第4話【LOVERS ONLY】
【第四幕】
初夏の頃に出会った。
私と心也さん。
私たち2人は、その年の冬を越せない。夏の盛りを生きた虫のようだった。
なぜ別れなければならないのだろう。
今でも彼のことが大好きなのに。
そんなことを思いながら、枯葉の積る公園の遊歩道を歩いていた。
変わったものと言えば公園の景色。
私の足どり。
以前なら、公園のベンチに彼の姿を見つけると、私は自然と早足になった。
自然と顔が綻んで。笑顔になれた。
溢れて汲めど尽くせぬ笑顔。
過ぎし日の池を満たす涌水。
小犬の尻尾みたいに、思わずぱたぱた駆け出す靴音と、喜びのあまり早鐘を打つ胸の鼓動と、紅潮した頬。
彼にさとられまいと、恥ずかしさを両手でおし殺す。息づかい。
そんな私を見る度、心也さんはいつも、変わらぬ笑顔で迎えてくれた。
思い出は空蝉のようだ。
「座ったら?」
彼が私に言った。
いつもと同じ彼の笑顔。
私は唇を噛んで首を横に振る。
変わったのは私の方だった。
彼の隣にはもう座れない。
彼の表情も、彼の隣に居座る女の顔も、私は直視することが出来ない。
水辺に映る、秋の日の陽射しに照り映える。彼の横顔に苦悶の陰影が浮かぶ。
「騙すつもりじゃなかった」
水辺に投げた小石の音のよう。
彼が絞り出すような声で呟いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます