第7話 サイガスの街

そんなわけであっという間街まで辿り着いた。

二十メートルはありそうな壁がぐるりと街を囲んでいるみたいだ。魔物の侵入を防ぐ為だろうけどかなり広いぞ? ここって王都なのか? 門の前に並んでいる人達も結構な数いるし、かなり賑わっているみたいだ。


因みに言葉は普通に話せた。列で並んでいる間前にいたオジサンと少し話をしたけど言葉は普通に通じていた。

そして、この街はベルモンド子爵が治める街でベルモンド領サイガスの街と言う。この国では比較的大きな街らしい。

王都には及ばないが交通の要所になっているので地方の街としてはかなり活気があるそうだ。


俺が来た森はモルガレ大森林っと言って隣の国であるランデリック帝国の国境に跨る大森林で、魔物の住処と言われる魔境らしい。難民の皆さんはそんなところを越えようとしていたのか?


「次の者、こちらへ」


オジサンが呼ばれて少しすると俺の番が来た。門の所で身分証を見せる必要があるらしいが、失くした場合は詰め所で取り調べの上発行してくれるみたいだ。犯罪者でなければ街に入るのはそれほど難しくないそうだ。

難民の受け入れもあるそうだが、大抵はスラムに流れてホームレスになるそうだ。難民が直ぐに働ける職場は少ないみたいだ。

オジサンが仕事に困ったなら「オリビン商会」を訪ねなさい。と言ってくれたので一先ずポーションが失敗しても生活は出来そうだ。


「ん? キミ一人かい?」

「はい。帝国の方から来ました」

「……難民か。それもこんな子供が一人で。――身分証はあるかな?」

「ありません。今持っているのはポーションぐらいです」

「は? ポーション? ……身分証がないなら詰め所で詳しい話を聞く必要があるな。オーイッ! 交代してくれ! あとメルビン部隊長を呼んでくれ!」


「「了解しました!」」


若い兵士が詰め所らしい場所から二人出て来た。俺の対応をしてくれていた兵士さんは上司みたいだ。幾つか言葉を交わして一人は走って行った。それから俺は兵士さんに連れられて詰め所に入って椅子に座らせられた。

机と椅子しかない殺風景な部屋だ。隣に続く扉があるからこの奥が休憩室かな? ここは取調室みたいな感じかな。犯罪者の確認をするって言ってたし。


「狭い所ですまないな。もう少ししたら俺の上司が来てくれる。許可証の発行はそれからになるんだが、先に少し質問をさせてくれ」

「はい。どうぞ」

「まずは、そうだな。両親や世話をしてくれる人はいないのか?」

「いません。両親は前に死んでて、育ててくれた師匠も国を出る前に亡くなりました」

「そうか。……さっきポーションを持っているって言っていたけど、その師匠が作った物か?」


両親が死んでいるって言っても対応が軽いな。この世界では日常的なことなのかな? それにしてもポーションに直ぐに飛びついたな。メリリが言っていた通り希少な職業なんだろうけど、Dランクまでは俺が作れるとした方がいいよな。今後販売もしないといけないし。師匠が作ったのは一角ウサギに刺された時に使ったCポーションと言う事にしよう。傷が一瞬で完治するほどのポーションを作れる師匠の元に居たって言うのは良いアドバンテージになるだろう。


「いえ僕が作った物です。ここに来る前に角兎に襲われて師匠が作ったポーションは使ってしまいました」

「角兎? 一角兎のことか? よく生きていたな。かすり傷だったのか?」


やっぱりあの兎は一角兎なんだな。それにしても兎と聞いて良く生きていたなって、そんなに危険な魔物が街のすぐ傍に放置されているのか?

「いえ、お腹に穴が開きましたよ。ほらここ破けているでしょ?」

「ッ、いやいや、騙そうとしたらダメだぞ? その穴、軽く内臓まで達しているレベルだぞ? それを完治させたって言うつもりか?」

「はい。師匠は凄腕のポーション職人でしたから」


Cランクポーションは当然で、Bランクポーション辺りまでは師匠は作れたことにするかな。俺も製法は知っているけど現状では道具が足りないとか言っておけばいいか?

