復讐者

 騎士ホラインは村の若者に案内された空き家にて、もう一人の旅人と出会う。


「少し狭いかもしれないが、二人で仲良く使ってくれよ」


 村の若者は薄情にも、それだけ言って去っていく。

 唐突に見知らぬ者と二人きり。これもまた旅のおもむきと、ホラインは旅人に話しかけた。


「私はベレトの騎士ホライン、よろしく頼む」


 旅人は白髪まじりの老いた男。見た目からして、ホラインより二回りは年上だ。いや、もっと年上なのかもしれない。しわの多い顔ながら、目は鋭く、口元も硬い。

 ただならぬ雰囲気にホラインは少し怯むも、話しかけるのをやめはしない。


「そなたはなぜサンの国に?」


 白髪の男は重々しく口を開く。


「復讐だ。かたきを追って、ここまで来た」


 彼もまた族長に「厄介ごとを持ち込むな」と警告された身なのだが、かけらも気にかけていない。

 もしも仇に会おうものなら、その場で即座に斬りかかるつもりでいる。そんな危うい雰囲気をホラインは読み取っていた。

 白髪の男はぽつりと言う。


「お前、騎士だと名乗ったな」

「ああ、そうだが……」

仇討あだうちの決闘は正当な権利である。邪魔をしてくれるなよ」


 ふつうなら関わり合いになりたくないと見すごすところ。

 だが、ホラインは騎士であるがゆえに譲れぬ。


「そうはいかぬ。そなたもまた族長と約束したはずであろう。外からの争いごとを持ち込まぬと」

「そんなもの、構わぬよ。仇を討てれば死んでも良い。死ねば何も残るまい」


 身を捨てる強い覚悟に、ホラインは口を閉ざす。思いつめた人間に、何を言っても逆効果。彼の耳には届くまい。

 ホラインは説得するのを保留して、それとなく事情を聞く。


「いったい何をされたのだ? そこまで許せぬ相手なのか」

「話したところで何になる。手伝うわけでもあるまいに」

「場合によっては、手伝おう。正義をなすは騎士のつとめ」


 ホラインはいたってまじめに答えたが、白髪の男は鼻で笑う。


「よしてくれ。人の手は借りたくない。これはオレの問題だ」


 取りつく島もない様子。ホラインはため息一つ、思案しながら手近なイスに腰を下ろす。

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