うたげが終わって

 ホラインはトカゲの悪魔につかまって、ベレトの家に帰り着く。

 くたくたのトカゲの悪魔にホラインは深く礼。


「いや助かった。何か礼でもしたいと思うが、さて何が良いものやら」

「いえいえ何もいりません。私は務めを果たしただけで」


 謙虚な悪魔にホラインは好感を持つ。


「まあそう言うな。駄賃だちん代わりに銀貨でも」

「ひえぇ、銀は……銀は嫌です。どうせならスイカを一つくださいな」

「スイカとな? そんな物で良いのなら」


 ホラインは倉よりスイカを持って出て、トカゲの悪魔に手渡した。


「ありがたい、ありがたい」


 トカゲの悪魔は小躍りし、スイカを持って飛び去った。

 悪魔とはわからぬものだとホラインは大あくび。目をしょぼしょぼさせ、そのままベッドにまっしぐら。倒れるように眠り込む。



 翌日の昼に起きたホラインは、ラビターンにうたげの様子を報告しようとベレトの城へ足を向ける。

 城の廊下でラビターンとばったり会ったホラインは、まずマントと指輪を返した。

 ラビターンはマントと指輪を受け取りながら、いやらしく笑って言う。


「ずいぶんとお早いお帰り。悪魔のうたげはどうでしたかな?」

「これといっておもしろくもなし」

「それは早く帰ったせいです。長居ながいしておられたならば、もっと他にもいろいろと見られたものを。ああ惜しや」

「冗談ではない。二年もあちらにおれはせぬ」

「やや、何ともお気が短い。短気は損気と言いますぞ」

「くだらんよ。やれ侯爵だの伯爵だの、肩書だけは立派な奴らに、退屈で豪華なパーティー……人間とそう変わらぬ」

「ははは、なるほど。そう見えましたか」


 笑い続けるラビターンにホラインは告ぐ。


「次は六百年後だそうだ」

「わかりました。ご苦労様です。お礼に何でもお望みを一つ叶えてさしあげたいところですが、あいにくと人の身ではそれも無理。しかししかし、どうしても望まれるなら……」

「構わぬよ。元より期待はしておらぬ」

「うーむ、何とも清廉せいれんなお方だことで」


 ラビターンは彼の無欲をなげいてこぼす。

 悪魔とは人のごうにつけこむものなり。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る