第4話 モテ期到来?

僕には楽しみ・・みたいなものがなかった。

けれど最近は学校に行くのが楽しみになった。理由は、マックで知り合ったお姉さんに会えるからだ。

あれから、朝マックに通ってみたがまだ一度も会えていない。

食堂に行くと唐揚げを1個多めに入れてくれて、こっそりピースサインを送ってくれるけれど、話す機会は・・・まだない。


お姉さんの名前は恩田おんださんと言う。

名札を盗み見して覚えた。


もう一度マスクを外して笑顔を見せて欲しい・・・

そんな事を考えながら5時限めの授業を受けている頃に恩田さんは帰ってしまうのだ。僕は机に頬杖をついて「はぁ」とため息をついた。


「こらーぁ 瀬戸ぉ、大きなため息ついてないで教科書見ろー」


教室の中で笑いが起こった。


「すみません」


学校で笑われるなんて小学1年の頃以来かもしれない。ああ、教室でオナラしたことあったな。。。しょうもない事を思い出した。


放課後、いつもなら正門を通って真っすぐにバイト先に向かうけど

食堂を横切り裏門を通ってバイトに向かう僕って、健気なのだ。

当然ながら放課後、食堂はとっくに閉まっている。

揚げ物の匂いだけが残っていて、恩田さんの働く姿が浮かんでくる・・・。


「瀬戸くん」


見ると同じクラスの女子、安川が居た。

「具合でも悪いの?」

「え?なんで?」

「なんか、ぼーっっと立ってるから、、熱中症?かなとか。」

「はぁ?、違うよ」

「じゃあ、ただ、ぼーっとしてたのね」

「別に、、、じぁな」

「うん」


安川の前をさっさと歩いてバイト先へ向かった。裏門を通るのは、ただ食堂の前を歩きたいだけだ。バイト先へ向かうには遠回りだから、けっこうな速足で僕は歩いていた。

けっこうな速さなのに・・・安川が横を歩いている。

僕はスピードを落とすことなく聞いた。

「なんだよ?」

「え? 何が?」

安川はキョトンとした顔で返事をした。

「いや、なんでついて来るんだよ」

「私の家、こっちよ」

「なんで、並んで歩くんだよ」

「えーー、歩くスピードなんて文句言うの?」

安川はニコニコしている

「俺は急いでんるんだよ。」

「別に邪魔してないでしょ」


なんだ、なんだ? なんか、可愛いぞ! 安川。



別に一緒に歩いたって構わなかったのに、なぜか安川をふり切ってバイト先に到着した。ちょっと息が上がっていてバカバカしい。


16時55分 制服からツナギに着替えた。

ガソリンスタンドのアルバイトはタッチパネルの操作をお客さんに教えたり洗車やオイル交換がメインだ。

いつもなら、パリっと働く男に変わる僕だったが・・・今日は気合が入らなかった。


安川のキョトンとした顔が思い浮かぶ・・・。


えーっと、安川の名前はなんだっけ?

えーっと、安川、安川、、安川歩美だ。

歩美、可愛い名前だ。

そー言えば恩田さんの名前も知りたいな


こんな事を考えていたら尻に蹴りを入れられた。


「痛ってっ、もー芦田ちゃん。なんだよ」


同じシフトの芦田あしだちゃんが口を尖らせて、さらに肩にパンチを入れてきた。彼女は芦田恵里香というアイドルか女優みたいな本名だ。

だから名前を呼ぶと怒られる。

これまでお客さんにアイドルみたいだと言って、からかわれて来たらしい。


「今、ニヤついてましたよ。瀬戸さん」

「いや、ニヤついてねーし」

「どー見ても、いい事あった顔ですよ」


芦田ちゃんは高3年だがバイト歴は断然先輩だ。

このガソリンスタンドの社長の娘でバイトと言うよりも家業手伝いだが、ぶっちゃけ仕事ができる女子高生だ。工業高校に通い、危険物や電気工事士、ホークリフトなどの資格をすでに持っている。


それにしても、なんでイイことあったとかわかるんだ??


「女ですね」


ギクっ


「いま、ギクっとしましたね」


ええーー、なんか怖い。


「はあ? おまえ、馬鹿ですか!?」


思わず乱暴な言葉でうやむやにしようとした。


「はいはい、確定ですね。

告られたんですか? 告ったんですか? どっちですか?」


ああ、 全然、うやむやにできないじゃないか・・・

むしろ確信をついてきたよ。


「ど、どっちも外れだよ。。。」

「好きな人、できたんですか?」


芦田ちゃんが前のめりになって聞いてくる。

近い!! 今まで気づかなかったのが不思議なくらい、まつげが長い。

大きな瞳が可愛い!!? しかも、いい香りがする。


「ちょ、と、近いよ! 近い!」

「好きな人できたんですか?」


気のせいか、芦田ちゃんの目が潤んでいる?


「え、、どうしたんだよ」

「はあ?こっちが聞いてんでしょ!」


なんだ?なんだ? 

ちょっとパニックになりかけた時、助けの声がかかった。


「おーい、お兄さんタイヤの空気圧、見てよ」

「はい! かしこまりました」


お客さんの声に我に返った僕たちは仕事に戻ったけれど・・・。

その後は話す暇もないくらい忙しくなって、芦田ちゃんは21時になるとタイムカードを打って、さっさと帰ってしまった。


22時にタイムカードを押しながら思った。

芦田ちゃん、長いまつ毛が可愛いかったな・・・

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