狼藉者

 白昼堂々刃傷ざたとは何事かとホラインは驚いた。

 犯人は一人の男。見た事のない、細身で片刃の剣を持ち、駆けつけた男らをにらんでいる。

 屈強な男らは犯人を取り囲むも、刀剣相手は分が悪い。

 そこはホライン、騎士の出番と進み出る。


「いかなよしかは知らないが、市中での乱暴狼藉、見逃せぬ。何か申し開きはあるか?」


 ホラインが剣を抜くと、殺人犯は真顔で答えた。


「我が主の道を阻んだ」

「……それだけか?」

「それで十分。なあ、お前……剣を抜いて無事ですむと思うなよ」


 殺人犯は剣を下げて、下段の構え。ホラインは中段の構えで迎え撃つ。

 二人して正面からにらみ合う勝負の場に現れたるは、白い肌の貴族の男。場違いにハデな服が人目を引く。

 男はのこのこ修羅場に乗り出し、みなに言う。


「落ち着きたまえ、落ち着きたまえ。大事にするつもりはない。彼は私の奴隷であるよ」


 港町の男らは、声を荒らげ抗議する。


「これが落ち着いていられるか! こいつ、人を殺したぞ!」

「それはお悔やみ申し上げる。ご遺族には補償しよう。この奴隷は数日前に買ったもの。異国の者ゆえ法に疎い。しかしながら、斬られた男も悪いのだ。よほど浮かれておったのか、前をよく見ず、危うくぶつかるところであった。その仲間もいきり立ち、話が通じぬありさまで」


 人を人とも思わぬ口に、誰も彼もが怒りを覚えた。


「はい、そうですかとなるものか! だいたい、あんたはどこの誰だ!」

「ここよりはるか西の国、ナバラの王に連なる者。サヴィニの貴公子、ゴーティ二世」

「知らん、知らん! やっちまえ!」


 いきり立った男らは、見知らぬ貴族に向かっていくも、殺人犯の奴隷剣士が立ちはだかる。その刃の輝きに、男らは怯んで止まる。

 貴族の男は苦笑い。


「あさはかな。人が下手に出ておれば、調子に乗ってつけ上がる。威勢ばかりの腰抜けと、身のほど知らずの者ばかり。これだから未開人は好きになれぬ」

「バカにするな!」


 棍棒を手にした男が堪らず飛び出す。

 ああ、しかし、剣閃光る。あわれ男はヘソを境に上と下に泣き別れ。血の涙が地にあふれる。

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