無念と後悔

 その夜中、ホラインは白髪の男に呼び起こされた。


「騎士様、起きろ。オレの話を聞いてくれ」


 何事かとホラインは起き上がるも、白髪の男はベッドに横になったまま。あたりはしんと静まり返り、物音一つ聞こえない。

 うすら寒い風が吹き、ホラインは小さく身震い。


「いったいどうした?」

「騎士様の言うとおり、独りよがりの仇討ちなどろくでもなかった。この三十年、ただ心に憎しみしかなく、他人様ひとさまに迷惑をかけまくったオレに比べて、あの男は人生をやり直し、小さな村の族長にまでなっていた。オレはいったい何をしていた……」


 自分に対する皮肉のこもった、投げやりな声。白髪の男は復讐もかなわず、自分を見失っていた。

 ホラインは哀れな彼をなぐさめる。


「気にするな。幸か不幸か決着つかず、両者ともに生き残った。これも運命と、前向きにとらえてはどうだろう? まだそなたには回心の余地がある」

「お言葉はありがたいが、もうオレには生き直す気力がない」

「気にしすぎるな。眠って起きれば朝が来る。人生には浮き沈みがあるものだ。今が底、明日は今日より良い日になる」


 白髪の男はしんみりこぼした。


「ありがとよ。騎士様に会えて良かった」

「礼には及ばぬ。迷える者を救うこと。これも騎士のつとめである」


 ホラインは堂々と答えたが、白髪の男の返事はない。しゃべり疲れて眠ったものとホラインは思い、自らも両目を閉ざして眠りに落ちた。


 ただ夜は静かに冷たく更けていく。



 翌朝、目覚めたホラインは、白髪の男に視線をやる。

 彼は横になったままホラインに背を向けて、ふて寝しているようだった。昨日の疲れがまだ残っているのだろうと思い、ホラインは彼を起こさず外に出る。

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