悪魔のうたげ

同窓会の誘い

 はるか遠い昔のこと。神々の時代が終わり、神と英雄の時代が終わり、そして私たち人間の時代が訪れた。

 悪魔も竜もまたはるか遠い昔の物語になろうとしていた頃に、一人の旅の騎士がいた。町から町へ、夢と冒険を探して歩く、流浪の騎士。その名も冒険騎士ホライン・ゲーシニ。

 大そう腕の立つ若者で、王都ベレトの騎士団では収まらないと、その身一つで冒険に明け暮れる。



 ある日ある時、騎士ホラインは長旅を終え、珍しく王城の警備の任についていた。

 だがホラインは根っからの風来坊。立ちぼうけは退屈で、こんな仕事は長くはやれぬと思っていた――まさにその時、元悪魔のラビターンが通りかかる。


 このラビターン、悪魔でなくなり人間として王城で働いていた。しかし何やら浮かない顔。仕事中のホラインと目を合わせたラビターンは、困った顔で話しかける。


「おやおや、これはホライン様。ちょっと話を聞いてください」

「はて、どうした? 人間の暮らしが嫌になったのか?」

「いえいえ、そうではございません。それなりに楽しくやっているところ。人間も悪いものではありません。悪魔というのは決まりだらけ。それに比べて人間は何と自由であることか」

「では、いったい何の話だ?」

「ええ、それが……同窓会があるのです」

「同窓会?」


 悪魔にもそんなものがあるのかと、ホラインは目を丸くする。


「同期の悪魔と近況を語り合うのでございますが、人の身に堕ちた今では合わせる顔がありませぬ」

「ほう、そんなものか?」

「そこで一つ、どうでしょう? ホライン様に代理として出席していただきたく……」

「私がか?」


 ホラインは二度びっくり。

 少し興味はあるものの、用意もなしに悪魔の中に飛び込むほど無謀ではない。

 そんなホラインの心中を察してか、ラビターンはこう言った。


「ご心配にはおよびません。身を守るマントと指輪を貸しましょう」


 ラビターンは身に着けているマントと指輪をホラインに渡す。そしてさらに招待状を押しつけた。


「同窓会は今夜です。招待状を持っていれば、夜中に迎えがやってきます」

「そうなのか」


 半信半疑の騎士ホライン。

 ラビターンはさっさと去る。

 はてさて今夜何があるものか?

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