金持ちになれない男

 その場に残ったホラインは、少し気まずい思いをする。

 そんな彼に若旦那は話しかける。


「ところであなたは、なぜここに?」

「なぜと言われても……ダーバイルが仕事があると言うもので」


 ホラインの言いわけを聞き、若旦那は眉をひそめる。


「ホラインさん、あなたは騎士。つき合う相手は選びなされ」

「確かに奴はろくでもないが、悪人ではない。そこまで言われることはなかろう」


 ダーバイルをかばうホラインに、若旦那は忠告する。


「人づき合いを軽く見てはいけません。怪しい者と親しくすれば、あなた自身の人格が疑われます」

「心配無用。私は騎士だが、はぐれ者。落ちる名誉もありはせぬ。朱に交われば赤くなると言うならば、むしろ逆に私が奴を染めてみせよう。不心得者ふこころえものをいさめるは、まさしく騎士のつとめなり」


 かたくななホラインの返答に、若旦那は説得を諦めた。


「あなたもなかなか頑固なお人。そうでもなければ、つとまらぬということでしょうか。もう何も言いますまい。それでは騎士様、お達者で」

「うむ、そなたも壮健でな」


 人はみな一人一人、生き方も生きる道も違うもの。

 ホラインは若旦那と別れ、質屋を後にする。



 質屋から出ると、ダーバイルの姿はもはや影もなく、ホラインは立ちぼうけ。やれやれと彼はため息。

 ダーバイル、まことに勝手な男だが、ただそれだけの男ではない。稼いだ金をみなにふるまい、一度に使い尽くすのも、常人にはなせぬ業。ひたすらに己の腹に貯め込んで、死蔵するより良いではないか。金は天下の回りものと言うならば、彼のような者もおらねば、はじまるまい。

 ……ただ永遠に金持ちにはなれないだろう。

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