死者の思い
身内を殺され、憎しみのまま、すべてを捨てて仇を追った、白髪の男の三十年もの仇討ち旅。いかな思いで続けていたのか。
ホラインの語りを聞いた集落の若者たちは、少し態度を軟化させる。
「事情はわかった。だが、それはそれ。こちらにはこちらの事情というものがある」
「身内もおらぬ者ならば、悲しむ者も怒る者もおるまいよ。それなのに、なぜ止めるのだ」
ホラインは堂々答える。
「それは私が騎士だからだ。騎士たる者、非道を見すごすわけにはゆかぬ。何も手厚く葬れというわけではない。この男の墓は村から離れた場所に、私が一人で建てるゆえ。ただ少しでも彼を哀れに思うなら、安らかに眠らせてやってくれないか」
若者たちは、しぶしぶながら受け入れた。
「それなら勝手にするがいい」
「感謝する」
ホラインは白髪の男の亡骸を抱えたまま、集落を後にする。
◇
集落から遠く離れた岩場にて、ホラインは石を使って穴を掘り、白髪の男の亡骸を土深く埋めた。そして自慢の怪力で巨大な四角い岩石を、墓石代わりに上に乗せ、
復讐に囚われし男、ここに眠る。
仇を追いて三十年、ついに追い詰め、討ち果たすも、自らも死す。
相討ちの結末を知るすべもなく、
誰ぞあらぬか、彼の望み成就せしこと伝えられし者。
その御霊、安らかなれ。
ホラインは両手を組んで祈りを捧ぐ。
死者は何を思うのだろう。死ねば終わりと人は言うが、本当にそうなのだろうか。
無念のうちに死んだ男の魂は、何も知らぬままさまようのか。それとも今もこの場にあり、すべてを見ているのだろうか。……死した者は何も語らぬ。
ただ天青く、風がそよぎ、雲流るる。今生は生者のものなり。
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