其の終 魚類決意する

 

 更に数日後、また僕は衆煎寺の裏手の池に来ていた。

 すると池が凄いことになっていた。


「こ、これは酷い」


 僕は思わず声に出してしまった、辺りにはごみが散乱していたからだ。

 ステファンやその仲間たちが必死にゴミ拾いをしていた。


「本当に腹立たしんですけどー!」

「ステファン、これはどうにもなりゃせんで」


 ブリジットさんは今日はジャージ姿だった。そして一輪車でゴミを一カ所に集めていた。


「一体だれが、こんなひどい事をしてるんだろう?」

「ついにアーシ達の仲間が一匹浮かんでたんですけどー」

「ええ!」


 一大事じゃないか!


「その魚は無事なの?」

「なんとか無事よー、コードがヒレに絡まって溺れちゃったのよ、さいあくー」

「良かった」


 無事だと聞いて、僕はホっと胸をなでおろした。


「しっかし、この惨状はどうしようもねえにゃあ。この寺のヤツ等は無関心すぎだがや」

「確かに無関心すぎだよね」


 お寺の裏の池なのに、お寺の人は気にしてないのかな?


「そういえばー、最近お寺の方はイケメン坊主集めて、忙しそうになんかやってるみたいな?」

「なんだそりゃあ」


 イケメン坊主集団? 何がしたいんだろう? 宗教は良く分からないや。

 僕は考えてても仕方ないのでイケメン坊主は忘れる事にした。


「ステファン、ここまで来たら他の人に相談しようよ」


 僕はステファンに提案する。僕達が片付けても問題は解決しないと思うんだ。


「サトシの言う通りだぎゃ、レナにたよりんしゃい」

「そうだよ、僕達がどれだけ片付けてもこれじゃキリがないよ」


 僕とブリジットさんがステファンを説得する、どうにかしたいと言ってる割にはステファンの腰は重かった。


「そうねぇ、あーしたちだけじゃもうどうしようもないかー」

「おみゃあはどうも何かを考えてるでな、何を心配しとるがね?」


 僕も感じていたことを、ブリジットさんがステファンに尋ねてくれた。


「そうねぇ、あーしはいいんだけど、他の仲間の事が世間にーバレないかが心配なのよねー」

「いや、おみゃあの事知ったら、それが複数折っても驚きゃしにゃあて」

「僕もそう思うよ。ステファンの事が知られてるだけでも普通は大騒ぎだけど思うけどね」

「この町にゃあ喋る魚なんて細かい事気にするヤツはおらにゃあて」


 いや、普通は気にするよ。僕はそう思ったが言わないでおく。


「そうかしらー」

「安心せぇ、教会の井戸にゃあブリッジして走り回っとる同じ顔したバケモンがぎょーさんおるで、喋る魚なんて珍しくもにゃあて」

「え? 教会こわ!」


 え? 教会って何、ゲームとかマンガみたいにオバケとかいるような場所なの? 何でブリジットさんは平気なんだ? バケモノが多いとかダメじゃん。


「ブリの言う通りなら大丈夫そっすねー。おーし、あーし決めたよー」

「行くんだね?」


 ステファンは僕の言葉に頷いた、覚悟を決めたようだ。


「女は度胸だぎゃ」

「必ず犯人を捕まえてやるんですー」

「善は急げだね。ここの掃除は僕たちがやっておくよ」

「おぉ、ワシに任しときゃあて」


 僕とブリジットさんは詳しい状況が分からないので、ここに残りステファンの帰りを待つことにする。


「んじゃあ、あーしは行ってくるからー後はシクヨロ」


 こうして、僕達はステファンを見送った。


 ――

 ――――

 この英断が後に、この池にゴミを捨てていくヤツがいるんですけどー事件を解決に導くことになった。


 ステファンがみどりむし教会に行った後、修道士のマティアって子が此処に来るようになった。

 マティア君がステファン達と情報を集め役場に行くと、町の役場が重い腰を上げ見回りをすることになった。


 そしてボランティアの人も手伝ってくれて池は以前と同じくらい綺麗になった。

 後に不法投棄に来た人がボランティアの人に見つかり、警察へと連れていかれたみたいだった。


 こうして、僕とステファン達の戦いの区切りはつくことになった。


「いやー、人類もーすてたもんじゃないわねー」

「でも、相談してよかったね」

「そうねー、リナっちのサインが手に入ったのはー嬉しい誤算みたいなー」


 ステファンは色紙を僕に見せびらかす、ただ僕はそのリナって人の事を知らないので別に羨ましくは無かった。


「さっすがワシの配下だなも」


 何故かブリジットさんは得意気だった。


「やっぱー、池が綺麗だとー。いい感じじゃないー」

「そうだねぇ」


 僕とステファンは池の方を見ながらそう呟いた。

 平和な日常が、喋る魚と過ごす不思議な時間がこの先も続けばいいなと僕は考えていた。


 ――『魚類と人類』おわり

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魚類と人類 雛山 @hinayama2015

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