復讐の果てに

 白髪の男に族長の死をどう伝えたら良いものかと、騎士ホラインは思案しながら空き家に入る。ところが男はまだ寝たまま。そればかりか少しも動いた様子がない。

 ホラインは不審に思い、白髪の男を起こしに向かう。


「これ、起きよ。大事な話が……」


 そう言って男の肩に触れた時、ホラインは理解した。


「……死んでおるのか」


 男はすでに事切れて、冷たく硬くなっていた。

 これも自分のせいだろうかと、ホラインは自責する。こうなるならば、決闘などさせねば良かった。そう思うが、後悔は先に立たぬもの。ゆえに後悔。

 ホラインは白髪の男が死んだことを、正直に集落の者に話すと決めた。死体を置いて一人去ることもできたが、騎士として無責任なふるまいは許されない。



 ホラインが白髪の男の亡骸なきがらを抱えて空き家を出てみると、集落の若者たちが武器を手にして待ち構えている。みな殺気立ち、ただならぬ様子。

 しかし、男の死体を見ると、みな動揺をあらわにした。


「そいつはどうした?」

「死んでおる。復讐を果たせなかったと思い込み、失意のうちに死したのだ」

「……それならば、その死体は置いてゆけ。そうすれば、お前のことは見逃そう」

「死体をどうするつもりなのだ?」

「お前の知るところではない!」


 そう言われ、「はい」と応じるホラインではない。


「亡骸をはずかしむるは外道なり。埋葬は丁重ていちょうになされるべし」


 ホラインと若者たちはにらみ合う。


 そこへ族長の子が間に割って入った。


「やめないか! 族長の最後の言葉を忘れたか!」


 だが、若者らは聞き入れない。


「これはメンツの問題ぞ」

「よそ者が我らの身内に手を出せばどうなるか、見せしめねばならんのだ」

「八つ裂きにして野にさらす!」


 いきり立つ若者たちに、ホラインは言う。


「どうか許してくれないか。復讐に囚われすぎれば、どうなるか……この男が身をもって示している。この男は――」


 ホラインは白髪の男のこれまでを語る。

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