其の肆 幕田

 

 僕がステファンと出会ってから結構時間が経ったなぁ。

 僕はまた、今日もあの池に来ている。

 ステファンは今日もゴミ拾いをしていた。


「いい加減にしてほしいんですけどー」

「今日も、ゴミ拾いしてるんだね」


 ゴミ捨てされる量が増えてきているためか、ステファン達と僕だけでは追いつかなくなってきている。


「なんだぎゃ、ゴミ拾いに精がでとるがや」


 すると僕たちの後ろから声が聞こえた。

 金髪の縦巻きロールに黒いドレスを着た女の子が立っていた、最近僕のクラスに引っ越してきたブリジットって子だ。

 この子、可愛い子なんだけど何か怖くて僕は少し苦手かな。


「おーおー、サトシもゴミ拾いだがね」

「あ、プリエールさん」

「なんだぎゃ、ワシの事はブリジットちゃんと気軽に呼んでええと言っとるがね」

「あら? アンタ達知り合いなの?」


 ステファンもブリジットさんを知ってるのかな?


「おー、ステファンも精が出とるがや」

「ブリあんたも手伝いなさいなー」

「ドレスが汚れてまうがね」

「手伝う気は無いのねー」


 そして、ブリジットさんは池の周りをぐるっと見て回る。


「かー、こりゃあ酷いなぁ。近いうちにこの国にゃあワシのもんだで。こう汚されちゃあ敵わん」

「なんでこの国が、アンタのモンになるのよー」

「そりゃあ、おみゃあこの国で天下取るのがワシだからだがね」

「ブリ……あんたまだそんな事言ってるのー?」


 ふと思ったんだけど、ブリジットさん普通にステファンと喋ってるし!


「プリエールさん、そう言えば普通にステファンと喋ってるけどおかしいと思わないの?」

「何が?」

「喋る魚だよ!」

「おみゃあ、男なのに小しゃあ事言っとるがね。魚が喋ったらいかんなんて法律はにゃあでしょ?」


 え? これって法律の問題なの?


「喋る魚って小さい事なのかなあ?」

「ちいせぇわ」

「サトシって神経質そうな顔してるから、そんな事気にしてるんだしー」


 ブリジットさんはゴミの方を睨みながら。


「ステファン、こりゃあどうにかせにゃあならんでよ」

「どうしろっていうんですかー? あーしが前に町役場言った時はー門前払いだったしー」

「え?」


 ステファン……その姿で役場に行ってたの?


「そりゃあ、おみゃあら税金はらっとりゃあせんで、相手なんてしてくれやせん」

「えー、でもー人類の問題だしー」

「まあ、そうだなぁ……」


 ブリジットさんは考え込む、形の良い眉毛を少し上げて真剣に考えてるみたいだ。


「何か、考えがあるのかな?」

「さーねー、でもブリは性格アレだけど頭のいい子なのよねー」


 少しすると何かを思いついたような顔をした。


「おお、そうだぎゃ!」

「んー? 何か妙案でもー思いついたんですかー?」

「おお、税金おさめとりゃあせん魚類でも、悩みを相談できる場所にいきゃあええんよ」


 ブリジットさんの言うことはわかるけど、そんな場所あるの?


「そんな場所あるの?」

「うむ、あるでやよ」

「それってどこなのよー」


 ステファンが尋ねると、ブリジットさんは胸を張って自慢気に話し出した。


「うむ、ワシの配下の者に幕田玲奈という兵がおってな」

「幕田さん?」

「うむ。ワシほどじゃにゃあにせよ、ええ女だがね」

「いいからそのレナって子がなんなのよー、早くいいなさいー」


 急に幕田さんって人の話をしだすブリジットさんに、ステファンが先を話すように言います。


「おお、そうだぎゃ。んでレナが教会で相談事を受けとるんだがね」

「なるほど……教会ねぇ。懺悔室ってヤツー」

「おお、それだぎゃ」


 教会は隣の町にあったはずだからそこの事かなあ?

 ブリジットさんは教会に行ったことがあるんだ、僕は言った事ないや。


「レナならきっと解決してくれるでやよ」

「ありかもー」

「ステファン、何とかなると良いね」

「だぎゃ」


 ブリジットさんが提案してくれた案は、とても有力な策に思えた。


「さーて、ワシは朝倉攻めについて考えにゃならんで、そろそろいくがね」

「朝倉攻めって難しい事考えるんだね」

「天下取るにゃあどうにかせにゃあならん問題だがね」


 そう言ってブリジットさんは帰っていった。

 しかし、このブリジットさんの案がとても重要なことだったとは、僕たちはまだ気づいていなかった。


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