桃から生まれたモモちゃん
ぼくは桃から生まれたらしい。だから桃太郎と名付けられた。
だけどぼくは桃。女じゃない。男でもない。生まれた時に桃から生まれたから、ばあちゃんとじいちゃんが桃太郎って名前をつけたけど、桃太郎って「昔っぽくていやじゃない?」と思ってから、ぼくは桃に改名した。
だって、桃の方が女子っぽいじゃない? それが気に入ってる。
まあ下半身の付け根にぶらぶらとついてるものを、鬼ヶ島で手術するために、ぼくは大きくなったら性転換手術をする。
そのために、旅立つことを決意した。鬼ヶ島は昔と違い、今の時代ではオカマ島って呼ばれるぐらいに有名な性転換手術ができる島ってことで、オカマ界隈では有名な話よ。
ばあちゃんがドンブラコって流れてきた桃を拾ってくれたのには、ありがたさを感じてる。だって、拾ってくれなきゃ、ぼくは生まれてないもの。
じいちゃんが、「えいや」ってナタで桃を割った時には、オギャーじゃなくて、キャアーって悲鳴を上げたらしいわ。だからぼくはその頃から女子っぽかったとじいちゃんに言われたっけ。
大きくなるにつれ、桃から生まれたことによるコンプレックスみたいなものはあったわ。だってみんな人間の女性から生まれるのに、ぼくだけ桃(くだもの)なんだもの。
そりゃコンプレックスいっぱいな幼少期だったし、学校に通い出した六歳でぼくは「他の子と違うんだな」って思ってた。
別に最初っから男子を好きな感じじゃなかったわ。でも乙女心がわかるのよね。ぼくって。なんでだろうって思った。これはやっぱり桃から生まれた桃だから桃色が好きなのよって思って可愛いものが好きだったわ。
幼少期に男子のいじめっ子にからかわれて、人間とは仲良くできないでいた。そんな時、犬の次郎ちゃんとばかり遊んでた。次郎ちゃんは「私も女性に憧れるぅ!」と言って小さなダックスフンドで可愛らいいし、モシャモシャの体毛が、ぼくの心をくすぶったわ。第一人間と関わるより、動物たちとおしゃべりしている方が楽しかったしね。
次郎ちゃんとぼくはある日旅立つ決意を固めたの。それが十五歳の日ね。
ばあちゃんとじいちゃんはびっくりしたわ。だって、普通に生活してる人間が鬼ヶ島に行くって聞いたら誰だってびっくりするわ。オカマ島なんだもの。
初めてそう告白した日は、じいちゃんには勘当ものだったわ。そりゃそうよね。だってぼくが普通に男として一人前になるために武道に励むため修行に出るかと思うわよね。
でも、ぼくは違ったのよ。性転換して立派な女性になることが夢なんだもの。
いいの。そんなじいちゃんなんて嫌いだし、ばあちゃんは桃ちゃん、桃ちゃんは女の子なのかい?とオロオロ泣いていたっけ。
そんなじいちゃんとばあちゃんを置いて、次郎と二人、ぼくは旅だったわ。
目指せ鬼ヶ島。目指せ性転換! でも、資金が必要なのよね。そう思ってぼくはいろんなバイトをしたわ。ある島から来たと言う猿のサスケちゃんという友達がバイト先で出来たたわ。サスケちゃんも鬼ヶ島で、手術をするために資金を貯めてるって言ってたわ。
まずはサスケちゃんは胸の豊胸をしたって言ってたわ。私もがんばったわ。バイトをがんばっているとなぜか、人気にものなって行くのよね。バイトって何か?ってそりゃあ決まってるじゃないの。異業種ゲイバー鬼ヶ島での接客よ。
このゲイバー鬼ヶ島では、いろんな人種の人や人外(動物)の方達が遊んでいる。私が育った吉備という街では、人間だけが唯一の遊び相手、友達だったけど、このゲイバー鬼ヶ島に来てからと言うもの、人外の友達ばっかりができたのよね。みんな目的は女子になることだったし、気が合ったわ。だからすぐに打ち解けてホッピーとも仲良くなった。
次に仲間になってくれたのがキジのホッピーだっとわ。ホッピーも、自分が男性だってのが気に入らないみたいで、次郎ちゃんとサスケと同様に同じ悩みを持って、この鬼ヶ島に来ていたわ。だから意気投合して、一緒にお金を貯めるために頑張ったの。
そして、とうとう三年もたった夏の日、ぼくは、女として、私になることを決めたわ。鬼ヶ島の性転換病院オニーヨという病院で、手術をうける決意をしたの。もちろん次郎ちゃんもサスケもホッピーもみんな大喜び。一緒に手術を受けたわ。そんな手術日、鬼の赤鬼先生がぼくに言ったわ。
「もう後悔はしないね?」と言ったわ。
私はそれに応えたわ。
「この生まれてからこのかた、ずっとコンプレックスをもって生きてきたの。ぼくがわたしに変わる日を望んで、鬼ヶ島まで航海をしてきたの。もうこの航海に後悔はないわ」
「わかりました。では進めましょう」
赤鬼先生は、ぼくの身体にメスをいれた。豊胸もしたわ。これでもうコンプレックスなんてない。ここまでの航海に後悔はなかった。
無事、赤鬼先生の手によってぼくから私になることができたんだから……。
そうよ。もう私は、桃太郎じゃなくて、立派な女性の桃になったんだから!
赤鬼先生にお礼を言って、退院することができた。これでもう後悔はないわ。じいちゃん、ばあちゃん、今までありがとう。私は鬼ヶ島で一生懸命に生きて行きます。
ショート・ショート 掌編・短編集 北条むつき @seiji_mutsuki
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