族長の死

 ホラインが外に出ると、集落の若者がただ一人、空き家の表に立っていた。彼は真顔でホラインに問う。


「白髪の男は中にいるか?」

「まだ疲れて眠っておる。話なら後にしてやってくれぬか」


 ホラインの答えを聞いた若者は、少し間を置き、こう言った。


「それなら先にあんたに言おう。族長は死んだ」

「何と……はや」


 誰も死なずに終わるかと思いきや、族長が死んだと聞かされ、ホラインはショックを受ける。年寄りに命を懸けた決闘は酷だったのか。大きなケガをしたようには見えなかったが、打ちどころでも悪かったのか。決闘を続行させた判断が、誤りだったと後悔する。


 絶句する騎士ホラインに、若者は遠い目をして語りだす。


「気にむな。族長はずっと復讐を恐れていた。昨日あの白髪の男が現れて、これでもう終わりにできると言っていた。族長は、こうも言った。すべては因果応報だから誰も恨んでくれるなと」

「うむ……わかった、私から彼にそう伝えよう。しかし、そなたは何者なのだ?」


 これほど大事な話をしに訪ねてきた若者は、何者なのかとホラインは思う。

 若者は目を伏せて答えたる。


「族長の子だ」


 またホラインは絶句する。身内が死んで、その胸中はいかなものかと。


 沈痛な面持ちをするホラインに、族長の息子は告げる。


「誤解するな。我が父の遺言どおり、オレは誰も恨んでいない。人は死ぬもの。我が父も年老いて寿命だったのだ。それに、あの男もまた老いている。じきに死ぬ者を、あえて討とうとは思わない」


 いさぎよい男だとホラインは感服する。若者ながら憎しみに囚われず、情けをかける度量がある。

 族長の子は続けて彼に警告した。


「あの男の仇討ちは果たされた。早々にここをたれよ。いきさつはどうにせよ族長が死んだゆえ、部族には復讐する権利がある。長居はするな」

「ご忠告、感謝する」


 身内の死に関与した人物をいつまでも置いておけない理屈はわかる。誰もが仇を許せるわけではないのだから。中には顔など見たくもないという者もいるだろう。

 ホラインは白髪の男を起こしに戻る。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る