第5話 キュウ

手足の感覚がハッキリと感じられ再び身体を手に入れたと実感すると共に新たな世界を見る為に目を見開いた。


――世界は変わらず真っ暗だった。


手足はある。手で顔を触ることも出来る。目蓋も動いている。声も出る。動くことも出来る。草を踏みしめる音も聞こえる。

…………現在考えられる原因は二つ。この身体の持ち主は魔物に襲われていたはずだ。メリリが蘇生してくれているはずだが、目の修復を忘れて盲目になっているのが一つ。もう一つは、この身体の元持ち主は森で襲われていたはずだ。ここが森の中で現在が深夜であり、星の光も入り込めないほど深い森の中であるのならば完全な暗闇にも納得ができる。

…………身体の修復に不手際があったとは思いたくないから後者だろう。


大岩がどこにあるのかも見えない以上、ここを動くのはマズい。しかし、メリリは魔物除けの措置を頼んだ時、アルテミリナ様にバレるから急いで森を出るように言っていた。あまり長くは持たないと。


…………これは、マズイ状況ではないだろうか? いくら瞬きしても目が暗闇に慣れることもなく完全な暗闇だ。風の音や虫の声、何やら背中がぞわっとする唸り声も聞こえている。このままここにいるのはヤバそうだ。


…………先ずは状況の確認だ。身体は五体満足に動いている。痛みや欠損もなく自分の思い通りに動いている。

次はメリリに授かった魔法を試すか。確か考えるだけで作れるって言ってたな。ランクはFからAまで作れるって言ってたし、とりあえず。


「Fポーション出ろ! お? おぉ? おー」


手の平を上にしてポーションが出て来るイメージをしたら手の平に何やら硬く細長い物が出現したみたいだ。暗くて見えないが触った感じは試験管の様な触り心地だ。下の方はツルっと丸く、一番上は何やら材質が違う物が刺さっているみたいだ。恐らくコルクの様な物が蓋になっているようだ。


試しにコルクを抜いて飲んでみる。丁度喉が渇いていたからな。

「…………ポーション、それも異世界の薬だから苦い物を予想していたが、これってアリ〇ミン?」


仕事で疲れた時なんかに良くお世話になっていた某栄養ドリンクによく似た味だ。…………Fポーションは栄養ドリンク?


…………次々試すか。


とりあえず減る物でもないみたいだし、物は試しだとEからCまで作っては飲んでみた。

味はそれぞれ違うが飲んだことがある栄養ドリンクの味だった。身体に変化も無いし効能があるのか不安だ。


そしてBポーションを作ると手の平にほんのりと光が宿った。


「おお!? このポーション薄っすらとだけど光ってる!」


BポーションはCポーションまでと違って入っている容器が試験管ではなく小さな小瓶だった。

親指程度の小さな瓶だったので光も蛍の光程度の小さな物だけど、手の平を映し出してくれることは出来た。

神様たちの所にいて感覚がマヒしていたから気にならなかったけど、かなり久しぶりの光だ。

折角の光が消えるのは勿体ないけど物は試しだとBポーションも飲んでみる。また作れば良いしな。…………数に制限があるって言ってたな。


「ッ、これは。はは、凄いな。まさにファンタジーだ」


Bポーションを飲み込むと俺の身体が僅かにだが発光していた。それと身体の中から力が湧き上がるのを感じた。

身体が発光したおかげで自分の身体を多少見る事が出来たけど、…………気のせいかな? 手足が短い気がするんだけど。いや、ドワーフみたいなずんぐりむっくりってわけじゃないよ? 普通に子供体形にしか見えないだけで。メリリのヤツ、「成人前」だけを考えて子供に転生させたんじゃないのか? …………いや、まさか、ラノベあるあるで成人が15歳とか12歳とか10歳とか現代よりかなり早い可能性があるんじゃないのか? むしろそれ以外考えられない。…………人前に出る前に顔を確認して年齢を決めるか。


「さて、予想外の事が起こったわけだが、次はいよいよ大本命」


Bポーションで僅かに発光したならAポーションならもっと明確に光るんじゃないのか? ランタン替わりになれば言う事ないが。


「期待に応えてくれよ。Aポーション出ろ!」


手の平が発光しているからAポーションが出て来る瞬間が見えたが、手の平の上にポンっとどこからともなくガラス瓶が生まれた。

Aランクポーション。流石はAランク、期待に応えて蝋燭程度の灯りが辺りを照らしてくれている。


流石に懐中電灯替わりにはならないけど、大岩を見つけることはできた。

これを飲めば身体が発光して手で持つより光が強くなりそうだけど、Bポーションの発光は既に収まっている。Aポーションをもう一つ作ろうとしたが出て来る気配はなく、もし発光が短時間で消えたらまた暗闇に逆戻りになるので森を抜けるまで飲むのは止めて置いた。


因みにBポーションはもう一つ出て来たが、三つ目は出て来なかった。Aポーションが一つ、Bポーションが二つ、これが制限の可能性がありそうだ。そうなるとCポーションは三つかな? 

ここで試したい所だがメリリが急げと言っていたし、発光が何時まで続くか分からないので一先ずは森を脱出することを目指すことする。


大岩のあった方角に小走りで進んで行く。光はほんの一メートル先までしか照らしてくれていないが木にぶつかることもなく軽快に進んで行ける。力が漲っているし、これなら全力で走っても良さそうだ。不思議と大岩からの方角が分かるから自身を持って森を走り抜けることが出来る。


息を乱すこともなく結構な時間を走り続けていると、Aポーションの光以外の光が森の上部から滲み出て来た。

太陽の光が森の木々に遮られながらも薄暗く森の中を照らしてくれるようになりAポーションの光源が必要無くなった。そこでいよいよAポーションの試飲を試みることにした。


「ッ! ほろ苦いけど飲めるな。なんだか高級な栄養ドリンクを飲んだ気分だ。ユ〇ケルか?」


相変わらず怪我もしていないので効能が良く分からんけど体調に問題はないな。Aポーションは一度に一個の可能性もあったので再度生み出そうとしたがやはりダメだった。


Bポーションを飲んだ時みたく身体が発光することはなかった。周りが明るくなったから気付かないだけかもしれないけど。


効能なのか分からないけどポーションを飲みまくっているからか全然身体が疲れないな。そのまま走り続けついに森を抜けた。

森の外は草原や川が流れていて遠くに街の様なものが見えている。

太陽はしっかりと登っているし、結構な時間を走り抜けたみたいだ。


「このポーション凄いな。全然疲れていないぞ。これなら街まで走っていけそうだ」


最も出来たとしてもそんな急いで行くつもりはないけどな。森は抜けたし魔物に襲われる心配はないだろう。あとはのんびり歩いて街まで向かうとしよう。


「キュウ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る