第16話 奴隷商4

「――どうして一介の兵士である僕にそんなことを言うんだ? 僕にそんなお金があるわけないだろう? 兵士は命を張る仕事だけどそれほど高給取りじゃないんだよ? ははは」

「いえ、兵士のメルビンさんにお願いしているわけではなく、領主の息子であるメルビンさんにお願いしています。メルビン・ベルモンド様、で良いんですか?」


「――――どうして知っているのですか? 街の人間にも知られていないはずですが?」

「メルビン様!?」

「構いませんよ。オルガノ。あぁ、そうか。オルガノは領主の臣下、その臣下が敬称を付けて呼ぶのは息子と言う訳かな? でもヤマト君にも敬称を付けていたよね? オルガノの対応の違いかな? それなら他の貴族の可能性もあるか。…………。カマかけかい?」


その通りだよ、畜生! 俺が言いたかった事全部言いやがって!? でも良かった、実際オジサン、オルガノさん? の対応が俺と違った事と、メルビンの立ち位置から推測しただけの当てずっぽうだからな。家名もオルガノさんに門の所で聞いていて良かったよ。


「ご想像にお任せします。それでどうでしょう? 優秀なポーション職人が自ら鎖に繋がれると提案しておりますが?」


「…………何が望みだい?」

「…………。そうですね、強いて言えば」

「言えば?」


「ツバキさんのお胸でしょうか?」


「………………は? いや、そう言う事じゃなくて、え? そう言う事なの? ヤマト君竜人好きなの?」

なんだその○○人好きとか変わってるぅー、マニアックゥー、って感じの言い方は!?


「胸に貴賎きせんなし。全てのお胸に意味はある。しかしその中でも素晴らしいものは確かに存在する」

やべぇ、自分でも何言ってんのか分かんなくなってきた。


「つまりヤマト君にとって彼女の胸にはポーションの秘密を差し出すだけの価値があると?」

「そこまでは言いません。しかし、師匠から許されるであろう境界線、そのギリギリのラインがCランクポーションだと言うだけです。もしメルビン様がこの内容でご満足頂けないのであれば、同じ内容で商業ギルドに持ち掛けます。それが失敗したら別の街で、それが失敗したら別の国へ。時間を掛ければ三億G、用意して見せましょう」


「…………いいでしょう。私の一存でCランクポーション100本の代わりに彼女達の購入代金を私が受け持ちましょう。その代わり、これは私個人が請け負った契約です。ポーションの納品は私個人へお願いします」


へぇ、本数の交渉をしてこなかったな。つまりCランクポーション100本で三億Gの価値があるって訳だ。一本三百万Gかよ。暴利だな。

その上、自分個人で契約をするって言ったぐらいだ。それ以上の価値にする算段があるんだろうな。……いや、彼女達の購入代金三億Gも偽りの可能性があるか。

本当は一億Gで領主にはポーション30本で手を打たせるとかな。少なくともポーション100本で交渉せずとも利益が十分に見込めると判断出来たわけだ。


ま、購入代金が本当は幾らだったとしても俺が納得して払ったんだから文句はない。どうせタダで手に入るポーションだし。実質タダでツバキとシオンが手に入るわけだ。借金もポーションで払うから痛手はない。つまり結局の所俺の一人勝ちだ。



「それでは契約書を作成します。【薬師ヤマトはメルビン・フォン・ベルモンドにCランクポーション100本を提供。提供方法は月に2本以上の提供、これを累計100本分になるまで続ける事を義務とする。メルビン・フォン・ベルモンドは竜人ツバキ、竜人シオンの奴隷購入費用の全額を薬師ヤマトに代わり支払う。メルビン・フォン・ベルモンドは即日購入費用を支払うものとする。メルビン・フォン・ベルモンドに両奴隷の所有者資格は一切無いものとする】これにサインをして下さい。それで契約は完了致します。…………。はい。これで正式に契約は結ばれました。契約の見届けは私、オルガノ・フーリンガが家名に誓い証明致します」


契約前に実は一本持っているんですよ、ってことでCランクポーションを服の下で作ってメルビンさんに渡した。それを見てオルガノさんも驚いていた。いや、契約するんだからちゃんと作れるって。

