後日談

 それから半年、ホラインが悪魔のうたげのことなんぞ忘れかけていたころに、また悪魔がやって来る。


 旅先でホラインが宿に泊まって眠っていると、トカゲの悪魔が窓を叩く。

 最初こそぎょっとしたホラインだったが、すぐに見覚えのある者だと気づき、落ち着いた。


「どうしたのだ、また何か用なのか?」

「もう一度、私と来てはいただけませんか?」

「今度は何だ?」


 面倒そうにホラインが聞くと、トカゲの悪魔は早口で説明する。


「大宮殿で大げんかがはじまったのです。悪魔の貴公子カマル・ウェインと大軍団長アドラールが、うたげの最中に仲たがい」

「そういえば悪魔のうたげは二年も続くのだったなあ」

「とにかく、それを止められるのは、大悪魔ラビターン様の他にないと」

「そう言われても、この私はラビターンではないのだが」


 眠たくてしかたのないホラインは、悪魔の頼みを受け入れない。

 トカゲの悪魔は伏して乞う。


「このままでは悪魔界のハルマゲドン! どうか、どうかお助けを」

「しかし悪魔は死なぬのだろう? やらせておけば良いではないか」

「それは確かにそうですが! 荒れ果てた跡を誰が直すのか、苦労するのは下の者……」

「かわいそうだが、手は貸せぬ。真に高貴な身分の者は、私情に振り回されはせぬ。仕える主をたがえたと思うのならば、次からは正しき主を選ぶべし」

「それでは私はどうすれば!」

「巻き込まれるのが嫌ならば、ほとぼりが冷めるまで離れておれば良いではないか。あえて戦火に飛び込んで何の得があると言う?」


 ホラインの助言を受けたトカゲの悪魔は、はっと思い直して言う。


「うーむ、それもそうですね。私は何を悩んでいたのか……。振り切れました。私だけバタバタするのもバカらしい。ここは私も無責任になりましょう」


 そうして悪魔は飛び去った。

 本当に納得してしまうのかとホラインは拍子抜け。

 小人しょうじんに我が身に勝るものはなし。

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