仇の顔

 重苦しい沈黙がしばし続く。先に口をいたのは白髪の男。


「ところでお前、異国の男を見なかったか?」

「はて、異国と言われても……。どのような男かな?」

「とにかくサンの者ではない。年はオレと同じくらい。右ほおに横一文字の切り傷がある」


 ホラインは今まで出会った人の顔を思い浮かべる。中には顔に傷がある者もいた。

だが、この男の仇とは思えない。


「知らぬなら良い」


 白髪の男はごろりとベッドに横になり、ホラインに背中を向けてふて寝した。

 騎士ホラインはため息一つ。これでは心休まらぬ。しょうがないから外に出て、時間つぶしにぶらりと散歩。



 サンの国は平原の国。乾いた大地に、どこまでも平野が広がる。それ以外は何もなく、地平線まで見通せる。目印になるものもなく、方角も分からないまま集落から離れると、たちまち道に迷ってしまう。

 近隣の集落でさえ、数十里も離れている。戻れなければ獣の餌食。


 ホラインは集落の外周を一回り。

 草ぶきの簡素な家がまばらに並ぶ集落は、のどかものどか。静かな野に天高く鳥が鳴く。胸に抱く感想は、ただ曠大こうだいの一言である。まさしく広く何もない。曠野こうやとは、こういう場所を言うのだろうと、ホラインはため息をつく。


 さほど大きくない集落、人探しに苦労はすまい。曠大な平原にぽつりぽつりとある集落を、白髪の男はしらみ潰しに探すつもりか。

 白髪の男がどこの者かは知らないが、そこまでしても追わねばならぬものなのか。追う方も追う方なら、逃れる方も逃れる方。サンは大陸南端の国。野を越え山越え川越えて、僻地へきちと呼ばれる所まで、よくも逃げたものである。


 当人どうしのことだから、第三者が口を挟めた義理ではないが、ここで知ったも何かの縁、どれ結末を見届けようとホラインは密かに思う。

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