商売に向かない男

 そうして質屋の若旦那が、ホラインとダーバイルの前に姿を現した。彼は笑顔でダーバイルに聞く。


「戻ってきたということは、品を全て売り切ったのか?」

「へえ、そりゃあもう。十分に稼がせてもらいました」

「じゃあ、元手分の借金を今ここで耳をそろえて返してもらおう」


 そう言われたダーバイルは、へつらいの笑みを浮かべてこう答える。


「では、金貨十九枚。ここにお返しいたします」

「いやいや、金貨二十枚だ。一枚足りぬぞ」


 若旦那に指摘され、ダーバイルはニヤリと笑う。


「ありゃ、これはいけません。では、また品をお貸しください。今度は利子までしっかりと儲けてお返しいたします」


 これを聞いて、その場の全員、言葉もない。

 だが、ダーバイルは反省する様子もなく、平気な顔で言ってのける。


「たった金貨一枚分、品さえあれば、いつでも返して見せましょう」


 若旦那は顔をくもらせ、問いかけた。


「そこまで自信があるならば、さぞや儲けたことだろう。その儲けはどうしたのか、言ってみよ」

「恥ずかしながら、飲み代に」

「待て、待て、全部か!」

「ははは。はい」


 あっけらかんと笑って答えるダーバイル。

 若旦那は深い深いため息をつき、ダーバイルに言う。


「わかった、金貨一枚は返さずとも良い。あんたに貸せる品はない。あんたとの取引は、今日を限りに終わりにしよう」

「ええっ、ちょっと、そんな殺生な」


 ダーバイルは焦ってすがるも、若旦那は切り捨てる。


「あんた、商人に向いてない。商人てのは儲けた金を、さらなる儲けに使うもの。金を転がし、大きくして、世を転がす。だが、あんたには志がない」

「儲けた金をどう使おうが、そんなのオレの勝手でしょう」

「ああ、そのとおり。ゆえにまた取引をやめるのも、私の勝手。商売は刹那せつな主義とは相容れぬ。わかったら、早うね」


 金に色などないのだが、自制できない商人ほど、信用できないものはない。ダーバイルは追い出される。あわれなれども、さもありなん。

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