第7話迫り来る危機

鼻に刺さるような灰の匂いで目を覚ます。どうやら俺は気絶していたらしい。起き上がろうにも爆風で吹っ飛ばされたせいで全身が痛いのと同時に後頭部に感じる柔らかい感触をもう少し堪能していたいというのもある。


「あ、起きた」


上からシラヌイさんの上下反対の顔が覗き込んでくる。後頭部に感じる柔らかく、暖かい感触。そしてシラヌイさんが覗き込んでくる。これは完全にアレですね。俗に言う膝枕という類のものですね。本当にありがとうございます。


「大丈夫?」


「全身の打ち身が酷くて一歩たりとも動かせないけど、こうして生きてるから大丈夫だと思う」


俺が後頭部に意識をうつし最大限堪能しこの感触を記憶しようとしているとシラヌイさんは「よかった」と言って起き上がった。ん?あれ?膝枕……。骨が軋むような痛みの中俺は事実を確かめようと根性で腕を動かす。間違いない。太ももから膝にかけての形をしている。今の状況が全く分からないので頑張って上体を起こし頭を置いていた部分を見る。するとそこには太ももから膝にかけての形をした枕が置いてあった。


「そういう事じゃねぇよ!!」


「アッハッハッハッハ!くっそ面白ぇ」


聞き覚えのある少しだけこもった声が聞こえる。振り返るとそこにはいつものガスマスクとヘッドフォンをして白衣を身にまとった不審者、スイがいた。


「お前の仕業かっ!」


「おいおい、命の恩人にそりゃあないぜ?お前が吹っ飛ばされたのを俺が拾ってやったってのに」


「それでもこれはないでしょ!いたいけな男子高校生の純情を弄びやがって!」


「へっ、女子高生のお膝を借りるなんざァ百年はぇよ童貞」


クソ!全身の打ち身が酷くなかったら今頃コイツをぶん殴ってやれたのに!つか、なんで童貞確定してんだよ。


「え?違うの?」


「頭ん中読むんじゃねぇ!」


まだ全身が痛いので俺は仕方なくその膝の形をした枕に頭を預ける。うむ、まるで人肌のような感覚で本当に膝枕だと錯覚してしまう程精巧に造られている。この弾力といい肉質とといい、まるで本当の女子高生の膝を堪能しているかのような……


「ちなみにその膝のモデルは俺だから」


「チクショォォ!!」


俺は勢いよく枕を投げ飛ばす。その姿を見てスイは腹を抱えて笑い転げる。アイツ、いつか絶対に締めてやる………。

枕が投げ飛ばしたので俺は地べたに寝る。土はひんやりしていてちょっとだけ湿っている。やっぱり枕投げなきゃよかったなと軽く後悔しつつも空を見上げる。色々な形の雲が空に浮かんでいる。俺たちの想像する異世界とかならドラゴンとか飛んでいるのだが、この世界に来てからはそんなものは見たことも無く見るのは俺たちの世界と変わらないような日常と同じ空の景色だけ。

そう言えばシラヌイさんはスケッチブックから五尺玉を取り出していたが、異空間から取り出す系の能力なのだろうか?だとしたらなんで五尺玉なんて持ち歩いているのだろう。


「なぁ、シラヌイさんてどんな【権能】なの?」


「アイツの権能は【スケッチブックに描いたものを具現化する】っつう能力だ」


なるほど。ということはあの時スケッチブックに描いた五尺玉を具現化したという訳か。どっかの誰かさんと違ってなかなか実用性のありそうな権能だな。


「悪ぃな!実用性のなさそうな権能で!」


おっと、頭を読まれているのだった。


「わざとだろ」


「わざとだよ」


俺はニッと笑う。これで少しはさっきの仕返しができた。


「じゃあミコちゃんの権能ってなんだ?」


「アイツの権能はちょっと特殊でな。説明が結構面倒くさいんだが」


俺はちょっとだけ体を起こしてミコちゃんたちの方を振り向く。すると今度は五尺玉の代替品の球体を飛ばして火を出している。あの様子じゃあ暫くはシラヌイさんと一緒にいるだろうし、俺も全身が痛いので仕事には戻れないから問題ない。


「問題ない」


「そうか、じゃあ先ず人種についてなんだがこの世界には三つの人種がいる。『人間種』『異形種』そして『亜人種』だ。『人間種』は見ての通りお前たちと同じ見た目をしている。『異形種』はお前も街で見たことあるだろ?全身が毛皮に覆われてる大男とかさ。ああいうの」


説明されて思い出す。たしかに街とかでリザードマンとか他の人よりも二回りぐらい大きい人をよく見かける。


「『亜人種』ってのは『人間種』と『異形種』の中間なんだ。ちょうどミコのような……」


と説明していると急にスイは反対側の山の置くを注視し始めた。すると何か危険を察知したのかシラヌイさんとミコちゃんに大声で伝えた。


「おい!ミコ、ユイ!奴が来た!今すぐ住人に避難勧告を出せ!」


そう聞くと先程まで楽しそうにしていた二人は真剣な表情になりすぐさま山を降り始めた。


「なぁ、やつってなんだ?」


「やつはやつだ。野郎、また無理しやがったのか……」


そう言うと俺たちとは反対側の方向の山から凄まじい轟音と土埃が上がった。スイは急いでそっちに走っていった。俺は何が何だか分からないまま取り残されてしまった。

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黄昏世界の旅路録 翠玄の吟遊詩人 @sui-sijin

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