Cランクポーションは今日は打ち止めだから日に四本作れるみたいだ。…………ニヤリ。

これで俺とメルビンさんの契約は終了だ。メルビンさんは契約するに当たって正式に名乗りを上げてくれた。


「私の名はメルビン・フォン・ベルモンド。ベルモンド子爵家次男にして騎士爵を冠するものだ」


騎士爵ってことはメルビンさん自身も貴族なのか。メルビンさんは次男だから長男が子爵家を次いでメルビンさんは騎士爵を貰ったというわけかな? 貴族の詳しい生態とか知らないから余り関わりたくないなぁ。メルビンさんも良い人だと思ってたら欲望丸出しの獣だったし。


「随分と物々しい契約になったね。私はポーションを貰った上に彼女達の所有権を主張したりしないよ?」


ただの口約束を信じて三十億Gの借金を背負うわけないだろう。彼女達の契約が終わった後に購入代金は自分が出したから所有権の半分は自分にもある、とか言い出したら笑えない。貴族を信用出来るだけの信頼はまだ得てないぞ。…………会って数時間の人に三億Gの取引を持ち掛けたわけだけどね。


「念の為ですよ(ま、これでも敵対行動するなら容赦しないけど)ははは」

「は、ハハハ。大丈夫だよ、この街の為に働いてくれるポーション職人に不埒な真似はしないさ。彼女達を紹介したのも彼女達なら確実にヤマト君を守れると知っているからさ。ただ、彼女達は我々からしても簡単に手放す訳にはいかない存在だからね。この国に縛り付けるような契約になってしまったんだよ。でも安心してくれ。国民の命と財産を守るのが貴族の務めだ。私は全力でヤマト君の助けになるよ!」


…………これがここに来る前に聞いていたらメルビンさんマジ良い人! ってなってたけど、今聞くとCランクポーションを回収するまで死なせるわけにはいかないからね。ヒッヒッヒ! って感じだなぁ。


まぁオルガノさんの話でも街に住んで活動してくれるポーション職人には優遇措置が幾つかあるらしいし、悪い様には扱われないみたいだけど。


あぁそうそう。優遇措置の中に工場兼自宅が用意して貰えるらしい。後、家事の手間を無くして仕事に集中できるようにメイド(スパイ)さんの派遣もしてくれるらしいぞぉ、ヤッタネェ! じゃねぇふざけんな!? …………ま、おいおい考えよう。


「ヤマト様、それでは続いて奴隷契約に移らせて頂きます。とは言ってもこちらは既に契約書も用意してありますのでサインするだけですが」


サインするだけと言われて読まずにサインする馬鹿はいない。…………馬鹿はサインするのか? いや、違う違う。えぇっと何々、ホニャララ、ムニュムニュ、ペンペンツァ、って感じか。さっき聞いた内容と同じだな。変な言い回しもないし問題ないかな。俺が口出ししたメルビンさんとの契約書の方が黒さが目立つぐらいだ。これならサインしても問題ないだろう。


「はい。問題ありません。ありがとうございます。ではギルドカードを出して頂けますか? 奴隷所持の記載を致します」


ギルドカードは身分証になっているので奴隷を所持している場合は記載が必要らしい。奴隷の主人確認を求められた場合などに必要になるからだ。奴隷契約はこれで終了。

魔法陣の中で奴隷と主人が抱き合ったり、血を飲ませたりする展開はなさそうだ。既に彼女達は手枷足枷の魔道具を身に着けているので主人に攻撃は出来ないし、逃亡も出来ないそうだ。命令を強制的に聞かせる機能などはもちろん付いていない。

ただ命令違反を繰り返すと待遇が悪くなったり売り飛ばされたりするから余程の命令でない限り指示通りに行動するそうだが。


「彼女達なら問題ないよ。竜人族は主人と見定めた者の命令には従うから」

「それって先ずは俺が主人として認めて貰う必要がありますよね」

「そうだね。なら彼女達の元に行こうか。まずは話さないとお互い理解できないからね」


これって嵌められた? 俺は彼女達を捨てることはできないし、十分な生活環境を約束させられているから無下にも扱えないよね? 彼女達が働きたくないでござるって言った時どうすればいいんだ!?


――――ま、考えるだけ無駄だったようだけど。

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