第15話 奴隷商3

「さて、先ずはヤマト様に貴重なポーションを頂いたことお礼を申し上げます」

「いえ、僕が勝手にやったことでしたから。勝手なことをして申し訳ありませんでした」

「そんな、とんでもございません」

「いえいえ」

「いやいや」

「お礼と謝罪はその辺にしよう。話が進まなくなりそうだからね」


流石はメルビンさん、俺もどこまでヘリ下った方が良いのか分からず戸惑っていました。


「コホン、では僭越せんえつながら私がお話を進めさせて頂きます。まずヤマト様は彼女達二人を購入する資格が先ほど本人達に認められました。よってこれから販売に関する条件をお話いたします」

へぇ、購入させるか本人達に選ばせてんだ。随分と優しい奴隷商だな。最初に聞いた通りか。


「一つ目はヤマト様がこの国の住人として登録されること。二つ目はヤマト様がこの街を拠点として活動をされること。三つ目は彼女達の奴隷権を勝手に譲渡しないこと。四つ目は彼女達の借金を肩代りすること。以上四点です」


この国の住人になるのは別に問題ないかな。この街を拠点にするのも別にいいや。セルガをぎゃふんと言わせるのは別の方法を考えればいいし。彼女達を他の誰かにやるつもりは元からない。問題は借金の肩代りだよね。つまり、これが購入代金ってことだよね?


「この国の住民になるのに必要な手続きはどうすればいいのですか?」

「それは私が代わりに手続きできるよ。この街を拠点にすることもセットで申請しよう」

「じゃあ彼女達の奴隷権の譲渡ですが、僕が望まなくても移動は出来るんですか? また、勝手に譲渡しないこと。とは、誰かが指示した場合には譲渡する必要があると?」


「奴隷権の譲渡は奴隷の主人でなければ移動は出来ません。出来る場合としては主人が死んだ時、後継人を選んでいた場合と、主人が犯罪者になり国家に身柄を押さえられた場合のみです。また指示を出されても従う従わないは主人の意向次第です。この場合の指示とはこの国の国王になりますが、国王が平民の奴隷を取り上げることは基本無いと言えます。特に竜人族は自身が主人と認めた者には絶対の忠誠を誓います。この条件はどちらかと言うと彼女達の為の条件と言えます。竜人族は己が認めない者に従うぐらいなら死を選ぶ種族ですので」


つまり俺をこの国の平民にして国に逆らえない様にした上で、何かがあり彼女達を始末する必要がある場合には奴隷権の譲渡を要求すると。逆らえば犯罪者として処理して奴隷権の譲渡をすると。

…………竜人族は相当ヤバい種族なのかも知れないな。国が鎖を付けて置きたいくらいには。

でもこの条件一つ抜けているな。自分を買い戻すことができるんだから、先に解放させて改めて仕えて貰ったらいいじゃん。絶対の忠誠って言うぐらいなんだから仕えてくれるんじゃないのか?


「なるほど。では、最後の彼女達の借金の肩代りとはどういう意味ですか?」

「言葉通りです。彼女達は現在三十億Gほどの借金をしております。銀貨ですと三十万枚です。これの全額肩代りになります。支払いは毎月三百万Gとなります」


…………。…………。うん。なんていうか。…………。…………ふざけんな!! 何だよ! 三十億って! 銀貨一枚が一万円って仮定するなら人生が十回は満喫できるわ!!

はぁ、はぁ、はぁ。なるほど、解放が出来ないと踏んで条件に記載してないのね。…………それにこれ返させるのが目的じゃなく、俺を縛る為の契約だわ。ポーション職人なら毎月三百万ぐらい稼げると計算して、腕の良いポーション職人を国に縫い留めようって腹積もりだな。


その為の極上の餌が彼女達ってわけだ。しかも都合が良いことにシオンは不治の病で実質ツバキ一人分の働きに掛かっている。しかも病状の緩和にポーションが必須とか周到するじゃねぇ? 彼女達の面倒を見るお人好しがポーションを渡さないわけがないからな。


ちなみに銀貨一枚で一万Gで金貨一枚が百万Gらしい。平民の平均月収は十五万Gぐらいだってさ。


…………メルビンさん、そっちに居るッて事は貴方もそちら側ですね?

