やっぱりトロフィーは悪い文明! 粉砕せよ!!

ちびまるフォイ

これが私の生きがいなんです!

【トロフィーを獲得しました!】

 🏆賞味期限ぎれを10個食べる



急に目の前に一瞬だけ文字が表示された。

二度拍手すると、空中にホログラフでトロフィーが表示される。


「これが日常トロフィーか……!」


噂には聞いていたけれど獲得したのは初めてだった。

期限切れになっていたので慌てて牛乳を飲んだことで獲得したらしい。



【トロフィーを獲得しました!】

 🏆行ったことのない道を通る



【トロフィーを獲得しました!】

 🏆美味しいものを5個食べる



【トロフィーを獲得しました!】

 🏆好きな子にデートを誘う



それからもトロフィーはことあるごとに獲得できた。

最初は「ふーん」程度だったけれど、トロフィーが獲得できるたびに嬉しくなる。


「よし、明日は休みだしちょっとトロフィー獲得に行ってみようかな」


これまで通りの過ごし方をして獲得できるトロフィーはおおかた手に入れた。

となると、今までやったことのない方面で獲得するしかない。


ひきこもりがちで、毎日天井を見つめながら

生きることの必要性を考えているだけだった日常が変わってゆく。


普段の自分ではやらないであろう川下りに挑戦してみたり、

遠目から呪詛の視線を送るだけだったデートスポットにも出かけるようになった。


その変化は自分ではあまり気づかなかったが、

ある日の友達から言われて気がついた。


「なんか、お前だいぶ変わったよな」


「そうか? 髪はまだ切ってないけど」


「内面だよ。前はホント出不精で陰キャ日本代表みたいだったのに

 今はいろんなところに出ていったりしてアクティブじゃないか」


「うーーん、そうかもしれない。

 まだ獲得していないトロフィーのためには

 新しい分野に挑戦するのが近道だからさ」


「良い変化だと思うよ。すごく生き生きしている」


「だろ! ほんとそうなんだ! 最近、明日が来るのが楽しみでしょうがないんだ!」


明日はなにをしよう。なにをすればトロフィーがもらえるのか。

はじめて人生に意味を見出して命を燃やして生きている気がする。


そうしていくうちに、あらかたのトロフィーは獲得しきってしまった。


待っていたのは煉獄のような退屈だった。


「あーー……やることねーー……」


人生の意味をトロフィーに見出して生活すること数日。

自分の脇の下のにおいをかぐことでトロフィー獲得方法を確認できると知ってから、

残ったトロフィーをしらみつぶしに獲得していった。


もちろん、すべてのトロフィーを獲得したわけではない。


「残りは……3日を眠らずに過ごす……これはパス。

 1年間筋トレを続ける……長いからパス。

 結婚する……これもパス。あれもパス。それもパス……ああ、もう残りはないじゃないか」


簡単なトロフィーは最初に手に入り、残ったのは時間がかかるものや難易度の高いもの。

不可能ではないが、トロフィー獲得のためにストックすぎる日々を過ごさなければならない。


「はあ……最初は楽しかったのになぁ……」


最初はテンポよく手に入るのでモチベーションも上がったが、

残ったトロフィーのために修行僧のような日常を過ごす気にはならない。

かといって、なにもしていないと退屈で死にたくなってしまう。


あんなに活力に満ちていた日々はどこへ行ってしまったのか。


「あれ……? これは……」


退屈に押しつぶされまいとダークウェブでネットサーフィンをしていると、

トロフィーに関する気になるまとめが掲載されていた。


「……裏トロフィー……?」


見るからに怪しかったが、書いてあるとおり便座に頭を突っ込んで

「僕は元気です」と叫びながら逆立ちすると、

裏トロフィーの獲得情報がホログラフで空中に表示された。


「まじかよ。本当に裏トロフィーがあったんだ!!」


裏トロフィーはまだ1つも獲得していない。

その気になれば簡単に達成できるものがいくつもある。


あの懐かしき充実の日々が戻ってくるのを感じる。


「よーーし! やるぞーー!!」


俺はテンポよくトロフィーを獲得していった。



【トロフィーを獲得しました!】

 🏆人がいる家を3軒に放火する



【トロフィーを獲得しました!】

 🏆抵抗できない人を5人殴る



【トロフィーを獲得しました!】

 🏆人を騙してお金を100万以上手に入れる



ちょっとしたことでポンポンとトロフィーが手に入る。

金よりもトロフィーよりも、明日が待ち遠しくなっていることが嬉しかった。


「トロフィーはやっぱり最高だ。こんなにも毎日楽しくなるなんて!」


裏トロフィーを集めるようになってから、

また全盛期の充実度が戻ってきている。


ああ、本当に生きていてよかった。


 ・

 ・

 ・


「最後の飯だ。ありがたく食べろ」


死刑台にいく前の部屋で、俺が注文した料理が出された。


「貴様のような極悪人に飯など食わせたくないのが本心だが、

 これも刑務所の規定上しょうがない。早く食べることだ」


「はい」


あまり味はわからなかった。

これから死ぬという実感もなかった。


すべて食べきることはなく途中で箸を置くと、促されるままに死刑台へと誘導された。


「何人もの人間を殺し、暴行し、騙し、人生をめちゃくちゃにした。

 その罰として貴様は死ぬことになる。死でも生ぬるいくらいだ」


「はい……」


「最後に言い残すことはあるか」



最後の問いかけに俺は残念そうに答えた。



「最後に獲得したトロフィーを、この目で確認できないのは残念です……」



ガコン。





【トロフィーを獲得しました!】

 🏆死ぬ


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