仇の顔
重苦しい沈黙がしばし続く。先に口を
「ところでお前、異国の男を見なかったか?」
「はて、異国と言われても……。どのような男かな?」
「とにかくサンの者ではない。年はオレと同じくらい。右ほおに横一文字の切り傷がある」
ホラインは今まで出会った人の顔を思い浮かべる。中には顔に傷がある者もいた。
だが、この男の仇とは思えない。
「知らぬなら良い」
白髪の男はごろりとベッドに横になり、ホラインに背中を向けてふて寝した。
騎士ホラインはため息一つ。これでは心休まらぬ。しょうがないから外に出て、時間つぶしにぶらりと散歩。
◇
サンの国は平原の国。乾いた大地に、どこまでも平野が広がる。それ以外は何もなく、地平線まで見通せる。目印になるものもなく、方角も分からないまま集落から離れると、たちまち道に迷ってしまう。
近隣の集落でさえ、数十里も離れている。戻れなければ獣の餌食。
ホラインは集落の外周を一回り。
草ぶきの簡素な家がまばらに並ぶ集落は、のどかものどか。静かな野に天高く鳥が鳴く。胸に抱く感想は、ただ
さほど大きくない集落、人探しに苦労はすまい。曠大な平原にぽつりぽつりとある集落を、白髪の男はしらみ潰しに探すつもりか。
白髪の男がどこの者かは知らないが、そこまでしても追わねばならぬものなのか。追う方も追う方なら、逃れる方も逃れる方。サンは大陸南端の国。野を越え山越え川越えて、
当人どうしのことだから、第三者が口を挟めた義理ではないが、ここで知ったも何かの縁、どれ結末を見届けようとホラインは密かに思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます