第6話 一角兎
そんなことを思い歩き出した俺の前に角を生やしたウサギの様な生き物が出て来た。これは一角兎と言うヤツか! こんな街が見える場所で現れるなら初心者向けの魔物なのか?
初めて見る生物な上、人懐っこそうな瞳と仕草に警戒を忘れて近づくと一角ウサギが目にも止まらぬ速さで俺に激突してきた。
「ッが、いってぇ!! こ、のぉ!! がぁぐぅぅ」
腹に深々と突き刺さった一角ウサギを殴りつけると反動で角が抜けたが凄まじい痛みが走った。立っていられず膝を付いた俺を横目に一角ウサギは早々に走り去って行った。
身体を支えれなくなって横に倒れてまた激痛が全身を駆け巡る。
「はぁ、はぁ、いてぇ。これ、やばくないか。血が止まらねぇ」
身体が震える。頭が回らない。とにかく痛い。身じろぎ一つで激痛が全身を走って意識が飛びそうだ。
「そうだ。ポーション、Aポーション、Bポーション、Cポーション!」
AポーションとBポーションは制限のせいで出て来なかった。Cポーションは出て来たので振るえる手で蓋をこじ開け口に流し込む。呼吸がまともにできず吹き出しそうになりながらも飲み込むと嘘のように痛みがなくなった。念の為にもう一本を生み出して傷口に掛けるが傷は既に塞がっていたようだ。
「…………凄いな。傷口が完全に塞がっているぞ。痛みも全く無くなったな」
二本目は要らなかったみたいだな。ビックリするほどの治癒力だ。腹に空いた風穴が完全に塞がってしまった。流石は魔法がある世界だ。医者は必要なさそうだな。
立ち上がって体に付いた泥汚れを叩き落として一角ウサギが逃げた方を見るがもう居なくなっている。身体はあれだけの怪我を負ったというのに違和感一つ無い。
それにしても、まさか森を抜けていきなり魔物に襲われるとは。メリリの魔物除けが消えたんだろうな。のんびり行こうとか考えないで急いで街に向かった方がいいな。ポーションがあったから助かったけどこの世界は俺が生きるには危険が大きい。
ポーションがあと幾つ出せるのか分からないから楽観視も出来ない。ポケットに入れていた二つ目のBポーションはさっきの衝撃で割れてしまっているからA、Bポーションはもうない。Cポーションもまだ生み出せるか分からないし、下手に生み出してまた割ったら目も当てられないから今は試すわけにもいかない。
Dポーションで傷が治せるのか分からないし、試したくもないから魔物に出会う前に急いで街に行くべきだろう。
そして戦闘スキルを貰ったわけではないのだから街で細々とひっそりと暮らそう。これは目立って誰かに目を付けられたら自分の身一つ守れない可能性が大だぞ。確かに優れた能力だけどこれは身を守る事には向いてない。
これだけの効能だ。悪徳貴族に捕まったら一生屋敷でポーション作りをさせられるかも知れない。街ではDランクまでで様子を見る事にしよう。
ヤバくなりそうなら早々に街を逃げるつもりで準備も必要だな。
また一角ウサギの様な魔物が現れないか辺りに気を配りながら駆け足で街を目指して走る。森を出て少し走ると舗装されてはいないが、馬車などの往来が盛んなことが見て取れる道に出た。その道を街の方角に向かって見ると徒歩で歩いている人や馬車の姿が遠目に幾つか見えた。
ここまで来たら魔物の出現も少ないだろうけど、このまま走って街に向かうとするか。
ポーションのお陰なのか全然疲れていない。腹も減っていないし、ポーションだけで生きていけるんじゃないのか?
…………病院で点滴に繋がれてやせ細った自分の姿が浮かんでしまった。さっさと街に行って美味いメシにありつきたいものだ。
街に入る前に俺の素性を考えておくことにする。とりあえずこの身体の元持ち主は隣の国の民で難民として流れて来たって言っていた。国の名前も知らないけど記憶喪失で通るのか? 生まれた時から森の向こう側にある集落で生活していたから国の事は知らないと言うか。どうせ子供だし、詳しくは聞かれないだろう。
家族は居らず、薬師の師匠と一緒に生活していてポーションの作り方を教わったことにして、師匠は難民になる前に死に別れしたとするか。もし高ランクポーションを出さないといけない事態になったら師匠が作ったポーションと言う事にしよう。
街に入る前にとりあえずF、E、Dポーションを三本づつ用意しておく。メリリの話では俺の作り方は魔法によるチートみたいだから、人前で作成をするわけにはいかない。可能な限り隠し通したいが普通の作り方を教えてもらうことはできるんだろうか? 通常の作り方が分ればそれと混ぜて出荷することで目くらましになりそうだけど。
まぁ、それはおいおい考えるとして、問題はこんな子供がポーション持って他国から来て入る事ができるのかって所か。難民は受け入れて貰えないのが常だよな。密入国者として裁かれるとか勘弁してくれよ?
あぁ、考えながら走ってたらもう門の傍まで辿り着いてしまった。……馬車を追い抜きまくったけど、問題なかったよね? 疲れないものだから結構な速度で結構な距離を走ったけど…………。
考えに夢中になって周りを気にしていなかったな。話題にならない事を祈ろう。
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