検問でポーションを所持、もしくはポーションを作れる者を見定め、国に優良だと判断したらここに連れて来る。彼女達を買うだけの技術を持った技術者になら売り、それが無理でもこちらの出方を伺いどの程度の技術を持っているのか判断するつもりかな。

たぶん俺がここで断れば、彼女達より少しグレードが落ちて俺に見合った人をまた紹介するんだろうな。…………いいぜ、その喧嘩受けてやる! 


俺はただのポーション職人じゃねぇ。女神様直々の超チートポーション職人だ。俺が苦労するわけじゃない。俺が頭を悩ますのはどこにどこまでのポーションを卸せば面倒毎に巻き込まれないか考えるだけだ。そしてその面倒毎を片付けてくれる最高のパートナーが二人も手に入る。なら悩む必要はないな。


メリリサート様、ポーションの制限は一日毎に更新してくださいよ。数日おきとか使用する度に更新時間がリセットされるとか絶対に止めてくれよ! これで失敗したらメリリサートの名前を世界最凶最悪の化身にして絶対の邪神だと俺の命が尽きるまで語り継ぐからな! アルテミリナ様に洗礼されるからな! 異世界人の特徴を世界にばら撒き転生しても満足に知識を披露できなくするからな! 異世界人は邪神の信者だと喧伝するからなぁ!! 

はぁ、はぁ、はぁ。これでダメなら死なば諸共…………。待っててくれメリリ。


【分かった! 分かったから!! だからこれ以上ワタシをイジメないで!!】


何か頭の中に神々しい声が響いて来た。メリリの声ってこんな感じだったっけ? 何か胸が熱くなる感じがしたぞ。神託を受ける信者ってこんな気持ちになるのか。泣きべそかいてなかったら俺も心動かされたかも知れないな。うん、いつものメリリで良かった。

それにこれで不安要素が一つ減った。後は交渉の時間だね。


「…………それで全部ですか?」

「――いえ、ここまでは条件の範疇。彼女達を購入するなら購入代金として別に三億Gが即金で必要です」

「それで全部ですか?」

「はい。間違いなく」

「つまり、現金で三億Gを支払い、それとは別に毎月三百万Gを三十億G払い終わるまで続けると」

「はい。支払いが滞る事が無い限り利息が増えることはありません」


つまり、支払いが滞ると利息が爆発的に増え、元金を上回ると言う事ね。払えなくなると俺も借金奴隷として奴隷落ち。貴族の屋敷でポーションを作り続ける生活になると言う訳だ。ハッ! 上等だ! あれほどの美女二人と一緒に生活できるんだ! リスクも背負ってやる!


「あ、一つ言い忘れておりました。彼女達は奴隷ですが、その前に一人の竜人。無理やり身体を求めたりすると犯罪者になりますので注意してください」


……………………。

…………………………。

………………………………止めとこうかな?


――――いやいや、別に身体だけが望みじゃないしぃ、もしかしたら俺の事好きになってくれるかも知れないしぃ、ほぼ死ぬまで一緒に生活するんだから良いこともラッキーハプニングも夢の数あるはずだしぃ!

俺はこれぐらいじゃ挫けんぞぉぉぉ!!


「メルビンさん」

「なんだい?」


「…………普通にお金が足りません」

「――まぁ、そうだよね? なんか普通に最後まで聞いているからもしかしてって思ったけど、普通そんな大金持ってないし、毎月三百万Gの支払いとかできるわけないよね。ははは、どうだいこれから別の店に――」


「いえ、毎月三百万の方はどうにか出来ると思います。時間があれば三億Gの方も目途が付くとは思うんですけど、ただ時間が掛かり過ぎます。――だから交渉です。Cランクポーションを月に二本ご用意します。それをCランクポーションが合計100本分になるまで続けます。この条件で三億G無利子で立て替えて下さい」

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