虚無への埋没

芹意堂 糸由

ただの虚無

 そこにはただの虚無が存在し、僕を包みこもうとその大きくて魅力的な口を広げてこちらを向いていた。

 ただの虚無は僕以外の誰にも認識されず、それどころか近くにいる人でさえ、この僕がとんでもなく自身の境地に立たされていることを知りもしない。

 別に彼らは他人事として知らんぷりをしているわけではない。単に気づかないだけなのだ。

 ただの虚無は既に僕の手足にまとわりついており、果たして僕は身動きがとれない状態になる。

 身動きができないと、この時間においていかれる。時間においていかれると、本当に誰からも助けがもらえない、遠い遠い場所で独りになってしまう。悪循環の始まりだ。本当に助けが必要な人に助けは回ってこない、助けはおりないというこの世界の真理だ。

 世界について行かないといけない。日々流れる時間の中、みんなにおいていかれぬようもがき進まなければならない。もがき続けないと、本当にしんでしまう。

 しかし不思議ながら、ただの虚無に包まれたとき、僕は温かさを感じた。

 もう、動かなくてもいいという温かさだ。


 もう、しんどくはないという、あたたかさ。


 希望なんてもの、ときめきなんてもの、忘れてしまう。


 間違っている。


 けれど僕は、目を閉じた。


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虚無への埋没 芹意堂 糸由 @taroshin

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