後日談

 数年後、ホラインは各地で流しのラバーブ弾きのうわさを聞いた。それによると、うわさの彼は一杯の酒をおごると、見事な歌を披露するという。

 彼の名はアルサード。

 彼の歌に、旅の騎士とやせ男の語りがある。その内容は「自信のない男が騎士に諭される」というものだ。



 この時世じせい、旅の騎士は多くはないが、また同時に少なくもない。仕える主を探し求める騎士あれば、強さを求め修行をする騎士もあり、金持ちの道楽で旅をする騎士もある。

 いつの時代も、旅する騎士はヒーローだ。人々のあこがれであり、また騎士たちのあこがれでもある。

 浮浪の騎士ムハラトは、仕えるべき主を求めて各地をさまよい、行く先々で武勇を示し、騎士としての名を上げた。そして最後には、名声にふさわしい由緒ある大国の王に仕えたという。世間一般の認識で、旅の騎士とはそのようなものである。

 偉大なる冒険家、グレートナイト・ジャイム三世は王家の血筋。騎士にして高位の貴族。旅の騎士と耳にして、彼のような華麗な者を思い浮かべる者もいる。

 だから当然、アルサードの語りの騎士が、ホラインとは限らない。そもアルサードがホラインと面識のある詩人だとも限らない。

 そしてホライン自身もまた、何年も昔の酒場の一時をいちいち憶えていないのだ。

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