギルドの前でその発言はどうだろうか? 入ろうとしていた商人さんがギョっとした目で俺達を見ていたぞ。

貴族と対等の関係を築いている商業ギルドって話だから貴族に喧嘩を売ってる様な発言になるわけか。


「お前たち何をしている? なにやら不穏なことを言っていたと連絡があったぞ」


おぉぉ。ギルドから警備員が三人も出て来たよ。さっきの商人さんが告げ口したみたいだな。

…………。顔は覚えたよ。なんてね。


「いえ、ギルドに呼ばれていたので来たのですが、壮大な建物に圧倒されてまるで王城の様だと言っていたんですよ」

「ふむ。確かにこの辺りでは一番の建物だからな。しかしこれで驚いていたら王都の商業ギルド本部を見たら気絶してしまうぞ? 向こうは本当に王城の様だからな」


「――待て、お前、いえ、貴方はヤマト様では?」

「え? あ、竜人の胸乗せ、いや、竜人を連れた少年か! こ、これは失礼しました。副ギルド長が中でお待ちです!」


…………。お前ら俺の事を影では竜人の胸乗せって呼んでるのか? …………否定はできないけど、さ!? 


「旦那様、やはり普段は、その、お姉さまと離れて歩いた方が……」

「何を言いますの。私は主様をお守りしているのですよ?」

「…………お姉さま、胸を弾ませて言われても説得力がないです。お姉さまでしたら事前に危険を察知できるでしょう?」

「悪意の無い危険の察知は難しいのですわよ? 出来ますけど」


出来るんだ。もう本当に規格外だね。ただ俺は万全を期する人間だから、万が一を考えて不名誉な呼ばれ方をしたとしても安全には替えられない。だからツバキと離れるわけにはいかないんだ!


「…………。旦那様がもう少し成長されるまでの辛抱ですね」


シオンに俺の思いが伝わったようだ。言わずとも伝わる以心伝心っていいよね!


「シオンには苦労を掛けるね」

「それは言わない約束ですよ」


ノリがいい。というかそのやり取りどこで知ったんだ?


「主様? 楽しくお喋りするのも良いですけど、この人達を解散させないと今度は別の名称で呼ばれるかも知れませんわよ?」


ツバキに言われて向き直ると警備員の面々が直立して待っていた。…………。ギルドで何を教えられたんだろう? ツバキの事が広まったのか? 俺はセルガに暴行を受けたFランク薬師でしかないんだけど? ツバキ達を手に入れた事で領主に傾倒したと思われているのか? でもFランク薬師にそこまでの価値はない――そうか、最高品質のポーションの件か。朝にツバキに教えられたんだったな。

でもFランクとEランクしかギルドには見せていないんだけどな。そこまで大袈裟にしなくても。


――なーんて思っていました。



「ようこそお出で下さいました。当ギルド副ギルド長、レベッカと申します。昨日さくじつは当ギルドの不始末大変ご迷惑をお掛けしました」


警備員に連れられて中に入るとホールの正面に二十代ぐらいの女性レベッカさんが立っており、両脇にはミリスさんと同じ制服を着た女性たちが二十人ほど立っていた。

そしてレベッカさんの謝罪と同時に全員が一斉に頭を下げた。


――圧巻だった。

たった二十人、されど訓練された二十人の一糸乱れずのお辞儀には言い表せない凄味があった。ツバキが支えていなかったら後ろに仰け反っていたかも知れない。


ギルドの中には他の客も多くいて奥の窓口は通常営業されていた。そんな中、ホールの中心に副ギルド長と専属受付嬢が並び俺に対してここまでの謝罪をしているのだ。周りの商人は唖然として見ており、俺の事を探る動きも見せていた。


――――――ハッキリ言って迷惑以外の何物でもない。

俺は目立ちたくないんだよ!!


「…………帰る」

「はい。……貴方達、道を開けなさい。さもなくば――排除しますわよ」


俺の呟きにツバキがクルリと俺ごと踵を返して玄関の方を向く。俺達を中に案内した警備員達が玄関前を陣取っていたのでツバキが殺気を飛ばし道を開く。


「ッ! お、お待ちください!? な、なにか私達に至らぬ点がありましたでしょうか!?」


うん。俺の性格を読み違えたね。ギルドとしては異例の謝罪をしているのかも知れないけど俺には逆効果だよ? 俺は謝罪はいらないし、受け取らないって言ったよね? セルガと一番窓口嬢の事をただの言葉で許すほど人間出来ていませんから。


それにこんな大々的にやってギルドの非を認め謝罪していますってポーズが嫌だ。これ俺に謝罪している様に見せて周りへのけん制も含まれているだろ? こんなイベント染みた用意された謝罪がなんの意味があるんだ? 自己満足か? 本気で謝りたいなら加害者連れて来い。罪状ぶら下げて。


「僕は謝罪を受けに来たのではありません。ポーションを売りに来ただけです。職務放棄されているなら時間を開けてまた来ます。…………。来る気になれば」


ギルドにはポーションを買取って貰いたいけど、それは絶対ではないからね? 金の稼ぎ方は別にもある。楽して簡単に稼げる方法がポーションってだけなんだから。並行世界の未来人舐めんなよ! …………パラレルワールドって異世界は含まれないんだっけか?


「お、お待ちください。買取りでしたら別室にて対応させて頂きます。皆は仕事に戻りなさい」

「買取りは一番窓口でしょ? 特別扱いはしなくていいと言ったと思いますけど?」

「その点についても別室にてお話させていただきたく存じます。これは特別扱いではなく、ヤマト様と同じポーションを持ち込んだ職人には全員に行う措置です」


ふむ。ギルドのルールに則ってなら断る理由はないかな。ポーションが売れるに越したことはないからね。

このままここに居ても周りの視線が集まるからさっさと移動しよう。

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