異国の剣士

港町アデンにて

 はるか遠い昔のこと。神々の時代が終わり、神と英雄の時代が終わり、そして私たち人間の時代が訪れた。

 悪魔も竜もまたはるか遠い昔の物語になろうとしていた頃に、一人の旅の騎士がいた。町から町へ、夢と冒険を探して歩く、流浪の騎士。その名も冒険騎士ホライン・ゲーシニ。

 大そう腕の立つ若者で、王都ベレトの騎士団では収まらないと、その身一つで冒険に明け暮れる。





 ある時、騎士ホラインは母国ベレトより東、涙の門なる海峡を隔てた向こう、大帝国マムルクの南東端、ユムンの国に旅をした。

 その港、アデンの酒場の片隅で彼は男らと力比べの腕ずもう。

 血気にはやる男らは、我も我もと挑みかかるも、誰一人としてホラインの相手にならず。それでも次々引きも切らず押し寄せる。

 疲れはじめたホラインは、ここら辺りで適当に負けてやろうと考えて、小柄な男に花を持たせた。小柄と言えど、港町の血気盛んな男らの一人だから、弱くはない。

 しかしそれでも見物人は納得せず、ホラインに詰め寄りすごむ。


「おい、あんた! 手を抜いたんじゃないだろな?」

「言いがかりはよしてくれ。もういい加減、疲れておる。腕に力が入らんよ」


 ホラインが席を立つと見物人らが、ざわざわと騒がしくなる。

 どうやら賭けをしていたようだ。ホラインが勝つか負けるか、あるいは誰が勝つだろうかと。

 小柄な男は自分に賭けていたらしく、大金を手にして酒場を出て行った。

 昼間から賭け事とは感心せぬと、ホラインは眉をひそめるも、酒場中の者たちを一人一人つかまえて説教するわけにもいかず、見すごした。



 海鳥の鳴く、風さわやかな日であった。

 突然に、酒場の外から悲鳴が聞こえる。男女を問わず、何人もの。

 屈強な男らが、はて何事かと、ぞろぞろ酒場を飛び出した。ホラインも彼らに続いて外に出る。

 人びとが酒場の前を横切って、大慌てで逃げて行く。男らとホラインは流れに逆らい、騒動の大元へ。

 そこで見たものは、血まみれの死体。何人も剣で斬られて死んでいる。その中には先ほどの小柄な男の姿もあった。

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