「ッお前、それは――」


――コンコン。


「失礼するよ、貴方がポーションを持って来たという少年だね」

鎧を着た爽やかイケメンがノックをして入って来た。正面に座っていた兵士さんはバッと立ち上がって敬礼している。俺も立ち上がろうとすると爽やかイケメンが手で静止してきたので黙って座り直す。


「私はここの部隊長を任せられているメルビンだ。話を聞かせて貰いたいのだけど、まずは名前を聞いても良いかな?」

年齢は二十歳ぐらいかな。台座が付いた水晶を机に置いて兵士さんの隣に座った。

これから本格的な聴取が始まるわけだよな。出来るだけ子供らしく振舞った方がいいか。


「はじめまして。僕は――」


――名前覚えていないぞ。そういえば地球の神様が記憶を弄ったって言ってたな。家族とか住んでた場所が思い出せん。……どうするかな。名前とか咄嗟に思いつかんぞ。異世界に馴染む名前も分からんし……地球、日本、ジャパン…………大和、よし、ヤマトにしよう。今日からポーション職人のヤマトだ。


「――ヤマトといいます。森の向こう側にある集落から来ました」

「森の向こう側……。ふむ、ヤマト君は一人で来たのかな?」

「いえ、集落の皆で森に入ったのですが魔物に襲われた時に逸れてしまって。僕は師匠から貰った魔除けの薬でどうにか森を向ける事が出来たんですけど、森を抜けた時に効果が切れたらしく一角兎にこの通りやられてしまい師匠から頂いたポーションでどうにか治りましたよ」

俺が服に空いた穴を見せると視線を送りながら難しい顔をしていた。


「……ヤマト君が持っているというポーションを見せて貰えるかな?」

「はい。これです」

「これは…………師匠の方から頂いた物かな?」


メルビンさんに渡したのは来る前に作っておいたF、E、Dポーションだ。Dポーションを見て少し驚いているみたいだけど……そうか、Dポーションではこの怪我は治せないか。Dポーションで治る軽い怪我だったと思われたら師匠の威厳が無くなるよな。それにこれは俺が作った事にしないと今後の販売に差し障る。


「自分で作りました」


俺の言葉を聞いて俺の目をジッと見た後、隣の兵士さんに視線を向けるメルビンさん。兵士さんが頷くのを確認してから再度俺に視線を戻した。

今の俺の外見は子供だし、ポーション職人は希少だって話だからこの年齢でポーションを作れるのが凄いって思われているのかな?


「…………嘘は付いていないみたいだね。しかし本当にこのポーションでその怪我が治ったのかい?」

「あぁいや、怪我は師匠に貰ったCランクポーションで治しました」

「Cランク! それはまだ持っているのかな?」

「いえ、今は持っていません。一角兎にやられた時に使ったので」 

「そ、そうか。残念だ」

Cランクでも凄いのか? 確かに腹に風穴が空いているのを一瞬で治療したからな。


「Cランクポーションは希少なんですか?」

「そうだね、王都であれば作り手もいるけど、数が少ないからこの辺りまではとても回って来ないよ。勿論Dランクポーションも希少だよ。通行証の手続きが終わったら商業ギルドまで案内するよ」


Dランクポーションでも希少なのか。少なくとも五本は作れるけど、制限がまだ良く分からないんだよな。

ギルドに行った後に宿を借りてポーションを限界数まで作って、明日の朝に再度作ってみたらおおよそ検討が付くかな。


「ゴホン、では通行証の発行の為に質問をします。ヤマト君はこの街に何のために来ましたか?」

これまでの問答は関係なかったのかよ! まぁCランクポーションが希少だと分かったからいいけどさ。

とりあえず目的はこの街でポーションを売って生活基盤を盤石にすることだな。


「この街でポーションを売って生活が出来ればと思っています。人様に迷惑を掛ける行いをするつもりはありません」

「結構です。ではこの水晶に触れて下さい」


言われるまま手の平で掴む様に水晶に触るが何も起こらない。


「はい。問題ありません。これは過去に犯罪を犯した者が振れると赤く光るんだよ。ヤマト君は犯罪歴無しなので問題なく通行手続きが出来るよ。ゲイル、手続きをお願いします。私はこのまま商業ギルドまでヤマト君を案内します」

「ハッ、了解しました!」


兵士さんが再度立ち上がり敬礼していた。俺はメルビンさんに誘導されながら詰め所を出て無事街の中に入る事が出来た。


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