最終話 拉致
目が覚めると視界は暗く、馬車に揺られているような振動があった。手足を縛られ猿ぐつわをされていて声もでない。ユーリがスッポリと入るくらいの大きな木箱に入れられているようだ。何でこんなことになっているのか、訳の分からない状況に恐怖が込み上げてくる。
気を失う前に見た横から伸ばされ腕と首の痛みから、自分を拐ったのは路地でみた人影だろう。どれくらい気を失っていたのか? 何故拐われたのか? 自分をどうするつもりなのか? いくら考えても分からない。
揺れが止まり何人もの人が動いている気配がする。暫くすると馬車に人が入ってきてガタガタとユーリの閉じ込められている箱の上部が開けられると、40歳くらいの商人らしい男が目の前にいた。男は酒場でユーリの話を聞いていたらしく「興味深い話だったものでね」と言って僕を国に帰る土産にすると宣った。
国境を越えてからはユーリに自由が与えられた。
自由といっても手足の拘束と猿ぐつわが無くなっただけだったが。
そして今は自分を拉致した男と一緒の馬車に乗せられている。男の名前はイーサン、男は国を跨いで商売をする商人だった。
夜になると商隊はテントを張って、護衛が交代で見張りについて休む。ユーリもテントを宛がわれ眠るよう言われた。男と馬車に乗せられたときも思ったが、どうもかなり非力だと思われているようだ。確かに戦闘には向かないが、男としては思う所がある。
夜も更けてきた頃、周りが急に騒がしくなり男たちの怒鳴り声や刃物のぶつかるような音が聞こえてきて、テントから出ると辺りは混沌としていた。
盗賊かと考えて周りを見回すと、少し離れた馬車の前にユーリを拐った男が、傍にいる護衛の男に何か言っているのが見えた。反対側を見ると馬が紐で木に繋がれている。
逃げるなら今しかない。そう思ってユーリが馬の側まで行き、跨がろうとしたとき「ユーリ」と呼ぶ声がした。振り返るとグランが剣を片手に駆け寄ってくる。
「怪我はないか?」
「な、なんでここに?」
思いもよらぬ人物の登場に目を白黒させる。そしてユーリが呆然としているうちに戦闘は終わっていた。
グランは商人たちを縛っている男達のところに行くと、何か指示をしてからユーリの傍に戻ってきた。
「遅くなってすまなかった」という彼に訳が分からず説明を求める。
グランはクレインによってユーリにつけられた監視で、早くから行動を見張られていたようだ。
監視していたことに「すまない」と謝られ、ユーリはグランと一緒にアースランド国への帰路についた。
最強装備品を作れるために自由な生活がなくなるのは嫌なので冒険者になって出直します 7ふぐ神 @7hugu
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