金持ちになれない男
その場に残ったホラインは、少し気まずい思いをする。
そんな彼に若旦那は話しかける。
「ところであなたは、なぜここに?」
「なぜと言われても……ダーバイルが仕事があると言うもので」
ホラインの言いわけを聞き、若旦那は眉をひそめる。
「ホラインさん、あなたは騎士。つき合う相手は選びなされ」
「確かに奴はろくでもないが、悪人ではない。そこまで言われることはなかろう」
ダーバイルをかばうホラインに、若旦那は忠告する。
「人づき合いを軽く見てはいけません。怪しい者と親しくすれば、あなた自身の人格が疑われます」
「心配無用。私は騎士だが、はぐれ者。落ちる名誉もありはせぬ。朱に交われば赤くなると言うならば、むしろ逆に私が奴を染めてみせよう。
かたくななホラインの返答に、若旦那は説得を諦めた。
「あなたもなかなか頑固なお人。そうでもなければ、つとまらぬということでしょうか。もう何も言いますまい。それでは騎士様、お達者で」
「うむ、そなたも壮健でな」
人はみな一人一人、生き方も生きる道も違うもの。
ホラインは若旦那と別れ、質屋を後にする。
◇
質屋から出ると、ダーバイルの姿はもはや影もなく、ホラインは立ちぼうけ。やれやれと彼はため息。
ダーバイル、まことに勝手な男だが、ただそれだけの男ではない。稼いだ金をみなにふるまい、一度に使い尽くすのも、常人にはなせぬ業。ひたすらに己の腹に貯め込んで、死蔵するより良いではないか。金は天下の回りものと言うならば、彼のような者もおらねば、はじまるまい。
……ただ永遠に金持ちにはなれないだろう。
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