金持ちになりたい

商売のすすめ

 はるか遠い昔のこと。神々の時代が終わり、神と英雄の時代が終わり、そして私たち人間の時代が訪れた。

 悪魔も竜もまたはるか遠い昔の物語になろうとしていた頃に、一人の旅の騎士がいた。町から町へ、夢と冒険を探して歩く、流浪の騎士。その名も冒険騎士ホライン・ゲーシニ。

 大そう腕の立つ若者で、王都ベレトの騎士団では収まらないと、その身一つで冒険に明け暮れる。



 ある時に騎士ホラインは、イテヨの都ハバルに続く街道で、物売りをするダーバイルを見た。

 彼は両手に美しい布を持ち、道行く人に声をかけている。その後ろには反物を乗せた小さな荷車がある。


「あちらこちらの紳士淑女のみなみな様、東方の羊の布はいかがです? 冬温かく夏涼し、軽くて丈夫な最高級の羊の布が、一反・銀貨八十枚! 金貨たったの二枚で買える! こうなったら買うしかない! こんなに安くて良いんです! 今が買い、今しか買えない!」

「ダバではないか。宝探しはやめたのか?」


 まじめに働く気になったのかと、ホラインは意外に思い、話しかける。

 ダーバイルは笑顔で応じた。


「これはこれは、騎士の旦那。上等な羊の布はいかがです?」

「この私が針仕事などするように見えるのか」

「はあ、さいですか。はるか東の国から仕入れた、質の良い布なんですが……。どうです、見事な肌触り」


 ダーバイルは布をなでつつ見せつけるが、ホラインは困り顔。


「何と言われても買わないぞ。そもそもだ、私には金がない。それなりに値段が高い物だろう」

「旦那になら、勉強させてもらいます。女性への贈り物にもなりますよ」

「あいにくと、贈るような者もおらぬ」


 固く断るホラインに、ダーバイルは苦笑い。


「やれ、相変わらず色気のない」

「重ねて問うが、宝探しはやめたのか」


 ホラインの問いかけに、ダーバイルは布をしまって眉をひそめる。


「完全に諦めたんじゃないんですが、最近ちっとも儲からないので」

「商いは儲かるか?」

「まあ、まだまだはじめたばっかりで、何とも言えないところです」

「しかし、なぜ商いなんぞ?」

「へえ、それが……」


 宝探しに情熱をかけた男がどうして急に商売をはじめたか、ダーバイルはわけを語る。

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