7:『私』と『あなた』はうまくやっていけるのだろうか

「これで勝ったと思うなよ、サイネリア・ファニーにウェル・ラース!」

 新コンビでの初任務は、色々あったものの、幹部を撃退するという成功と描かれた結果へ落ち着くことができた。

 戦闘員たちも、用意した酒を配り終えたのか、幹部の後を追って撤収していく。このあたり、ジェントル・ササキがタイミングを計っていたのだろう。

「ササキさん! 逃げられないッス! ひれ伏した野次馬の皆さんが、こう下から見上げてきて……!」

 バイトらしい女性の戦闘員が取り囲まれて身動きできなくなっているのは、幹部の作戦ミスかな、と思っていたら、野次馬同士で『聖戦』が始まり無事離脱していったので、まあ予定通りなのだろう。

 残された酔っ払いたちを繁華街へ誘導し、万が一に備えて駐車場を閉鎖したところで、

「はい、お疲れ様」

 現相棒が、にこやかに紅茶のペットボトルを差し出してきた。

「ラースさん……すいません、足を引っ張ってしまって」

「最後のかい? なに、そこまでは私が君に助けられたんだ、気にしなくていいさ」

 はて、と結露するほどの冷たさを楽しみながらキャップを開けて首を傾げると、

「君がいなければ、ジェントル・ササキもあそこまで自由に『悪の秘密結社幹部』をできなかったはずだよ」

 組合の貢献度ではなく、全体の状況構成として、という意味であった。

 褒められているのか、からかわれているのか、と疑いが首をもたげたが、魔法使いはすぐさま肯定の言葉を重ねる。

「人の力というのは種々あって『誰かとの繋がり』というのも、間違いなく力なんだ。そして、君と彼の信頼の深さは目を見張るものがある。お互いの『理解度』がすごく高い」

「信頼とか理解なんて、そんな……私の一方的な……」

 壮年は、うらやましい、と、

「君が彼を思うのと同じぐらい、彼も君のことを理解しているよ。見ていればわかる」

 笑みを強める。

 その頬に陰が差しこんだ気がしたが、ちょうど携帯電話が通知を告げ、驚きが彼の表情を塗り替えてしまったから、それきりになってしまった。

 通知の名前を確かめると、

「ササキさんからです」

「今さっき別れたばかりなのに? これは、私が思っている以上の信頼だ」

「ササキさんも、なんだか真面目な部分がでちゃって、ちゃんと悪役ができていませんでしたからね。慰めて欲しいのかも」

 冗談めかす声に笑顔を向けながら、メール内容を確かめる。

『お疲れ様です。

 初めてのヒールだったけれど、上手くいったと思いませんか? 自己採点では満点ですけど、文さんから見たらどれほどでしょうか?

 それじゃあ、また後日』

 まず、自分の目を疑い、

「はは、ジェントル・ササキという幹部は好青年でしたなあ!」

「役割を理解して、部外者にほど礼儀正しい……うちの会社に欲しいほどですねえ」

「魔法使いということは未婚でしょう? うちの娘が年頃でしてね……」

 遠くから聞こえる市外から訪れたお客さんたちの笑い声から、『客観評価の正しさ』に頷くと、次は彼の脳を疑い、

『お疲れ様です、ササキさん。ヒールとしては、どちらかというと『悪役』というより『癒し枠』でしたよ?』

 本心を包み隠さず送りつけると、

『え?』

 とだけ返ってきたから、

「ラースさん……人が理解し合うって、難しいことなんですね」

「ああ。君たちのようになれるコンビは少ないさ」

 最終的にラースが口にする『理解』という単語の意味を疑うことになり、ついでにラースの脳にも疑いが生じたことで、今回の作戦は終了することとなった。

 こちらを覗きこむ星空に、落ちそうになった涙をこらえるよう、濡れた瞳を返しながら。

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