一宿の恩
集落に滞在中、ホラインは自慢の力を役立てる。ことわざに「芸は身を助く」と言うが、そのとおり。胸を張って「これだ」と言える特技がある。これに勝れる幸いはない。
力自慢の助っ人は、どこにいてもありがたいもの。ここぞとばかり荷運びを手伝わされて、ホラインは引っぱりだこ。
一宿の恩返しだとホラインは力を貸すのを惜しまない。右へ左へ走り回り、大仕事を片づける。怪力無双も人のため。平和に尽くすがあるべき姿と騎士ホラインは一人思う。
一方で白髪の男は知らん顔。一人さびしく離れたところでしかめ顔。
放っておくも不親切だと、ホラインは白髪の男に呼びかけた。
「そなたも何か手伝わぬか」
「結構だ」
旅の恥はかき捨てと言うなれど、それは無法や非礼を許す言いわけにあらず。恩には恩で報いる姿勢に、旅人も何もない。
騎士として義理を重んずホラインはたまらず説教。
「何が結構か。人の世話になるのだから、少しは恩を返さぬか」
「馴れ合う気はない。恩知らずと思うなら、好きなだけののしるが良い。この命は死んだもの。死人に貸しも借りもない」
白髪の男はつれない態度。「フン」とそっぽを向いたまま、目を合わせることすらしない。
「やくざな男め」
やれやれとホラインはあきれるも、さりとて彼の気持ちもわかる。
人に触れ、優しくされたら、決意が鈍る。この男は復讐の鬼になろうと必死なのだ。そこまで深い恨みなら、おそらくは王や神をも恐るるまい。
騎士として神の教えに背く者は見すごせないが、無理に言っても聞きはすまい。
ホラインは彼が命を粗末にせぬよう、説得の機会をただ待つとした。
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